2-14 “化け物”、そしてフウコの攻撃
「ケースケ、もっと速く走って! 村がピンチなんだよ」
僕は全力で村に向けて駆けていた。はあはあ、フウコ、分かってる。でも、体がついて来ない。こんなに走ったの高校生の時のマラソン大会以来だけど、あの頃みたいには走れない。この世界に来てから運動不足は解消できてたけど、だからと言って急に長距離が速く走れるようになるわけじゃない。
とにかく気ばかりが焦る。フウコも追い風を吹かせてくれているけど、足が付いて来ない。くそ、こんなところで若さが失われていることに気付くとは。
でも、マカナが言うのが本当なら、事態は一刻を争う。もう少しで村に着くところまでは来た。みんな、無事でいてくれ。
その時、誰かの声が聞こえた。
「ケースケー!」
あれは、マラマちゃんだ。他に、何人か村人たちがいる。
「マラマちゃん、みんな、何が起こったの!?」
「でかい化け物が村に向かってきた! 私が自分の部屋にいたらエイン様の林の仕掛けが突然鳴って…」
「緊急事態のお知らせだね!」
そう、エインさんとマラマちゃんとの意思疎通について色々検討している時に、エインさんが緊急事態の場合のお知らせが出来るようにしたいと言ってくれたのだ。それで、木々に音の鳴る仕掛けを付けて、何かの時にはエインさんが音を鳴らすようになっていた。
マラマちゃんはうなずいて話を続けた。
「慌ててエイン様のところに行ったら、ツタが伸びてきて、林に近づけないように押し返されて。どういうことかってみんなで相談して、何か危機が迫っている、逃げろってことじゃないかっていう事になって、それで、女衆は逃げろってことになって」
マラマちゃんが焦った口調で言う。恐怖心とかでパニックになっているみたいだ。本当は落ち着かせてあげたいけど、他の村人が心配だ。
「マラマちゃん、ここは安全だから落ち着いて! 要点だけを短く伝えられる?」
マラマちゃんはうなずくと、大きく息を吸ってから言った。
「村から逃げるときに振り返ったら、林の向こうにでっかい化け物が見えた。どうしよう、兄ちゃんも長老もまだ村に居るかもしれない。私たちはケースケに知らせるようにってこっちに走って来てて」
マラマちゃんはそう言うと、怯えたように目を見開いて僕を見た。
「わかった。すぐ村に行く。大丈夫、僕とフウコで何とかするから」
僕はマラマちゃんを安心させようと、出来るだけ力強くうなずいた。マラマちゃんたちはどうする? 僕たちが守ってあげられたらいいけど、今から危険な所に行くんだよな。
「他の女の人たちは後ろから付いて来ているんだよね。じゃあ皆は一回その人たちと合流した後、出来るだけ安全な場所に移動して。化け物は僕たちが何とかするけど、他の魔物も出るかもしれないから、それにも気を付けて」
「うん」とうなずくマラマちゃんをその場に、僕はもう一度走り出した。後ろから「ケースケ、お願い!」というマラマちゃんの声が聞こえる。そちらを向いてガッツポーズをしたら、他のみんなも声を掛けてくれた。「ケースケさん、よろしくお願いします」「気を付けて!」
マラマちゃんたちを不安にさせてはいけないと思って虚勢を張ったけど、どんどん不安な気持ちが大きくなる。正直、マカナの勘違いじゃないかとか思っていたんだけど、巨大な化け物が村に来たことは確定した。
ただ、一応逃げる時間があったことはよかった。あとはエインさんや長老やトゥハンたちが無事なら大丈夫だ。エインさんは精霊だから、木が全て破壊されたりしない限りきっと大丈夫なはずだ。トゥハン、無理しないでくれよ。村が壊されても全員無事ならどうとでもなるんだから、最悪の事態だけは何とか避けてくれ。
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走り続ける僕にようやく村が見えてきた。そして、村の奥の方に見える林の上に、月明りに照らされてぼんやりと大きな頭か何かが見える。あれが“化け物”か。
村に駆け込んで叫んだ。
「誰か! 誰かいないか!」
返事は帰ってこない。え、みんないないの? 心臓がキュっとする。
「ケースケ、みんな林の方にいるみたい」
フウコが教えてくれた。よかった、みんな無事なのか。
林の方まで走っていくと、村人たちが見えてきた。
「みんな、無事?」
「ケースケ、戻ってくれたかっ!」
トゥハンが振り向いて言った。よかった、トゥハンは無事だ。
「状況を教えて」
「あの化け物が村の方に近づいてきている。最初は林を避けて村の方に向かっていたが、林からツタが伸びて林の方に引きずり込まれた。今もツタに縛り付けられているが、林の木々が何本も倒されている」
エインさんが頑張ってくれているんだ。そう思って林の方を見た。辺りは薄暗いけど、ようやく化け物が見えた。
なんだあれは。でかいカエルみたいな頭。それが6本脚の猛獣みたいな胴体にくっついている。脚も全部、林の木よりぶっといし、しっぽもでかいトカゲみたいなのが生えている。
そのよくわからない化け物に周りの木々からツタが伸びてきて絡まっている。化け物も体を振り回す様にしているけど、簡単には振り払えないようだ。だけど、化け物にもダメージは入って無さそうか?
その時、林の方から声がした。
「ケースケさんですね。早く村人を逃してください」
「エインさん、大丈夫ですか?」
「私ではこの魔物を倒せません。足止めも長くは持ちません。村人たちを逃がしたかったのですが、意思を伝えられず、困っていたところです」
化け物が大きく体を振るい、しっぽで木をなぎ倒した。
「この魔物の標的は村人のようです。ですので私の身を案ずる必要はありません。早く村人を逃してください」
だけど、そうはいっても林も傷ついているし、魔物の足も速そうだし、村も破壊されるかもしれない。化け物を倒してしまうのが最善手のはずだ。
「フウコ、出来るだけ強い攻撃をあいつに!」
「わかった!」
フウコが僕の腕をつかんで深く息を吸った。それに合わせて僕の魔力も吸い取られる。うお、これまでで一番たくさん持って行かれたかも。
「うおーーりゃーーー!」
フウコが叫びながら化け物の方に突っ込む。そして、化け物の頭の上に浮き上がると、両腕を頭の上にあげて勢いよく振り下ろした。
ぐわあっという音が鳴り響き、フウコの方から突風が吹いてくる。そして、僕の目には大きな刃のような風が化け物の首筋に吸い込まれるのが見えた。
ぐうおん。大きな鈍い音が聞こえた。え、もしかして切り裂けなかった? え、切り裂く技じゃなくて打撃技なの?
フウコが戻って来て情けなさそうな声を出した。
「ケースケー、やばいぃ、駄目だったあ。あいつすっごい硬いよー」
まじで? フウコでも切れないって反則だろ。それは本当にやばくないか。
化け物の方を見ると、前脚を折り曲げて頭が地面に叩きつけられたようになっていたけど、脚を踏ん張って体を起こそうとしている。そこに、周りの木々からのツタが首のあたりに絡まって押さえつけている。
「ケースケさん、やはり無理です。もう持ちません。早く逃げてください」
再び林の方からエインさんの声が聞こえた。これはさすがにどうにもならないか。とにかく長老やトゥハンたちと一緒に逃げ出すべきだ。急がないと!




