2-12 マラマちゃんとエインさんの“会話”、そしてマラマちゃんの過去
マラマちゃんと話した数日後、僕は、エインさんの林の前でひざまずいて2本の枝に手を伸ばすマラマちゃんを少し離れた所から見ていた。長老とトゥハンも一緒だ。フウコも僕の横でふわふわ浮いている。
「やっぱりマラマちゃんは可愛いな~、とか思ってんの?」
フウコがニヤニヤしながら言う。
「もうその話は止めようよ。エインさんもマラマちゃんも真面目にやってるんだから邪魔しちゃ悪いよ」
僕は小さな声で言う。邪魔になっちゃいけないということで、マラマちゃんとはちょっと離れた所にいる。だから僕の声は聞こえないと思うんだけど、長老やトゥハンには聞こえそうだし、その話題は返答に困るから止めて欲しい。
実際、この数日は苦行だった。なにせ、ずうっとフウコにいじられ続けた。ちょっとマラマちゃんが視界に入ったり、なにかマラマちゃんを連想させるものがあるだけで、すぐに僕はからかわれる羽目になった。
この世界に来てから命の危機を感じるような辛い思いをたくさんしてきたけど、こういう精神攻撃はまた別の苦しさがある。だが、フウコに大好物を提供してしまったのは僕の落ち度なので、今はじっと耐えるしかない。というか、フウコは恋バナが好きすぎじゃないかな。
そして、フウコはまだなにか言っているような気がするが無視することにして、マラマちゃんに注目する。
マラマちゃんが何をやっているかというと、エインさんとの意思疎通に挑戦しているのだ。
マラマちゃんが考えた方法、それは、マラマちゃんがエインさんに話しかけ、エインさんがそれをイエスかノーかで答えるというものだった。エインさんからマラマちゃんへの意思伝達の方法は色々と考えたけど、エインさんとも相談して、マラマちゃんが木の幹から伸びている枝を握るという方法に落ち着いた。
マラマちゃんの左手で握っている枝が震えたらイエス、右手の方が震えたらノーという返事になる。エインさんは張り切って、もっと沢山のことを伝えたいって言い出して大変だったんだけど、まずは簡単なやり方がいいだろうということで、この方法で納得してもらった。
「エイン様、ケースケの船を造るため、木材が必要なのですが、間引いていい木はありますか?」
木の下に立っているエインさんが笑顔で言った。
「はい、ありますよ!」
エインさん、喋ってもマラマちゃんには聞こえないですよ。でも、左の枝が少し揺れている木がするな。
「それでは、その木になにか印をつけていただくことはできますか?」
「わかりました! 間引いていい木にはツタを巻き付けておきますね!」
エインさん、そういう細かいことは伝わらないですよ。まあでも、ツタでもなんでも分かりやすい印をつけておいてもらえれば、僕が間に入らなくても何とか意思が伝わりそうかな。
「なんか、エインちゃんが楽しそうだねえ」
確かに、フウコが言うようにエインさんのテンションがいつもより高い気がする。
「そうだね」
「きっと、人間と話すのが嬉しいんだろうねえ」
そうかもしれない。エインさんは人間が嫌いじゃなさそうだ。かつてこの地にあったという精霊を信仰する国のことも、懐かしそうな口ぶりで話していたしね。
でも、それだけでもないかもしれないな。
僕がエインさんの気持ちに思いを馳せていたら、長老がつぶやくように言った。
「それにしても、なぜマラマだけがエイン様の存在を感じ取れるのであろうか?」
そう、それもある。そして、もしかしたら関係があるかもだけど…
「マラマちゃんは、時々林に行って泣いていたらしいですよ」
「えっ」と驚いたようにトゥハンが言い、長老もこちらを向いた。
「エインさんが見守ってくれていたらしいです。なぜ泣いていたのかは分かりませんが」
「そうか」と長老はつぶやき、マラマちゃんの方を向いた。
マラマちゃんは、引き続きエインさんとの“会話”を頑張っている。この方法が確立したら、マラマちゃんだけじゃなく村の誰でもエインさんとコミュニケーションが出来るようになるかもしれない。
でも、そうなってもマラマちゃんがその役割の中心になっていくのがいいのかもしれないな。エインさん係というか、もっといい言葉がありそうだけど、そういう役割をやるといいかもしれない。
なにしろ、今エインさんの前でひざまずいているマラマちゃんがすごく絵になっているんだもんな。なんというか、エインさんに対しての信頼感というか、敬虔さというか、そういうものが感じられるような気がする。
「ここにいるトゥハンとマラマの兄妹は、実は親を亡くしていてな」
長老がマラマちゃんの方を見ながら語り出した。トゥハンもじっとマラマちゃんの方を見つめている。
長老の話によると、トゥハンとマラマちゃんの両親は、村人たちがもともと住んでいた国の首都で働いていたらしい。そして、政争に巻き込まれて死んでしまったとのことだ。
トゥハンとマラマちゃんは、政争が始まる数年前にシバ族の里に送られてきたそうだ。そして、2人の親戚にあたる長老夫婦が育ててきたということだ。
「マラマも儂らの前では弱音を吐くことはないのだが、やはり寂しい気持ちはあったのであろうなあ」
マラマちゃんはそんな状況だったんだな。それなのに、泣きたいときには心配をかけないように1人になれる林の中に行って泣いていたんだな。
まだ子供みたいなものなのに、村の事も考えられて、エインさんとの意思疎通の方法も考えて、周りの人に心配をかけないように気も使って。僕があのぐらいの年の頃には、碌なことをやっていなかった気がする。マラマちゃんは本当にえらいよな。
そして、もしかしたら、よく林に行っていて気付かないうちにエインさんとの接触をしていたことが、マラマちゃんがエインさんの存在を感じられるようになった原因なのかもしれない。
でも、これも仮説の1つに過ぎないよな。他にも色々な可能性が考えられる。
ただ、精霊との接触が多いと魔力が増えやすいらしいし、何かしら精霊との接触は人間に影響を与えているようだ。
精霊との接触が多いと魔力が増えやすいというのは、エインさんに教えてもらった。昔、人間を観察していて気付いたことだそうだ。
なんでそんなことを教えてもらったかというと、マラマちゃんが普通にエインさんと会話したりする方法ってないのかと思って聞いてみたからだ。たしか、契約することで精霊と話したり出来るようになったはずだよなと思ったんだけど、それは難しかった。
「私はマラマちゃんなら契約してもいいのですが、魔力が足りないので危険ですね。場合によるとマラマちゃんの命に関わるかもしれません」
そうエインさんに教えてもらった。契約は怖いな。命に関わるらしい。僕も、フウコと契約とかできたらかっこいいかなと思っていたんだけど、気を付けよう。
ただ、魔力が増えれば可能性はあるという話の流れで、精霊との接触で魔力が増える可能性を教えてもらったのだった。
だから、マラマちゃんならいずれエインさんと契約できるかもしれない。契約すると、他にもいいことがあるみたいだし、もしそうなったら村のためにもいいことだろうな。2人も相思相愛みたいだしね。
さて、エインさんとの会話が終わったみたいでマラマちゃんがこちらを向いて手を振っている。コミュニケーションに問題があったかどうか、フィードバックのお時間だ。2人とも満足そうな顔をしているし、問題はなさそうだけど、ちゃんと改善点なんかを検討するのは大事だからね。




