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2-9 これからの身の振り方、そして長老の提案

 そういうわけで、村の水問題も解決に向かいつつある。「解決した」ではなく「向かいつつある」というのは、まだ井戸は出来ていないからだ。


 今は、村に井戸掘りの経験者がいたので、その指示のもとにみんなで作業している。


 僕は村には保護されているような立場だし、少しぐらいは力仕事も役に立っておこうかと手伝いを申し出たが、遠慮された。まあ、正直たいして役にも立てなそうだし、大変そうな仕事だし、手伝いを断られてほっとしたところもある。


 精霊の力を使えるなら役に立てるんだけど、それがないと、現代社会で生まれ育った僕なんてただのひ弱な役立たずなんだよな。井戸掘りもフウコの力をうまく使う方法とか考えたんだけど、何も思いつかなかったんだよね。


 まあ、ともかく、近い将来に安全な水を簡単に手に入れられる手段が手に入る事になるだろうし、村の課題はまた1つ解決されることになると思う。


 そう、僕が来てから、村の課題は1つ1つ解決されてきた。安全面、食料、素材の入手、そして水の楽な入手。現時点ではまだまだ低い水準なんだけど、これから村人たちの努力によって村は良い方に向かって行くことだろう。


 だから僕も、自分の身の振り方を考えた方がいいのかもしれないと思い始めている。


 僕が村に来てから、けっこう事件の連続だった。まず村の人に受け入れてもらうため、エインさんの力を村人に見せつけた。今思うと、しばらく村に住まわせてもらうために、精霊の協力を取り付け村の改善案を考案しデモンストレーションするって、かなりの無理ゲーだったな。職業:村開発コンサルタント精霊術師みたいな訳の分からない事になっている。


 その後も、川の汚染危機とか井戸とか、いろいろ大変なことが起こって、ゆっくり考える時間も取れなかった。いや、正確に言うと、ちょこちょこ時間はあったけど考えるのを先送りにしていたことがある。


 僕は、いつまでこの村にいるのだろう?


 もともと、ずっとこの村にいるつもりは無かった。元の世界に戻る方法を探すためには、おそらく都会の方に行く必要があるだろう。


 それでも、すぐに村から出ていかなかった理由はいくつかある。


 理由の1つは、村が安心安全な場所である事。なにしろ、突然1人で荒野のど真ん中に放り出されてサバイバル生活を強いられたものだから、こんな小さな村であっても安心感が半端ない。


 それに、実際のところ、けっこう居心地はいいんだよね。何しろ、村人みんなから感謝されたり尊敬されたりしている。ちょっとエインさんの所に行ってフウコと3人でおしゃべりしているだけでも、村人にはすごいことをしているように見えるのか、「いつもありがとうございます」とか言ってもらえるし、結構甘やかされている気がする。


 ただ、多分、それ以外の理由もある。それは、この村を見捨てられなかったということだ。


 おそらく、この村は僕が来なければ数年たたずに崩壊していたんじゃないだろうか。だって、安全、食事、飲料水、生活のための素材の入手に不安を抱えているって、ほとんど生活の基盤が出来ていないに等しい。


 そんななか、僕が村の苦境から目をそらして村から出ていくというのは、かなり良心が咎める決断だ。だから、僕は出ていくという選択を先送りしてきたところもある。なにしろ、村人たちは僕の命の恩人でもある。食べ物にも飲み水にも困っていた僕に、飲食や寝床を提供してくれた。情も湧いている。簡単にはお別れできないという気持ちも湧いている。


 でも、一宿一飯の恩というやつもそろそろ返し終わった気もする。それに、一応僕にも元の世界に戻るという村から出ていく目的はある。


 それに…、そろそろもうちょっとおいしいご飯も食べたいんだよね。いや、村のご飯がまずいというわけではない。むしろ、よくこんな状況でちゃんとおいしいご飯が作れるなって感心するぐらいだ。


 だけど、毎日毎食魔物の肉なのは、現代日本に生まれ育った僕としては辛いんだよね。料理のパターンは少ないし、何より米かパンが食べたい。そう、この村の食卓には炭水化物がないのだ。


 畑づくりは始まったから、もうすぐ新鮮な野菜は食べられるようになるだろう。エインさんの協力もあり、木の実や果物、野草なんかも手に入るようになるかもしれない。


 でも、やっぱり食べられないものも考えちゃうんだよな。異世界のスイーツってどうなんだろうとか、魚介類とか、いや、やっぱり炭水化物、できれば米。


 もうちょっと村が落ち着いたら、村を出ていくことも真剣に考えてみようか。


 でも、考えれば考えるほど、村を離れた方がいい理由と離れない方がいい理由がたくさん思いつく。


 フウコにもどうしたいか聞いてみた。「フウコはどっちでもいいよー」みたいな答えだった。そして、色々思い悩む僕を見て、こう言った。


 「人間はいろいろ大変だねー。精霊は留まりたかったら留まるし、動きたくなったら動くだけだけどねー」


 そうなんだね。僕も精霊みたいに気楽に生きられたらいいんだけどね。これはけっこう本心だ。


 まあでも、いろいろ考えたけど、もう少ししてからでもいいかな。せっかく村のみんなとも仲良くなれたし、それにどうしても急ぐ用事があるわけでも無いしな。


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 そんな風に優柔不断に悩んでいたことが顔に出ていたのか、長老に呼び出されたと思ったら、これからの事について聞かれた。


 「実際、儂らとしてはケースケの働きに実に助けられておる。いつまででも好きなだけこの村にいて欲しいという気持ちだ。だが、ケースケはどう思っているのだ?」


 お世辞で言ってくれているのかもしれないけど、胸が温かくなるような気分になる。僕の人生で人に必要とされることなんてあんまりなかったしな。


 だけど…


 「長老、この村に受け入れてくれたことはとても感謝しています。村の皆さんもとても優しくしていただいており、この村に不満があるわけではありません。ただ、僕も元の世界に戻るための方法を探さなければいけないですし、この村に永住するわけにもいかないのです」


 長老はこちらの目を見て真剣に聞いてくれた。そして、深くうなずくと言った。


 「儂もそうであろうと思っていた。ケースケはこの村の恩人。村を上げてこの荒野から脱出する手助けをしよう」


 ちょ、長老ー! うわ、長老が急に男前に見えてきた。なかなか言えないよ、こんな男気がある言葉。昔の嫌な上司に爪の垢を飲ませたい。


 「そうなると、荒野を抜ける方法だな。ケースケには何か良い考えがあるのか?」


 そうなんだよな。気持ちの問題とは別に、簡単に荒野からは脱出できないだろうということも、僕が決断できない理由の1つだ。


 フウコとか長老とかの話からすると、どうも恐らく人里まで徒歩では2~3カ月はかかるようだ。正直、かなりきつい。


 ちなみに、じゃあシバ族の人たちはどのようにしてここに来たかというと、大きな船で連れて来られたらしい。


 じゃあ、僕も船で移動できるかというと、これは微妙だそうだ。というのは、この世界の海にはやっかいな魔物がいるらしく、様々な魔道具を備えた船でなければ危険なんだそうだ。そして、そのような船は1国にも数隻しか保有されていないレベルらしい。


 だが、僕には精霊がいる。精霊チートでなんとか出来るのではないか。そう思って前にフウコに聞いてみたことがある。


 だが、これも確実とは言えないっぽい。なにしろフウコは風の精霊。空中では無双できるにせよ、水中の魔物相手だとそこまでじゃないらしい。索敵も困難になるし、海中から船底などを攻撃される恐れもある。


 「水の精霊の協力があれば、ワンチャンいけるかなーって感じかなぁ」


 だそうだ。命がかかっているのにワンチャンじゃなあ。まあでも川の精霊さんと相談する案件かなあ。


 僕が難しい顔をしていると、長老が言った。


 「ううむ、やはりケースケでも容易ではないか。そういうことなら、準備も兼ねて荒野の調査をして見る気はないか?」


 うん、荒野の調査とは?

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