2-8 土の大精霊さんの訪問、そしてスペシャルなおまけ
というわけで、“よごれ”については一応の決着を見た。
まあ、完全な解決にはなっていないが、よごれそのものを何とかするのはほとんど無理みたいな感じだし、よしとしたい。
少なくとも、シバ族の村が存続し、村人たちが精霊への敬意や感謝の気持ちを持ち続けるかぎり、あそこのよごれが村人たちに悪さをする可能性はかなり低いみたいだし、現実的にはよい解決策だったのではないかと思う。
ちなみに、空気中の毒を吹き飛ばすことで、他の地域に悪影響を与えていないかフウコに聞いてみたが、「ん-大丈夫だよ。ケースケは心配性だなあ。毒をすごい薄める感じで飛ばしたから、生き物とかには影響ないはずだよ」ということだった。
風の精霊という偉大な存在の言うことなので、当然もちろん信じたいと思う。本当を言うと、ちょっと心配なんだけど、どう考えても僕の力を超えた問題なので、そこは深く考えない事にしたい。僕のような矮小な人間が、あまり巨大な問題を背負い込んでもろくな事にならないだろうしね。
ただ、“よごれ”についてのこの僕や村人たちの頑張りには、ちょっとしたおまけがついてきた。いや、村人にとってはちょっとしたどころじゃなくて大ボーナスだったかも知れない。
土の大精霊さんが小山を作ってそのすごい偉大なる力を見せつけた3日後のこと。僕はエインさんの林の方に歩いていた。
エインさんのところにはちょくちょく顔を出すことにしている。エインさんから要望とかがあったら村人に伝えなきゃいけないしね。まあ、実際はこれまでのところ、何かを聞いても、
「はい、大丈夫です」
と笑顔で言われるだけだし、特段の問題は起こっていないけどね。
エインさんは優しくて人格者だよな。でもこういう人は怒ったら怖いんだろうな。人じゃなくて精霊だけど、きっと同じだ。
そんなとりとめのないことを考えながら、エインさんの林の方に歩いているとき、突然、体が震えだしてきた。そして、地面も揺れている。これってあの大精霊さんだよね。え、どうしたの?
そして、林の向こう側から大男が顔を覗かせた。
「うむ、中々良い村じゃな」
「ちょっとー。人間によくないから小さくなれっていうのにー」
「まあ気にするな、偉大なる存在には偉大なる大きさがよいのじゃ。すぐに小さくなってやる」
そういって、林の向こうの大男が小さくなり、林の陰に隠れる。と、今度は小さくなった土の大精霊さんが林の手前の方に生えてきた。
ほんと、自由なおじさんだ… 僕は小走りで駆け寄った。畑で作業していた村人たちが不安そうにしていたので、「大丈夫です。ただ、土の大精霊さんが来ているので、お話してきますね」と声をかけておいた。
土の大精霊さんのところまで来てみたら、小さな大精霊さんとエインさんとフウコで楽しそうにお話ししている。
えっと、どうしようかな。お待たせしたら悪いかと思って走ってきたんだけど、もしかして土の大精霊さんがただエインさんに会いに来ただけとかあるのかな? そしたら、急いで来た僕が自意識過剰みたいな気分で恥ずかしいんだけど。
「…まあ、お前が息災なようでなりよりじゃ」
「ほんとだよねー。林も全部枯れちゃうかもだったもんねー」
「はい、村人の皆様のおかげで、木々も最近は生き生きとしております」
そして、3体の精霊が、わはは、おほおと笑っている。このノリもよくわからんが、僕は今回は無関係なんだろうか。どうしよう、お邪魔虫はどこかに行った方がいいのかな?
「ところでそこの人間、ケースケと言ったな」
「は、はい!」
急にこっちに話しかけられたので、ビクッてしてしまった。
「なんじゃ。変な顔をしおって。せっかく偉大なる精霊たる我が足を運んでやったのじゃぞ」
「はいっ、ありがとうございます。それで、本日はどのようなご用件ですか?」
「うむ、お前の働きもあり、ここの村人たちは精霊と共によき暮らしを営み始めておる。この荒れた大地の中で木々が増えてきておるしな。そこで、我が褒美を与えてやろうと思ってな」
褒美? なんかくれるのか?
「では、お前の魔力を貰うぞ」
土の大精霊さんがそういうと、大地から腕が伸びてきて僕の腕を掴んだ。うん、やっぱりちょっとキモいな。怖いから言わないけど。
そして、僕の体から魔力が抜ける。お、ごっそり持って行ったな。
「ではやるぞ」
ん? 大地が揺れ始めた。うおっ、この揺れはかなり大きくないか? え、土の大精霊さん、この地震が褒美ですか?
やばい、もう立ってられないぐらいの揺れになった。くそ、いまこそ地震大国に生まれ育った僕の知識を生かす時だ! えっと、大きな地震の時にはビルの下から離れるとか、駄目だ、役に立たない事しか思い出せない!
「うぉ、なんじゃこれはっ」
後ろから声がしたので、しゃがみながらそちらを見てみると、長老が転んでいた。ちょっと、土の大精霊さん、村人にも迷惑かけてますけど、褒美を上げに来たんじゃなかったんでしたっけ? 結局、褒美ってなんなの!?
「ふん!」
土の大精霊さんがイキったら、僕たちのすぐ横の地面が割れた。そして、その奥から低いゴゴゴゴッという音がする。えっ、何が起こっているの!? もう色々起こって頭が真っ白になっていると…
「ポーン!」
そんな声と共に、誰かが地面の割れ目から飛び出してきた。なんか体操競技のフィニッシュみたいなポーズをしている。え、川の精霊さん?
僕はびっくりして精霊さんを見上げた。だが、割れ目からはまだ何か音がする。うおっ、割れ目から吹き出してきたのは!? あ、冷たっ。これ、水じゃね!?
そう、割れ目からは水が噴き出してきていた。
「エイヌディンバの森の精霊、久しぶりね」
「マカナラ川の精霊さん、お久しぶりです。いまはエインと名乗っています」
「あー、フウコがそんなこと言っていたわね。エインね、覚えておくわ」
「はい、ありがとうございます」
「ねーねー、川の精霊もなんかあだ名つけたら? かわいい奴!」
「えー、別に要らないけど。まあフウコってあだ名は似合ってると思うわよ」
地面の割れ目から噴き出した水でびしょびしょになった僕を無視して、フウコとエインさんと川の精霊さんでガールズトークが始まっちゃった。あと、後ろでは「なあっ!? 水が吹き出しておる!?」という長老の声も聞こえる。
「え、えっと、結局褒美って?」
「なんじゃ、村の人間どもは水を汲むのが大変だとか聞いたぞ。じゃから、我がわざわざ出向いてやったのじゃぞ」
「あ、そういうこと!?」
「なんじゃ、今気付いたのか、鈍い人間じゃの。この水はそのうち引いていくが、その割れ目のところを掘れば井戸になるじゃろう。では、我は帰るぞ」
お、帰るの、またねーという見送りの声を背に、土の大精霊さんは地面の下に沈んでいった。精霊はみんなマイペースだよな。
「ケ、ケースケ、何が起こったのだ!? この水はなんなのだ!?」
長老がこちらに走ってきて、叫んだ。あー、長老、大丈夫です。また精霊さんたちが暴走したんですけど、村にとってはとてもよいことが起こったと思いますよ。




