2-6 土の大精霊さんとの約定、そして偉大なる力
「そなたたちの我らへの敬意を認め、我は力を抑えよう。しかし、ゆめゆめ我らへの敬意を忘れてはならんことは伝えておく」
土の大精霊さんはそういうと、ちらっと僕を見る。あ、ここまでを伝えろってことね。
僕が村人たちに大精霊さんの言葉を伝えると、村人たちがいっせいに頭を下げた。子供たちも、大人たちが頭を下げたのを見て真似をする。
それを見た土の大精霊さんは、満足そうに言った。
「うむ。殊勝である。それでは、ケースケよ、まずは我とこの者たちとの約定を言うがよい」
おっと、そういう感じか。土の大精霊さんの考えは、すでに村人に伝えており、合意も取れている。だけど、両者がいるこの場で伝えることが大事なんだな。
「えーと、シバ族の村人たちは、よごれによって川が汚染されることを…」
「細かいことは言わんでもよいぞ。この者どもが提供するものと我が行うことを言えばよい」
あ、状況とか目的とか、ちゃんと背景についても説明した方がいいのかなと思ったけど、そういう面倒なのは不要だったようだ。くそ、会社で教わったやり方とは違ったか。
ちょっと敗北感を感じながら、約定について説明する。
「失礼しました。ここにいるシバ族の村の村人たちは、無理のない範囲で魔力を土の大精霊様に提供します。そして、土の大精霊様には、この先にある”よごれ”がマカナラ川に流れ込まないよう、そのお力を振るっていただきたいです」
「うむ、よかろう。我はそれを行おう… 村人の代表にも言わせるとよい」
「あ、はい」
村人の方を振り返ると、みんな不安そうに僕を見ていた。あ、ごめん、何を話してるかあんまり分からないよね。
「長老、土の大精霊さんは、さっきの僕の言ったことがOKだそうです。そして、村人の皆さんの意向を聞きたいとのことです」
「は、ははあー。土の大精霊様に申し上げます。ここにおりますは、シバ族の村人でございます。その全ての人間の総意でございますが、土の大精霊様におかれましては…」
しまった、長老の長話が始まっちゃった。一言「OKです」とかでいいんだけどな。そのことをちゃんと言うのを忘れていた。
でも、土の大精霊さんを見ると、なんか満足そうに聞いてるからまあいいのかな。僕が丁寧に説明しようとしたのは断られたけど、長老の話は長くてもいいんだな。僕もこういう風に話した方がいいのかなあ。あ、フウコ、あくびしなかった? みんなから見えないからいいけど、長老が知ったらショックだと思うよ。
そんなことを考えていたら、長老のうやうやしい長話が終わって、長老がまた「ははあー」って時代劇みたいな声をだしてお辞儀している。
それを見て、土の大精霊さんは満足そうに言った。
「人間にしては大変殊勝であり、よろしい。で、ケースケよ、結局この者が言っていたのは、さっきの話でよいということか?」
って、ずっこけそうになるから止めてくれ、みんな緊張して見ているんだから。土の大精霊さん、うやうやしい感じの長老を見て満足げだったけど、内容は全然聞いてなかったな。長老が可哀そうだよ。
「はい、大丈夫です」
まあ、僕も聞いてなかったんだけど、もう面倒だし代わりに返事しちゃうことにする。長老が違うこと言うわけないし、ちゃんとやると無駄な時間だけが過ぎそうだし。
「よかろう。それではまず魔力を貰おう」
土の大精霊さんがそう言うと、大精霊さんの右手が伸びていき、地面に刺さる。
ん? と思ってその右手を見つめていたら、土の大精霊さんが言った。
「なんじゃ。魔力を貰ってもよいのじゃろう?」
魔力を貰う? 不思議に思って村人の方を見てみると、地面から腕みたいなのが生えてきて村人の腕を握っている。
うわ、こういう感じか。正直ちょっとキモいな。フウコも仲良さそうだし、実は優しい感じだし、僕は土の大精霊さんを信用することにしているけど、この見た目だけだと、質の悪い魔物みたいだよな。村人が土の大精霊さんを見えないのはよかったのかもな。これを見えちゃうと、精霊を信頼できなくなりそうだ。
「それでは、十分な魔力がたまったゆえ、始めよう。偉大なる大精霊の力、とくと見るがよい」
なんか、セリフもちょっと悪役みたいな感じだよね。土の大精霊さんが偉大なのは、誰が見たって分かるんだから、自分で強調しなくてもいいんじゃないかと個人的には思う。怖いから言わないけどね!
だが、そんな僕の思いなどと無関係に、土の大精霊さんは満足げに右手を前に向けた。ちなみに、僕は村人たちのほうをチラ見してみたけど、みんなしっかり立っているし、そちらは大丈夫そうだ。
土の大精霊さんは右手を前に向けたままで固まっている。うん? 地面が揺れてないか?
うお!? よごれの方向から轟音が鳴り響いた。そちらを見ると、すごい砂煙が舞い上がっている。そして、地面の揺れも大きくなる。
「ケ、ケ、ケースケ!? だ、大丈夫なのだな?」
長老が悲鳴のような声で言った。
「問題ない。大精霊のなす技じゃぞ。心配するなと伝えよ」
土の大精霊さんが答えたので、僕は慌ててそれをみんなに伝える。
やがて、ゴゴゴっていう音がズズズっていう重低音に変わっていき、そしてしばらくして音も揺れも収まった。
それで? えっと、結局何がどうなったんだ? ん? あれって? よごれの方向に今までなかった小さな山ができている?
正確に言うと、よごれが大きな山の中腹のあたりの平らになったところに池のようにたまっていたんだけど、そのあたりにもう一つの小さな山が出来ていた。
これが大精霊の力か。分かってはいたけど、本当にとんでもない力なんだな。村人たちも、声も無いという感じだ。
「さて、それではせっかくなので、我の技がどれだけのものか見に行ってみるぞ。フウコ、やるがよい」
「うん。ケースケ、今度はフウコが村人たちから魔力を貰うよ。伝えてちょうだい!」
うお、精霊たちが勝手に話を進めていこうとしている。いや、打ち合わせ通りではあるんだけど、もうちょっと感動する時間とかもあってもいいかなと思うんだよな。




