2 このままじゃ死んじゃうかも!? そして初めての魔法
なんか呑気な感じの精霊さんとお話ししてて、危機感が無くなってきていたけど、これってもしかして命に関わる状況じゃないか。
そして、精霊さんは「やばい、人間ってそんなにすぐ死ぬんだっけ」って物騒なことをつぶやいたあと変なポーズで固まっている。とりあえず精霊さんに声をかけよう。
「落ち着いて、まだ死ぬって決まったわけじゃないから」
「はっ、そうなんだね! せっかくお話しできたのにもう死んじゃうのかと思って悲しくなってたよ!」
うん、簡単に死ぬとか言わないでほしいよね。こっちも焦ってはいるんだからね。
「とりあえず、飲み物も少しはあるし、水を飲まなくても数日は持つはずだから、その間に人のいるところまでたどり着けば大丈夫」
「なるほど! じゃあ急いで人のところへ行こう!」
よし、そうしよう! と言いたいところだが、もうちょっと色々考えたいところだな。この精霊さん、どうもこちらに好意的な感じだからありがたいんだけど、ちょっとせっかちというかおっちょこちょいな感じだから、こちらが慎重にならないといけない気がする。
「ちなみに、君が人のところに行って助けを求めるっていうのはできないかな?」
「え、それはさすがに無理だよー」
そうだよな。精霊さんにもいろいろ都合とかあるだろうしね。
「そうか。無理を言ってごめんね」
「ううん、できればやってあげたいんだけど、普通は精霊を見たり声を聞いたりできないからね。お兄さん以外の人とは話したりできないんだよね」
うん、そうなのか?
「僕には普通に見えるし声も聞こえるけど?」
「そんな人初めてだよ! びっくりだよ!」
「そうなのか」
なんかチート持ちみたいでちょっとテンションがあがる。
「そうだよ! 普通は精霊と契約して魔力を使ってようやくかすかに見たり聞いたりできるんだから!」
うん、僕以外だれにもできないってわけじゃないんだな。ちょっとした特技ぐらいの感じだ。変な風にテンションが上がる前に気付いて良かった。勘違いで調子に乗ると後で恥ずかしいからな。
「じゃあさ、水分を得られる方法はないかな。例えば近くに動物とかいないかな」
動物がいれば血を飲める。血を飲んでも大丈夫なのかとか思ったけど、すっぽんの血を飲むとか聞いたことがあるし、多分大丈夫だろう。感染症とかいろいろ気になるけど、背に腹は代えられないし、人と会うか水場にたどり着くまでの一時しのぎにはなるだろう。
「動物はいないかな。この辺にいるのは魔物ぐらいだよ」
魔物はいるんだな。やっぱりここはファンタジー世界だった。そして、もしかしなくても魔物って危険だよね。どうもこれ、かなりやばいんじゃないか?
「魔物がいるのか。僕は戦いの経験とか無いけど、まずいよね」
「うん、普通ならまずいね。まあでも、ここは私に任せてもらいましょう!」
精霊さんが胸を張って宣言した。なんか精霊さんが自信ありげだし、これはなんとかなりそうか?
「お任せしちゃっても大丈夫な感じ?」
「だいじょーぶ! でもお兄さんの魔力は貰うからね」
「魔力はあげてもいいものなのかな? というか、僕って魔力を持ってるよね?」
「え? 魔力は誰でも持っていると思うよ。お兄さんのいた世界では違うの?」
「僕のいた世界、魔法とか無かったからなあ。魔力もわかんないよね」
「はぁ? 魔法がない!? そんな世界があるの!? びっくりだよ!」
そうか、魔法が当たり前の世界からすると、魔法が無いっていうのはそういう反応になるのか。
「魔力がないとやばいよね」
「それはやばい! 私もお手伝いできなくなっちゃう!」
そうなのか…
「えっとね、どう説明したらいいかな。つまり、私たち精霊は基本、自然のことわりに沿った形でしか力を行使できないのね。私は風の精霊で、普通に風を吹かせることとかは結構自由にできるんだけど、魔物を倒すぐらいの力は人間とかから魔力をもらわないと使えないんだよね」
つまり、自然な感じで風を吹かせるみたいなことは簡単にできるけど、それ以上のことは人間の魔力を精霊が使う感じでやるってことか。
あと、この精霊さんは風の精霊だということが分かった。他にもきっと色んな精霊がいるんだろうな。
「魔力があるかどうやったらわかるかな?」
魔法を使ったらわかるのだろうか。魔法か、詠唱とかするんだろうか。
「まあじゃあ、とりま私がお兄さんの魔力を使って魔法を撃ってみますか」
おぅ、いきなり魔力を使われるのか。あと、「とりま」って確かギャル用語だよな。この世界の言葉ってどうなっているんだろう。
っていきなり精霊さんが近づいてきて、両手で僕の右手を握った。ちょっと近いよ。そして、精霊さんが僕の方を向いて言った。
「魔力をもらおうとするから、拒否をしないでね」
すると、体からなにかが抜けて行こうとする感覚がする。お、大丈夫なのか? 拒否しないんだよな。なにかが抜けていくのに任せる。
精霊さんが小さくうなずいて、右手を掲げ、振り下ろす。
「えーい!」
一瞬の静寂のあと、ズパァという音が鳴り響いた。えっ、精霊さんのほうを見ていたからはっきり見えなかったけど、今、50メートルぐらい離れたところにあった岩が斜めに真っ二つになった!?
す、すごい。あの岩、3メートルぐらいはありそうか。上側が地面にずり落ちたみたいになってるんだけど。
「どうよどうよ、これが精霊魔法よ、どう思うよ!」
精霊さんがすごいどや顔をしている。
「めちゃくちゃすごい。びっくりして腰が抜けるかと思った」
「まあねー! 私はけっこうすごい精霊だからねー! このぐらいはお茶の子さいさいってやつだよねー!」
精霊さんがうれしそうに空中をくるくる回りだした。まあでも、どれだけ大げさに褒めてもいいぐらいにはすごいよな。元の世界で言えば、バズーカとかには匹敵するんじゃないだろうか。
「さっき精霊さんに手を握られたとき、何かが体から抜けた感じがしたんだけど、あれが魔力だよね」
「そうそう。ばっちり魔力があって良かったね」
「さっきの魔法ってこの世界でもすごいほうなの? 同じぐらいの事ができる人間とか魔物とかもいるのかな?」
「そうだねー。今ぐらいのことができるのは、ほとんどいないんじゃないかなー。まあでも、私も本気を出せば、もっとすごいことも出来ちゃうけどねー!」
もっとすごいことも出来ちゃうらしい。え、精霊さんってかなりチートなんじゃないか。
「というわけで、死なないように出発だね! この先が楽しみだね! じゃあ行こうかー!」
うん、精霊さんは楽しそうだけど、僕はそこまで心の余裕は無いよね。まあ、でも、希望が見えてきたかもしれない。




