2-1 村の発展、そしてトゥハンの魔物狩り
「ケースケさん、フウコ様、こんにちは」
村人がすれ違った時に挨拶してくれたので、僕とフウコも挨拶を返す。
「こんにちは」「こんにちはっ!」
そしてフウコがのたまった。
「いやー、挨拶っていいよねえー」
何がいいのか分からないけど、フウコはいま挨拶にハマっているらしい。挨拶なんて精霊どうしでもやるだろうに、人間の挨拶は何か違うのだろうか。そしてもちろん、精霊であるフウコの声は村人には聞こえていない。
僕も最初は、フウコの言葉を全部村人に伝えようとしたけど、どうでもいい話が多いんじゃないかという気がしてきて、少しずつ伝言が少なくなくなってきた。今では、こちらが重要だともう事だけ伝えていて、フウコも村人もほぼ気にしていない感じになっている。
まあ、それはともかく、木の精霊エインさんとシバ族の村の村人たちとの話し合いから10日後、僕たちは村人たちから笑顔で挨拶してもらえる程度には村に溶け込んでいた。
そして、この10日間で村の様子はずいぶん変わってきた。例えば植林も始まった。いまはまだ、林のふちの方に若木が植えてあるぐらいにしか見えないが、いずれは木々が村を取り囲むようになるはずだ。
それから、畑づくりが始まった。実は、話し合いの時に畑を作れるか聞かれて、エインさんが「素敵なアイデアですね。大丈夫ですよ」といつものように笑顔で請け合ってくれていたのだった。
そして、畑はもう稼働している。とりあえず、祈りの場の横に家庭菜園ぐらいの小さな畑が作られた。もう芽が出ているので、エインさんに聞いてみたら、近いうちに収穫できるらしい。さすが木の精霊さん、成長もとんでもなく早いんだなと思ったけど、そういう訳じゃなくて、村が所有している植物の種のうち、すぐ収穫できるものを植えただけだったらしい。
とはいうものの、この荒野で作物を育てるのは非常に難しいみたいなので、順調な成長ぶりはエインさんのおかげなんだろう。
畑が祈りの場の横になったせいで、長老あたりが真剣に祈っている横でおばさんが畑に水をやっていたりと、ややシュールな光景が見られたりもするけど、畑ができるのは僕も楽しみだ。なにしろ野菜が食べられるようになるってことだしね。
そんな感じで、とりあえず衣食住は最低限のものが得られた。欲を言えば、肉以外ももっと食べたいな、特に米とか、魚も欲しいよな、調味料だって… そんな感じで本当はいろいろあるんだけど、まあ贅沢というものだろう。村人みんな同じような環境だしね。むしろ、1日2食の村の習慣なのに、僕だけこそっと昼ごろ干し肉を貰ったり、けっこう優遇されている感じもするし。
あと、部屋は独身男性が集まった住居に仕切りがあって、一応個室みたいな感じになっている。僕はこの辺あんまり気にならない方だけど、デリケートな人が異世界転移してたら大変だっただろうなと思う。
まあ、そんなわけで、現代日本の贅沢とは比較にもならないとはいえ、今の環境にはけっこう満足感がある。とにかく、安全な環境が得られたのが一番有難い。短い期間だったけど、荒野をさ迷った時の心細さや不安なんかを思うと、飲食を確実に手に入れられ、家の中で眠ることのできるだけでも安心感で幸せになる。
でも、命の危険を意識しなくても良くなったせいか、夜空を見ながらちょっとセンチな気持ちになったりもした。両親は心配をしているのだろうか。弟が慰めてくれるだろうか。会社にも迷惑をかけているのだろうな。いろんな思いが湧いてくる。
その時はフウコも一緒に夜空を見上げていた。付き合ってくれてたのか気まぐれかは分からない。でも1人でいるよりましな気がした。
ちなみに、フウコやエインさんに、元の世界を戻る方法に心当たりはないか聞いてみたが、まったく分からないらしい。もしかしたら、すごく古くから存在する精霊なら、多くの知識があるので、何か知っているかもということだ。
長老にも聞いてみたが、長老にも心当たりはないそうだった。ちなみに、長老は僕が異世界から来たことをトゥハンに口止めしてくれていた。「村人たちに不安を与えたくないですからな」と言っていたが、僕の個人情報が広がるのを防ぐ意味もあるのだろう。知っているのは、長老、トゥハン、それから長老の奥さんだけだそうだ。うん、やっぱり奥さんに秘密はよくないよね。
それから、この10日間の出来事でいえば、長老に頼まれて魔物狩りにも行った。
なんでも、魔物を狩るのは肉のためだけではなく、様々な素材のためでもあるらしい。魔石なんかもそうだけど、皮とか牙なんかも素材になりえるらしい。
ただ、もちろん強い魔物は狩るのも危険が伴う。そういうわけで、強い魔物を狙った狩りには躊躇していたのだが、今は状況が違う。
そう、僕がいる! と言いたいところだが、もちろん期待されているのはフウコの力だ。
幸い、フウコに打診したところ、「オッケー、楽しそうだねー」と二つ返事で引き受けてくれた。
魔物狩り自体はつつがなく行えた。狩りに同行していたトゥハンや村の若者たちが、フウコの魔法を見て驚きの声を上げていたのがひそかに嬉しかったぐらいだ。そうだよね、でかい魔物が簡単に切り裂かれるのをみたらびっくりするよね。わかるわかる、最初は僕もそうだったからね。
それはそれとして、狩りにいってよかったと思えることがいくつかあった。その1つは、この世界の狩りのやり方を知れたことだ。
目標の魔物がいる地域に行く途中で、狼みたいな魔物の小さな群れに襲われたのだが、そいつらをトゥハンが倒してくれたのだ。
あれはなかなかすごかった。トゥハンはまず、腰に下げていた短剣を抜いた。そんな短い剣でどうするのかと思ったら、それを魔物に向け叫んだ。
「大地の牙よ! その力を振るい我が敵を嚙み砕け!」
すると、魔物の足元から尖った岩が何本も飛び出してきて、魔物を貫いた。
うお、これはもしや詠唱というやつじゃないか! すごいぞトゥハン! びっくりしたので、戦闘後に色々聞いてみた。あの短剣は、村の秘蔵の魔道具らしい。そして、詠唱によって、誰でも同じ魔法が使うことができるらしい。
そして、魔道具というものは魔石の力で魔法が発生するのだそうだ。トゥハンの持っている短剣の場合、柄の部分が魔石入れになっていて、そこに魔石を入れておかないと魔法が発生しない。
その魔石というのが、魔物の体にあるあの魔石だ。魔石は消耗品らしく、魔法を何度か使うと魔石は割れて使い物にならなくなるらしい。
トゥハンには「というか、魔法というのは普通、このような魔道具を使うことにより発生させるものなのだぞ」と、すこし呆れたように言われた。仕方ないじゃないか、僕は異世界人なんだからこの世界の常識は知らないし。
まあでも、数少ない僕が異世界から来た人間だということを知っているトゥハンに魔道具のことを教わって良かった。他の人に聞いていたら、怪しまれていたところだ。
そう思いながら、同行している他の村人を振り返って見てみると、みんな見て見ぬふりをしてくれていた。多分、もう怪しまれているけど、何も気付かないふりをしてくれているんだろうな。
とりあえず、村人がみんないい人で良かったと思うことにした。もしかしたら、面倒なことに巻き込まれないように、何も聞いていないふりをしている人もいるかもだけど。
それから、狩りを通してトゥハンと少し仲良くなれたのもよかった。
もともと、エインさんと村人の話し合いのあとでトゥハンには謝罪されている。これまでの失礼な物言い云々という感じだ。
確かに、思い返すとトゥハンにはけっこうきついこと言われたかもな。でも、あの状況ならしょうがないとも思うし、最初に村にたどり着いたときにすぐ水を飲ませてくれようとしたし、僕はトゥハンにそんなに悪い印象を持っていない。
そういうわけで、別に気にしていないと伝えた。だけど、そのあともちょっと気まずい感じだったんだけど、この狩りを通じて割と自然に話せるようになったと思う。
そして、トゥハンは僕に一目おいてくれている感じだ。これもフウコやエインさんのおかげだな。自分の力ではないのがちょっと悲しいところだけど、まあそれでも悪い気はしないな。
更新がちょっと遅くなり申し訳ありません。
明日はいつもの時間に更新できるかなと思います。




