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1-15 村人たちの接近、そして木の精霊さんからのお話し

 声の方を見てみると、トゥハンの後ろにいた女の子が、こちらに向かって歩いてきている。


 「おい、マラマ! 危険だ、そいつに近づくな!」


 トゥハンが女の子に声をかける。ああ、やっぱり危険だと思われていたんだな… うすうす気付いていたけど、直接言われるとちょっとショックだ。トゥハン、僕はけっこう人畜無害だよ…


 そんな僕の気持ちとは関係なく、マラマと呼ばれた女の子はじっと木の方を見て歩いてくる。うん? 木の方というか、エインさんの方を見てないか?


 その子は、僕たちの前で立ち止まると、僕とエインさんの2人の方を向いて、「木に触ってもいい?」と聞いた。


 僕はエインさんの方を向いた。エインさんはその子に向かって、「いいですよ」と答えた。フウコも、「触りなよ!」と言った。でも、その子は無表情のまま動かなかったので、僕も「いいよ」と言った。


 するとその子は、恐る恐るといった感じで、木の幹に手を伸ばす。


 木の幹に触り、そっと表面を撫でている。僕は、「実も食べてみる? ちょっと酸っぱいけど」と聞いてみた。


 その子は僕の方を見てうなずいた。そこで僕は、もう一つの実をもぎってその子に渡した。


 「マラマ、大丈夫なのか!?」とトゥハンの声がする。気が付いたら、トゥハンもこちらに近づいて来ていた。その後ろには、恐る恐るという感じで長老や他の村人たちも続いている。


 マラマは、実をかじり、ちょっと顔をしかめた。やっぱり酸っぱかったか。でも、何か納得したようにうなずき、村人たちの方に顔を向ける。


 「お兄ちゃん、精霊様たちは多分いい人たちだよ」


 「そうそう、私たちはいい人たちだよ! 人じゃないけど!」とフウコが嬉しそうに言う。フウコ、マラマちゃんにも精霊の声は聞こえないみたいだよ。というか、フウコのことは見えていないのか? 精霊が見えていると思ったのは見間違いかな?


 「マラマ、あまり無茶なことをするな」


 そうしてじっとフウコの方を見ていたマラマちゃんをトゥハンがそっと抱き寄せた。


 村人たちも、みんな木の周りに来ており、マラマちゃんたちを見守っていたり、新しく生まれた木を不思議そうに見ていたりする。


 お、これはどうも雰囲気が変わったかな。マラマちゃんのおかげだ。このチャンスをなんとか生かさなくては。


 さてどうする? 村人の方を見回すと、長老と目が合った。


 「長老、いかがでしょう。これらは皆様でも可能な方法だと思うのですが」


 「うむ… 確かに、先ほどから目にした事には驚くばかりだ。それがもし儂らでも問題なく出来るということであれば、確実に村の力になろう」


 よしっ! 奇跡のデモンストレーション大成功だ!


 「だが、ケースケ殿は先ほど精霊様との“約束”ということを口にされたな。そのことについてもお聞きしたい」


 そうだった。まだ約束についての話があるんだった。色々と大変なことがあったので忘れるところでした。


 もう一息、頑張るしかないと気持ちを入れなおしていた時、意外な人、いや存在からの発言があった。


 「ケースケさん、約束については私からお話しさせていただけませんか」


 え、まさかのエインさんからの直接交渉の申し出だ。だけど、話すっていっても、エインさんの声は村人たちには聞こえないし、僕が通訳をするんだよな。いや通訳というより伝言係か。


 それに、精霊さんにこういう交渉事とかは向いていない気がする。向いていないというより、精霊と人間で常識や認識が違いすぎたりして、そのせいで要らぬ誤解が生まれたりしそうな気がする。


 でも、約束は村とエインさんの間で結ばれるものだ。僕がしゃしゃり出るのも違うよな。それに、僕が話せばうまくいくなんていう自信は無い。元からそんなもの無いけど、今日でますます無くなった。


 よし、ここはエインさんに任せよう。うまくいくという確信は無いけど、それが一番後悔しない気がする。


 「約束については、ここにいる木の精霊さんが直接説明します。そして、それを私がそのまま皆様にお伝えします」


 そう長老に向かって言い、エインさんにうなずく。


 エインさんは僕にうなずき返し、村人たちの方を向いて話し始めた。


 「シバ族の皆様、私はこの林に宿る精霊です。かつてはエイヌディンバの森の精霊と呼ばれておりましたが、今はケースケさんにつけてもらったエインというあだ名がありますので、その名で呼んでいただければ幸いです」


 僕はその言葉をそのまま村人たちに伝える。トゥハンやマラマちゃん、木を見ていた村人らも全員僕に注目している。


 「シバ族の皆様がこの地に来てのち、あくまでこの林の中や近くに限りますが、皆様の言動は見聞きしております。この林の木々を乱暴に伐りつくしたりせず、むしろ木材や野草を得ようとした場合でも、木々や自然をいたわるようにしていたことも知っています」


 僕がその言葉を伝えると、長老が驚いたように目を見開いた。そりゃあびっくりするよな。無人の林での行動を見られているとは思わないもんな。


 「そのような心掛けを持った隣人が得られたことを私は大変うれしく思っております。これまでの皆様の行動に感謝いたします」


 そうだったんだな。エインさんは村人たちのことをもうすでに理解していて、彼らを助けたいと思っていたんだな。もちろん、最初に言っていた、この地に自然を取り戻したいというのも本当の気持ちだろうが、それだけじゃなく、村人たちの力になりたいという思いは、僕たちと話す前から持っていたんだろう。


 「それでは、私からお願いしたいことをお話しいたします」


 さあ、ここからが勝負だ。ただ、村人たちはとても真剣に聞いてくれている。きっと大丈夫なはずだ。


 「まずは、木々を増やしていただくこと。つまり、ケースケさんが先ほどやったように、木を植え、土に栄養を与え、水を与えること。ただ、ゆっくりであっても、少しづつでも大丈夫です」


 トゥハンが小さくうなずくのが見えた。僕を警戒していたトゥハンも、ここにきて僕たちの言葉に理解を示しているのかもしれない。


 「もう1つは、皆様の魔力を少し貰うこと。これは、先ほど見ていただいたような強力な力は、皆様の魔力を使わないとこの世界に現出させることができないためです。これも、皆様の負担にならない程度で大丈夫です」


 そうなのだ。実は、精霊は僕じゃなくても誰からでも魔力を貰うことでその魔法が使えるのだ。


 ただし、僕の場合は、精霊が見えるし話せるから、精霊が魔力を貰いたがっているのも分かり、それに合わせて魔力を与えればいい。まあ、魔力を与えるというか、僕の感覚だと魔力が吸われるのに抵抗しないという感じだけど。


 だけど、精霊とのコミュニケーションが出来ない場合には、精霊が魔力を貰おうとしても、人がそれに合わせて魔力を与えるということができない。というか、多分だけど精霊が魔力を貰おうとしていること自体、普通の人間には認識できないんじゃないかと思う。


 「魔力を貰うやり方としては、そのための場所を定め、皆様にはその場所にて私に魔力を与えることを願ってもらうのがよいと思います」


 そして、かつて存在した精霊を信仰する国では、その場所を祈りの場と呼んでいたらしい。その国では、精霊は守り神のような認識だったんだろうな。人々は祈りの場で精霊に祈りを捧げ、精霊はそこで人々の魔力を受け取り、人々の願いを果たす様に力を行使する。


 人は、“祈りの場”で魔力を精霊に与えることを願う。精霊は、“祈りの場”にいる人から魔力を受け取ろうとする。結果、直接の意思疎通無しで魔力の受け渡しが行われる。聞いてみると大変有効で強力なやり方だ。なぜこのやり方は現代に伝わっていないんだろう。何かこの世界の闇を感じる。


 しかし、今はかつて存在した精霊大国に思いを馳せている時ではない。伝言係の僕がちゃんとエインさんの話についていかなくては、文字通り話が進まない。疲れていても伝言を止めるわけにはいかない! 最後の力を振り絞れ、僕!

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