1-14 林の拡張のご提案、そしてデモンストレーションは以上となります
僕はトゥハンの方を向いて言った。
「それでは、小さな林では村を守れないかというご意見についてですが、精霊が力をふるえば、林を拡大することは比較的容易です」
そして、これが本日のもう一つの注目ポイントだ。もうかなり疲れを感じるけど、もうひと踏ん張り頑張ろう。
「林を拡大か… 確かに儂らももし木々を増やすことが出来れば、今以上にその恩恵が受けられるのではと考えたことはある」
おっと、長老ナイスアシスト!
「そうでしょう! 木の精霊も、負担の無い範囲で木材や木の実などを提供できると言っております!」
そう、今回の提案は、魔物対策だけではない。木々の恵みは様々に生活の向上に貢献するはずだ、多分だけど。なにしろ、この村みたいな自給自足の生活は経験したことがないので、想像でしかないんだよね。
「それで、林の拡大とは? それも見せてもらえるのであろう?」
「はい、いまからお見せいたします」
僕は林に近づいて行った。みんなもついて来てくれるかなと思ったけど、ついて来てくれたのはフウコだけだった。まあ、みんな林が怖くなっているのかな。さっきのデモンストレーションは、やっぱり過激すぎたのかもな。
ちょっと反省しながら林に近づくと、林の中にいたエインさんと目があった。
「ケースケさん、頑張りましょう」
エインさんが力強く言った。
「そうだよ! ケースケ、頑張れー!」
フウコも応援してくれる。
そうだ、まだデモンストレーションの途中だ。落ち込んでいる場合ではない。しっかり頑張ろう。
「フウコ、枝をお願い」
フウコの方を見てそういうと、手前に伸びた葉が茂った枝が切られて落ちた。
僕はその50センチぐらいの枝を拾って、村人の方を振り返る。
「今、木の枝を落としたのは風の精霊の技ですが、これから起こることは木の精霊の力となります」
みんなに聞こえるように大きな声で言う。みんなももう少し近づいてくれた方がやりやすいんだけど、仕方ない。せいぜい大きな声でしゃべろう。
僕はその枝を地面に突き刺そうとした。あれ、地面が硬くて突き刺せない。しまった、予定外だ。
あわてて屈んで手で地面を掘ろうとする。まいったな、村でショベルでも借りておけばよかった。こんなとこであんまり待たせると見ている人の気持ちも冷めちゃうかもしれない。うーん、うまく掘れない。
その時、地面に鋭く亀裂が入る。見上げると、フウコがサムズアップしている。小さな声で、「フウコ、ありがとう」というと、フウコがまあねって感じの顔をした。この世界にもサムズアップのポーズがあるんだな。
亀裂の所に枝を挿し、周りの土をその周りに集め、枝が倒れないようにする。短い枝だけど、葉っぱも付いているし、小さな木のように見えなくもない。
僕は顔を上げ、村人たちに言った。
「木を育てるために必要なものは、土からの栄養、水、それから太陽の光です。幸い、この地には十分な太陽の光があります」
エインさんが「ちょっと不正確な説明というか、大雑把すぎる気がしますが…」とつぶやいているが、ここは無視だ。分かりやすい説明のためには、正確さを犠牲にしなければならないこともあるのだ。
「土の栄養は様々なものから得られます。例えば、魔物の死体もそうです」
僕は、先ほどエインさんが倒したリュカプの死骸に近づき、そのうちの1頭を地面に刺した枝の方まで引きずろうとする。お、重い。魔物の体って重いんだな。僕の想像だと、簡単に引きずれたのに、やっぱり練習しておかないと想定外がおこるなあ。
頑張ってうんうん引っ張っていたら、林からツタが伸びてきて引きずるのを手伝ってくれた。エインさんの方を向いたら笑顔でうなずいてくれたので、こちらもうなずく。
「土に栄養を与えるためには、地面に穴を掘り、そこに栄養となるものを埋めるのが効果的です」
ふう、体を動かしたり大きな声でしゃべったり、僕もけっこう頑張っているよな。だが、もうひと頑張りだ。
「フウコ、次をお願い」
僕がそういうと、フウコが「えいっ」といって右手を振った。
すると、小さな竜巻のような風が吹き、地面に穴が開く。
「今のも風の精霊の力です。皆様の場合には、皆様自身で穴を掘っていただく必要があります。でも、それほど大きな穴じゃなくても大丈夫です」
そして、リュプカを穴に落とす。
「今回は、リュプカを全て埋めます。ただ、解体して肉や必要な素材を取り除いた後の物だけでも大丈夫です。他にも、糞尿など土の栄養になるものならなんでも大丈夫です」
しまった、埋める方法を考えてなかった。しっかりシミュレーションしたつもりだったんだけど、埋める手順は抜けていた。
「フウコ、穴を埋めることが出来る?」
そう尋ねると、「うん、出来るよ」と言って、今度は両手を振り回した。なんかのダンスみたいだな。そして、小さな竜巻が現れ、土が舞い上がり、みるみる穴が埋まっていく。
「エインさん、こんな感じで大丈夫?」
小さな声でエインさんに聞いたら、笑顔で「はい、大丈夫です」と返事してくれた。一応、ここまではなんとか大丈夫らしい。
「次に、この枝に水をかけます」
そう言って、カバンからペットボトルを取り出し、地面に刺さった枝に水をかける。
「これは、変な容器に入っていますが、皆様の村の普通の水です。量もそれほど多くなくても大丈夫です」
さっき村にいた人に頼んで入れてもらったものだ。
「それでは、木の精霊に力を振るってもらいましょう。皆様、どうぞご注目ください」
そういって、エインさんの方を向いてうなずく。
エインさんはこちらに近づき、僕の腕を握って魔力を吸い出した後、枝の方を向いた。そして、枝を優しく抱くように手を回した。すると、エインさんの体が輝きだした。
しばらくすると、枝も弱い光を放って見えてきた。そして枝の先に付いていた葉がかすかに揺れる。これは、みんなにはどんなふうに見えているんだろうな。
村人たちの方を見てみると、みんな真剣な表情でこちらを見ている。よしよし、悪くない。さっきまででちょっとイメージが悪化したのを取り戻さないとな。エインさん、頼みます。
枝の方に目を向けると、枝が少し大きくなっているように見えた。僕は、注意深く枝を見る。…間違いない。ほんの少しづつだけど、枝が伸びていっている。
それにしても、エインさんに抱きしめられるようにして地面に刺さっている小さな枝、そしてその輝き。とんでもなく神秘的に感じるな。この世界に来てから、沢山の不思議な出来事があったけど、なぜかこの光景は特別に神秘的に感じる。
気付くと、元は僕の膝ぐらいの高さだった枝が、今は僕の身長ぐらいの高さになっている。すでに、村人たちも何が起こっているか理解しているだろう。
枝は、いやもう枝じゃないな。さっきまで枝だったものは、さらに高く成長していった。身長168センチの僕を超えていく。幹も、すでに両手で握っても指の長さが足りないぐらいの太さになっている。
成長はそのあたりで止まった。だが木から発せられる光はまだ消えない。やがて、葉の生えているあたりに光が集まっていく。そして、その中からスモモのような赤い実が2つ現れた。
実は、今回の一連のデモンストレーションで一番魔力を使ったのが、この小さな実を付けることだった。季節がどうとか成長のプロセスがどうとか、色々不自然なことをする分、多くの魔力を使うらしい。だけど、多少そういう演出もあった方がいいと思ったので、エインさんに無理を聞いてもらった。
「エインさん、ご苦労様でした」声を変えると、エインさんは笑顔で汗をぬぐうような動作をした。精霊って汗をかくのなかな? やり切った満足感を感じているのかもしれない。
僕は、生えてきた実を1つもぎ取り、村人たちの方を向いた。
「このように、精霊の力があれば、木を増やしていくことは可能です。そして、このようにその恵みを得ることもできます」
そして、その実をかじる。うん、酸っぱい。まあでも、十分食べられる。
「なかなかおいしいです。もう1つの実は、木の精霊から皆様へのプレゼントです。どなたか、食べてみませんか?」
全力の笑顔を浮かべながら、僕は村人にそう言った。そして、村人を見てみる。だけど、誰とも目が合わない。
だ、誰か、誰でもいいからせめて返事だけでもしてくれ。もうデモンストレーションは全て終わっているんだ。あ、だめだ、この感じは「申し訳ありませんが、今回のご提案は見送らせて云々」とか言われるやつだ。
「お、おい」
僕が呆然としていると、村人の方から声が上がった。うん、なんだ?




