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11 村の苦境、そして木の精霊さんの提案

 「村が苦境にあるというのは、どういうことですか?」


 単刀直入に聞いてみる。僕に解決できることではないかもしれないけど、情報は必要だ。


 「はい、私も人間の暮らしに詳しいわけではないですが」


 それから木の精霊さんから聞いたのは、次のようなことだ。


 まず、この村だが、昔からある村ではなく、3か月ぐらい前に突然移住してきたらしい。


 「おそらく、この林の情報を持っており、小さくても自然がある場所を移住先として選んだのでしょう」


 また、この荒野には数少ない川も近くを通っているらしく、水を得ることができる場所だということだ。


 「それに、この周辺は、この荒野の中では比較的弱い魔物しか出現しない地域です。その情報も持っていたのかもしれません」


 そうか、場所によって魔物の強さにも差があるのか。一瞬、とあるロールプレイングゲームのことが頭をよぎったが、今はそんな場合じゃない。


 でも、村人たちがこの辺に住まいを構えている理由は納得だ。村に来る途中で見たような、とてつもなく強そうなでかい魔物に襲われたら、粗末な柵に囲まれた小さな村なら壊滅してもおかしくない。


 「ただ、私も人が林の近くに来た時にしか声が聞こえないので、あまり詳しいことは分からないのですが」


 なるほど、木の精霊は木の近くのことしか分からないのか。フウコが色々とわかるのは、風の精霊だからなんだな。まあそうか、風はどこにでも行けるもんな。


 「食料は、ほぼ魔物の肉に頼っているようですね」


 衝撃の事実が発覚した。この村でご馳走してもらったのは、魔物の肉だったようだ。ま、まあこの世界の人間は普通に食べるってフウコも言っていた気がするし、あまり気にしない事にしよう。別にまあ、普通においしかったしな。


 「でも、一応水も食料もあるのであれば、そこまで苦境というわけでも無いのではないでしょうか」


 水と食べ物があれば大丈夫、というのは現代日本に住むものとしてはあまりにも無茶な考えなんだけど、たった2日間のサバイバル生活で僕の感覚もサバイバルな感じに染まったかもしれない。それならなんとかなるんじゃね、みたいな気がしちゃうんだよね。


 「しかし、魔物を狩るのは簡単ではなさそうですね。戦えるほどの年齢の者もそれほど多くはなさそうですしね」


 確かに、村といっても人口は、多分30人くらいじゃないだろうか。その中には、長老のような年配の人もいるし、子供もいるみたいだし、魔物と戦えるのはもしかしたら10人もいないかもしれない。


 村にとってはそれは確かに問題かもしれないな。でも、僕にとってはもしかしたらいい情報かもな。魔物を倒すぐらいは全く問題じゃない、倒すのはフウコだけど。これはアピールポイントにはなりそうだ。


 「それから、水も十分に足りているということでもなさそうです」


 「ん? 川が近くにあるんじゃなかったでしたっけ?」


 「近いといっても、多少の距離があります。それから、確か急勾配の坂を下りていかなければならないというふうに聞いたことがあります」


 それは大変だ。下りはまだいいけど、水を汲んだあとで急斜面の舗装もされていないところを登って村まで戻ってこなければいけない。


 「灌漑や井戸掘りなども検討されているようですが、とても手が回らないのではないでしょうか」


 うーん、なるほど。村にも問題が山積みみたいだ。これではとても僕に手を貸す感じでもないのか?


 「もし私が少しでも力を貸すことができれば、多少は力になることもやぶさかではないのですが」


 ん、そうなの? でも、たしか精霊の魔法についてフウコが言っていたよな。


 「えっと、精霊って人間の魔力を使わないとあんまり大したことが出来ないとフウコに聞いた気がするのですが」


 「はい、その通りです。そして、ケースケさんのように精霊と話せる人もほとんどいないので、精霊にとって人間の魔力をもらって精霊魔法を発動するのは簡単なことではありません」


 うん、僕の認識は間違っていなかったようだ。ということは、フウコが僕にしてくれた説明も正しかったということなんだけど、なんか説明の仕方に知性の差があるように感じるのは僕だけだろうか。


 いや、これはきっと知性の差というよりは経験とか年齢とかの差だ。フウコの年齢は分からないけど、お転婆な女の子がしっかり者の大人の女性になるという物語もあったはずだ。現実には知らないけど。だから、フウコも落ち込む必要とか無いからな。


 「ケースケ、またなんか変なことを考えてない?」


 おっとやばい。というか、フウコはなんで僕がフウコのことを考えていることがわかるんだ? 精霊の力じゃないよな。なんか、表情に出ているのか?


 いかんいかん、それどころじゃない。なんか、この世界に来てから緊張する場面ばかりだったのが、今は優しい味方と話している感じなので気が緩んでいるのかもな。会話の内容はシリアスなんだから、ちょっと気を引き締めよう。


 「それでは、木の精霊さんが村の人の手助けをするのも困難なのではないですか?」


 「ただ、かつては私も人々に手を貸していたのです。かつてこの地にあった精霊を信仰する国では、それを可能にするやり方が確立していました」


 それから、僕たちは木の精霊からそのやり方を聞いた。フウコも初めて聞く話が多かったみたいで、「ほー」と感心した声を上げながら木の精霊さんの話を聞いていた。


 なるほどね、その方法なら、シバ族の村でもやることが出来るかもね。でも、木の精霊さんにはメリットとかあるのかな?


 「でもその方法って、木の精霊さんにとっては特にやる意味がないですよね」


 「やる意味以前に、そもそも今の私にはその力は失われています。ただ、もしシバ族の方々に、私が力を取り戻す手助けをしていただけるなら、むしろこちらからお願いしたいことです」


 気付けば、さっきまで優しい表情だった木の精霊さんが、めちゃくちゃシリアスな顔になっている。体も、ちょっと前に出て来ている気がする。というか、さっきより体が大きくなっていないか?


 僕の方を強い視線で見つめながら、木の精霊さんは話を続けた。


 「なぜなら、私が力を取り戻すということは、この地がかつてあった森や大自然を取り戻すことと同義だからです。それはほとんどあきらめていた私の悲願です」


 うお、木の精霊さんがなんか怖い。というかこれは畏れっていう感情か? やっぱり精霊ってすごい存在なんだな。


 「私もこの地の木々もこのまま滅ぶと思っていました。シバ族の方々がこの地に来た時にも、残念ながら大きな希望を持つことはできませんでした」


 「えっと、そうなんですね」


 なんか思ったよりも重い話になってきてしまった。さっきまできれいなお姉さんと穏やかにお話ししていた気分だったのに。なんとかさっきまでの穏やかな木の精霊さんに戻ってくれないかな。


 「ケースケさん、確認なのですが、シバ族の方々が安全でよりよい暮らしが出来るようになるならば、それはケースケさんにとって価値あることなのですね?」


 うん、それは間違いのないところだろう。今は村と僕の関係は中途半端な感じだが、もともと僕を助けてくれた優しい人たちだ。それに、もし村の暮らしがよくなって、それが僕が手を貸したためだとしたら、僕の評価は爆上がりだろう。


 「はい、そうだと思います」


 「であれば、ケースケさん」


 木の精霊さんが僕の方にずいっと進んできて、深く頭を下げた。


 「どうかお力をお貸しください。精霊と人間を仲立ちできるケースケさんがこの地を訪れたのも、神のお導きかもしれません。この地に豊かな自然を蘇らせるため、どうかそのお力を振るってください」


 「はっはい! 承知しました!」


 思わず即答してしまった。木の精霊さんの圧力に負けた気がする。だって怖かったんだもん。


 まあ、でも、僕にとって悪いことではなさそうだ。村との話し合いも中途半端な感じだし、2次審査の前に成果を出すことを目指してみようか。


 「よしっ! じゃあそうなると最初にやることは1つだね!」


 ここまで目を見開いて真剣な顔で聞いていたフウコが久しぶりに発言した。発言するのは全然大丈夫だけど、最初にやることとは何だい?


 「ここは、木の精霊ちゃんとケースケの中を深めるために、木の精霊ちゃんにもあだ名を付けるしかないでしょう!」


 えぇぇ、最初にやることって本当にそれかなぁ?

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