10 話し合いの振り返り、そして2人目の精霊
長老との話し合いが終わり、村の中を歩いてみることにした。ちなみに、その辺を歩いてみてもいいかは聞いてある。勝手に住居に入ったり道具に触ったりしなければ大丈夫とのことだ。
歩きながら、話し合いを振り返ってみる。うーん、ちょっと肩に力が入りすぎていたかもしれない。はあ、難しいなあ。でも、他にどういうやり方があったかも分からないんだよなあ。
僕が1人で反省会をしていたとき、すぐ横にも話し合いを振り返っているのであろう精霊がいた。
「これが人間の話し合い! すごかったあ。見ていてドキドキしたよ」
フウコがドラマの感想みたいなことを言っている。
「フウコも途中までは話し合いに参加しようとしていたんだけど、もう最後の方は見ていることしかできなかったもんね。ケースケも頑張ったよね。よくあの嫌な2人と渡り合っていたよ!」
話し合いに参加って… あの、よくわかんないガヤみたいなやつの事かな? あれは参加したとは言えないかもしれないね。あと、フウコさん、自分の声が長老たちに聞こえていないの、まさか忘れちゃってないよね。
それから、僕が渡り合えていたかはともかく、長老とトゥハンが嫌なやつとは思っていない。フウコにも言っておこう。
「フウコ、あの2人は別に嫌な奴じゃないかもよ」
ちょっと離れたところに村人がいるので、出来るだけ小声で話す。まあ、もう精霊の事は長老とかに話したので、普通に話しても大丈夫かも知れないけど、やっぱりあんまり珍奇な目で見られるのも嫌だしね。
「そうなの? でもケースケに意地悪なことを言ってたじゃない」
まあ、確かに圧迫面接みたいな感じではあったし、好意的とは言えなかったかもしれない。だが…
「うーん、多分、2人はこの村を守ろうとしていたんだよ。あの人たちからしたら、僕が善人か悪人かも分からないしね。それを一生懸命、見極めようとしていたんだと思うよ」
「ふーん、なるほどね。人間はそんなことを気にするんだねー」
「そりゃあ、僕が悪人ならこの村は滅びるかもしれないしね。精霊同士だとそういうことは考えない?」
「そりゃあ、精霊には悪い奴なんていないからね。変な奴とか面倒くさい奴なら結構いるけど、それでも困ってるなら助けちゃうだけだから」
なるほどね。あと、精霊は生き死にとかをあんまり真剣にとらえていない感じもするから、自分や家族を守るという思考になりにくいのかもしれない。こんな荒野に生きている弱い人間なら、猜疑心も強くなりそうだしね。
ただ、この村の場合、きっとそれだけじゃなく訳ありっていうやつなんだろうな。なにしろ、そもそもこんな荒野にいるのが奇妙だ。さっきの話し合いでも、やたら特定の国との関係を聞かれたし、国と揉めたか、国から逃げたか、国に狙われているか。
うーん、ちょっとそのあたりの事も考えておいた方がいいかもしれない。ただ、変に事情を知ってしまうと、深みにはまりそうな気もする。でも、早めにこの村から逃げ出す算段を付けるのも手かもな。
まあ、そのあたりは、この村においてもらえることが決まったらだけどな。だけど、もしフウコがこれからも手助けしてくれるなら、荒野でもある程度生きていけるかもしれない。
調理器具、それから生活のための水、あとはテントでもいいけど寝床になるところ、他には何が必要だ? まあ、その辺の物さえ手に入れられれば、荒野で1人ぐらしもできるかもしれない。そうなれば、頑張って他の場所を目指すのもありだろう。
「あ、あっちがさっき話していたとこだよ」
今後の事に思いを巡らせていると、フウコが指をさした。そう、僕たちはただ村の中をふらついていたのではなく、目的があって歩いている。
フウコが指をさした先には、小さな林があった。林というか、木の群生地というような感じだな。荒野の中にそこだけ木が生えているので、不思議な光景だ。あと、この世界に来てから初めて木を見たかもしれない。
村を囲む柵に付いていた小さな出入口を通って、その林の方に進む。許可なく村から出ても怒られないかちょっと迷ったけど、禁止されていないし大丈夫だと思おう。
そして、林に近づいていくと、フウコが林の方に飛んで行った。
「おーい、フウコがまた来たよー」
その先には林の真ん中のあたりだろう、その林のなかでとびぬけて大きな木があった。いや、フウコが話しかけたのは木そのものではなくて、その後ろにいる存在だな。
林のふちのあたりにたどり着いて、僕にもようやくその存在が見えてきた。そう、僕はこの世界に来て2人目の精霊と出会ったのだった。
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「そんで、こいつがケースケね! 私の相棒!」
フウコがフランクな紹介をしてくれる。いつの間にか、僕はフウコの相棒に昇格していたらしい。まあ、気まぐれで昇格しただけでいつでも降格しそうだけど、でもまあ気に入られているみたいでけっこううれしい。
そして、とりあえずこの地の精霊さんにもちゃんと挨拶をしておこう。
「初めまして。ケースケといいます。よろしくお願いします」
「はい、初めまして。私はこの地にいる木の精霊です」
ちゃんと挨拶したのがよかったのか、大木の後ろから体を出してくれる。なんか、フウコと比べると少しお姉さんというか大人びた感じがするな。
木の後ろから出て来てくれたので分かったけど、服もちょっと上品な感じがする。フウコの肩まで出ているワンピースと違って、手首までの長さの袖があるドレスみたいな感じで、腰のあたりまであるストレートのロングヘアーと相まって気品のようなものも感じさせる。
ちなみに、木の精霊さんは、フウコと違って地面に足がついている。というか、足の先が地面に埋まっていないか?
なるほどね、精霊だからみんな浮かんでるとかじゃないんだな。フウコは風の精霊だから浮かんでいるのか。お調子者だからいつも浮いているとかじゃないよね。
僕がまたちょっとフウコに失礼なことを考えていたら、木の精霊さんがそのまま言葉を続けた。
「本当に私たちを認識し、会話をすることが出来るのですね。大変驚きました」
ほーんの少しだけ表情筋が動いたか? 大変驚いているようにはまったく見えない。この落ち着き、フウコも少し見習った方がいいかも「ケースケ、なんか失礼なことを考えてない?」
おおっと、フウコ鋭いじゃないか。やばいやばい、木の精霊さんの穏やかな雰囲気のせいかちょっと油断していたかもしれない。とりあえず、フウコには「ナンノコトカナー」とごまかしておこう。
「ところで、ケースケさんは異世界から来たのだとフウコから聞いていますが、本当なのですか?」
「はい、本当です。一昨日に突然この世界に来てしまいました」
「てかさー、あなたもケースケももっとフランクに話しなよ。ケースケも難しい言葉は苦手なんでしょ」
いや、フウコ、僕は敬語は別に苦手じゃないよ? 社会人を舐めるなよ、会社では一番下っ端だったけど。
「ええ、ケースケさん、どうぞフランクに。私もくだけた話し方で大丈夫ですから」
「あ、はい。ありがとうございます」
なんか初対面で勘違いされたっぽい。フウコのせいだぞ、まあ別にいいけど。
「ところで、ケースケさんはこの世界に来て、いろいろお困りだとか」
「はい、そうなんです」
そして僕は、これまでの苦労話や現在の窮状を話した。なんか、この精霊さん、フウコとは違った感じの癒し系でリラックスして話せる感じがするんだよな。それと、この林の中の空気も気持ちよく感じる。これがマイナスイオン効果というやつだろうか。
「そうですか、それは本当にご苦労をされましたね。何かお力になれるとよいのですが、私も以前と比べ、ずいぶん力を失ってしまいましたし、残念ですがあまりお役に立てないかもしれません」
「あ、いえいえ、一応希望はありますので。フウコも力を貸してくれていますし、そこの村の人たちにも力を借りようかと」
フウコが「まあねー」といって得意げな顔をする。でも木の精霊さんは、悩まし気な顔をした。
「シバ族の村ですか…」
え、あの村になにか問題でも?
「えっと、村の人たちに頼るのはまずいでしょうか」
「ああ、いえいえ、あの村の人たちはいい人たちだと思いますよ。ただ、あの村の人たちも苦境にあるようですし、ケースケさんに力を貸す余力はないかもしれません」
たしかに、あの村の人たちは貧しい暮らしをしているようにも感じた。うーん、村の人たちが僕を受け入れてくれても、村ごと消滅したりしたら意味ないもんな。はあ、次から次へと問題が出てくるなあ。
この作品もとりあえず2桁投稿までは到達しました。
これからも、どんどん投稿していこうと思いますので、よろしくお願いします!




