エピローグ
世界最高峰と呼ばれるスイーツコレクショングランプリ――その舞台で優勝してから、もう2年になる。
やわらかな陽射しが差し込む墓前。
桜の花びらが静かに舞う中、一人の青年がそっと膝をついた。
白い箱を開けると、甘く懐かしい香りが風にのって漂う。
苺の香り―それは、千紗がいちばん好きだったケーキ。
「おばあちゃんの好きないちごのケーキ……」
青年になった孫は、やさしく語りかけるように微笑んだ。
「じいちゃん、よくおばあちゃんと食べに出かけてたって話してたよね。俺が作ったんだ。」
箱の中には、まるで宝石のように輝くケーキがあった。
艶やかな苺の赤、柔らかなクリームの白、繊細に重ねられた層――
そのひとつひとつに、彼は想いを込めた。
「これ、大会でグランプリとったやつ。
おばあちゃんが見たら、褒めてくれるかな。」
風がやさしく吹き抜けた。
桜の花びらがひとひら、ケーキの上に舞い落ちる。
まるで千紗の手が「よく頑張ったね」と撫でてくれたかのように。
青年――篠崎大樹は立ち上がった。
胸の奥に灯るのは、あの日、大地と千紗が紡いだ“愛”の記憶。
「もうすぐ店を出すんだ…じいちゃん」
春風が頬を撫で、桜の香りが一層強くなる。
篠崎大樹は空を見上げ、静かに笑った。
青い空の向こう――きっと、あの二人が並んで微笑んでいる。
「ありがとう。おばあちゃん。じいちゃん。」
彼の背に、春の光がやさしく降り注いだ。
大地と千沙の孫。篠崎大樹はフランスでの修行を経て、二十七歳で自分の店を構える。
以来、世界中にファンを持つスイーツブランドとして成長し、毎日注文が入る忙しさの中で彼も運命に出会う。
「すみませーん、里見さん!」
共同経営者の薫が声をかけると女性が顔を上げた。
陽光に照らされたその髪は紅茶色に透け、
瞳もまた、同じ色をしていた。
「…里見農園の里見知花です」
苺が結んだ運命の恋がまた始まる。
それは時を超えて
想いを超えて
新しい軌跡がはじまる
大地と千沙の物語。最後まで呼んでいただきありがとうございます。この続きはstrawberrymarriageに…




