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10(千沙目線)
夢を見た。
桜が舞う――
光を透かして散る花びらの中に、古びた屋敷がある。
畳の匂い、湿った木の床、障子の向こうに春の霞。
咳がこみ上げ、口の端に赤が滲んだ。
鏡に映るのは青白い顔の“青年”――
けれど千沙は、その青年が自分自身だと直感する。
胸の痛みも息苦しさも、すべてが自分のものだった。
咳き込みながら呟く。
「……ごめんね。僕が、こんなに弱いから……君を幸せにしてやれない。」
声が震える。
“僕”が見つめる先には、赤い着物の少女。
黒髪が光を受けて艶めき、涙が頬をつたう。
彼女は青年が愛した人――彩音
「……次はきっと、君と幸せになりたい。彩音」
その名を呼ぶたび、胸が締めつけられる。
彩音は泣きながら頷いた。
「うん……絶対にまた会おうね……」
風が吹く。
桜吹雪が一面を包み、世界が淡くほどけていく。
次の瞬間、夢の景色が変わった。
あの赤い着物の少女と大地が並んで立っていた。
ふたりが微笑み、手を伸ばす。
――「未来で君を待ってる。」
その声が、心の奥深くで響いた。
胸の奥で何かが弾ける。涙が止まらない。
目を覚ましたとき、千沙は頬を濡らしていた。
心臓が痛いほど脈打っている。
隣で眠る大地の姿…
たまらなく愛おしいと思った。




