もふもふ
魔王城への旅も一週間が過ぎた。
今の所……正直な気持ち、この旅はめっちゃ楽しい。
怖いこともないし。いや、魔獣などもチョコチョコ出るんだけれど、赤い狂騎士たちがサクッと討伐してくれるので、食べれる魔獣だと食料が増えて嬉しいくらい。
この前現れたオークキングの肉なんて、最っ高に美味しかった。
あれをカツにして食べたんだけれど、モチッジュワーっと口の中に幸せが広がりすぎて過ぎてやばかった。
この世界では強い魔獣ほど美味しいのだ。
また食べたいなぁ……。
「ふぇ!?」
馬車が急に止まり、体が椅子から落ちそうになるのを、三男ネイトお兄様が抱き止めてくれた。
「大丈夫?」
「はっ、はい。何かあったんでしょうか?」
「ちょっと僕が様子を見てくるよ! ネイトとジュエルはレティのそばにいて!」
「うん」
「リンネお兄様気をつけて、ここは僕たちに任せてね」
次男リンネお兄様が馬車から急いで降りて行った。
何があったんだろう。
なんだろう……少し怖い。
三男ネイトお兄様と四男ジュエルお兄様が、私の両横に座り守ってくれているので、怖さが半減しているけれど、なんとも言えない胸騒ぎがして鼓動がどくどく鳴り響く。
——リンネお兄様が出て行った数分後。
ものすごく大きな音がなり、狂騎士たちの荒ぶった声が聞こえる。
何が起こってるの!?
狂騎士たちが苦戦するほどの、強い魔獣が現れたのだろうか?
馬車の窓から外の様子を伺おうとした瞬間。
強い衝撃と同時に馬車は横転し、私は外に放り出された。
「いたたっ……」
無防備な状態で、地面に体を思いっきり打つけ、かなりの痛みをともなう。
一体何があったの……!?
「ぎゃっ!?」
目の前が大きな影に包まれたと思ったら、次に私の視界に入ってきたのは、五メートルはゆうにある大きな真っ白い狼? が、私の体の真上に立っていた。
こんな大きな狼の魔獣見たことない!
お父様やお兄様の叫び声が聴こえる。
何が起こっているのか理解できないけれど、どうやらお父様たちは私の所に近寄れないみたいだ。
少し離れたところで必死に叫びながら近寄ろうとしている。
これはこの目の前にいる白い狼が何かしているんだろうか?
それより……怖いはずなのに、なんで私はこんなに冷静なんだろうか?
人は死をまじかにすると落ち着くものなんだろうか。
お父様たちの助けがなんだ。私は噛み殺されるだろう。
「ん?」
ちょっと待って、怖いはずなんだけれど落ち着いている理由それって。
この狼からホッとして安心する匂いが……。
そう毎日嗅いでいたあの癒してくれる……。
『あるじぃ! やっと会えた。わりぇはずっとあるじを探していたでち!』
え、え、え、!? 目の前の大きな獣の声が聞こえる。
何これ!?
『やっっとあるじの匂いがして、慌てて走ってきたでち! わりぇは嬉しいでち』
大きな獣の顔が私の顔に近づき擦りつける。
待って!? この匂いに、この顔! 知ってる!
「あなた……もしかして、おもち!?」
『そうでちよ! やっと気づいてくれたっち。あれ、なんかあるじ小っさくなってるでち』
「いやいや、おもちがデカくなってるんだってば」
『ふぇ? わりぇが?』
「そうよ!」
『ありぇ? あるじとお話しできてる? なんでぇ!?』
いやいやいや、それは私のセリフだよ、おもちさん。
なんでこの世界にいて、さらになんでそんなでっかくなってるんですか?
そもそもおもちは、私の腕の中にすっぽりと収まる小さなポメラニアンだよね?
なんでポメの見た目のまま、そんなにデカくなってるのよ。
「レティ今助けるからな!」
「逃げるんだ!」
お父様たちが必死に私を守ろうと攻撃をしようとしている。
だけど、おもちが無自覚にバリアを張っているのか、私たちの近くにいまだ誰も近寄れない。
「おもち何かしている? 周の人が私たちの所に近寄れないみたいだけれど」
『んん? あるじとの再会を邪魔されたくないから、誰も近くに来れなくしてるっち』
「そんなこともできるの? おもちすごい。なんかこの世界に来てなんかすごい能力を得たの?」
『んん〜? よくわからないっちけれど、わりぇは思ったことができるんんでち』
思ったことができる? おもち最強すぎない?
とりあえずおもちが安心できる獣だとお父様たちに説明したい。
「ねぇ、おもち。私たちの周りで必死に声を上げている人たちがいるでしょ? あの人たちは私の大切な家族なの。すごく心配しているから、おもちが安全だって教えてあげたいんだ」
『あるじに家族ができたっち? それは最高でち。じゃあ近寄っていいでち』
おもちがそういった途端、お父様たちが走り寄ってきた。
だけど一斉におもちに向かって攻撃をお仕掛けてきたので、慌てておもちの前にたち、声を荒げる。
「お父様! みなさま、この魔獣は安全です。なにも問題ありません! 私に懐いているので、攻撃しないでください」
私がそう言っておもちをもふる。すると、お父様、お兄様たち、狂騎士たちが固まる。
あれ? そこまで変なこと言ってないと思うんだけど……。
「レレレッ、レティ? フェンリルを手懐けたの?」
お父様が震える声で話しながらおもちを指差す。
ふぇ!? フェンリル? 何言ってるの?
フェンリルって文献に記載されている最強の聖獣ですよね?
おもちは大きくなっただけで、ポメラニアンだよ?
おもちも転生してきました。