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出陣式

 厄災の魔王を私が封印すると言い出してから、あれよあれよと準備が進み。

 今日は魔王討伐に行くための出陣式。


 ドンバッセル邸にある、騎士たちがいつも訓練している場所に、魔王討伐の精鋭たちが集まっている。


 精鋭たちといえば言い方は良いのだけれど、見た目は筋骨隆々の強面ばかり。

 街であったら絶対に目を合わせないレベル。七つの星を持つ男の世界でいうところの「ヒャッハー」な奴らである。


 そんな精鋭たちがみな、声を上げ士気を高めているのだ。今から村を滅ぼしに行くんですかって思いそうだが、私はこの人たちが皆優しいのを、この四年の歳月で知っている。会えばレティシアお嬢様や姫と私のことを呼んでと優しく頭を撫でてくれるのだ。

 優しい騎士たちはちょっと戦闘狂なだけなのだ。……うん。


 精鋭たちの盛り上がりが最高潮に達した時。

 そこにお父様が壇上に登場した。


「「「「「「ウオォぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」」


 騎士たちの声で地面が揺れた。なんだこの盛り上がりは。


 これから魔王討伐に向かうというのにこのお祭り騒ぎ、大丈夫? 死ぬかもしれないんだよ? なのにその姿は、遠足に行くのが楽しみな子供達のよう。


「これから厄災の魔王を倒す旅に出る。ドンバッセル領の赤き騎士たちよ覚悟はいいか!」

 

 ドンバッセル領では、赤が領を象徴とするカラーとなっており、誰もが赤を身につけている。

 お父様の強さに憧れ、燃えるような赤い髪と同じ赤の色を、どこかに身に纏いたいと騎士たちが思い、赤のカラーを身につけ出した。

 今やドンバッセルの騎士たちは、他領の人たちから【赤い狂騎士】と呼ばれ恐れられているらしい。


 更に領旗も赤、領の至る所で咲いている花も真紅の薔薇。ということで赤はドンバッセル領には欠かせない色なのだ。

 


「「「「「ウオォぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」」



 お父様の表明に鼓舞され、再び地面が揺れる。

 どうなってるの、この集団。


「お前たち! 分かっているな? この魔王討伐に、可愛い我が領の姫である、レティシアも一緒に行く。何がなんでもこの可愛い姫を守り抜くんだ。分かったな!」


「「「「「「イエッサー!!」」」」」」


 お父様の言葉に、集まっていた精鋭たち全員が誓いの印である胸を二回叩き頭を下げる。


 その姿は神聖な騎士の姿に見え、ものすごくカッコいい。


 てか可愛い姫を守るって、いやいやいや恥ずかしいです。


 私は絶対に大丈夫って分かってるだけに、そんな心配はいらないんですよと言いたい。

 もちろんそんなこと言えないわけで……。


「まぁ俺がレティのそばで守ってやるけどな」

「アレクお兄様」


 私の横に立つ、長男のアレクサンダーお兄様が私の頭を撫でる。


「何言ってるんだよ、僕が一番そばで守るからアレク兄は最前線で戦えよ」

「リンネにレティを任せて大丈夫か? お前に守り切れるか?」

「なっ、僕の魔法は最強なんだ。安心して僕に任せてねレティ」


 今度は双子の一人次男リンネお兄様が私の肩を抱きしめ自分の方に近づける。


「魔法なら私が最強」

「なっ、ネイトより僕の方が最強だ」

「それなら剣も魔法どっちも得意な僕が一番だよ」


 同じく双子の三男ネイトお兄様や四男ジュエルお兄様まで私の周りに集まる。

 相変わらず兄たちの溺愛が止まらない。



 ★★★


 出陣式を終え。


 魔王がいる魔国に向かって私たちは出発した。

 魔国到着までに約三週間くらいかかるらしい。

 それまでは野営しながら進んでいくので、過酷な旅になると説明を聞いた。

 初めての野営、両親や兄たちからそのことも心配された。


 ご飯くらいは楽しみたいなと思ったので、今回の旅に戦闘要員ではない料理長についてきて貰って、私と料理長で美味しい料理を振る舞う予定だ。


 魔王討伐とだけ聞くと怖い旅なんだけれど、私からしたら初めての長旅。

 正直ワクワクしかない。

 私の野営の勝手なイメージは、キャンプしながら移動していく。

 そう! 前世で憧れてやまない、みんなでワイワイしながらキャンプ飯を楽しみ知らない土地を開拓する。


 最高すぎるシチュエーション! 


 前世ではもっぱら一人キャンプを楽しんではいたんだけれど、みんなでワイワイ楽しむキャンプにも少し……いやかなり憧れてはいた!


 正直、一人キャンプにはその良さがいっぱい詰まってるんだけれど、じゃあ大勢でするキャンプの魅力はなんだ? ってした事がない奴からしたら、どうなるんだ? って気になる訳ですよ!


 今回は大勢キャンプになるわけで。


「ふふふ……楽しみすぎる」

「へ? レティ、何が楽しみなんだ?」


 しまった心の声がダダ漏れていた。


 私の横に座るアレクサンダーお兄様が何を言ってるんだこいつ? って目で私を見てくる。

 そりゃそう。今から激しい戦いの場に行くのに、楽しみすぎるの発言は変態でしかない。


「あ、その……今日の夜ご飯のメニュー楽しみだなって」

「ああ、野営で美味しいご飯なんて出たことないからな。そうか、今日はレティのスペシャル料理が食べれるんだな。それは俺も楽しみだよ」

「ふふ。今日のご飯は自信作なので、楽しみにして下さい」


 馬車に揺られながら道なき道を進んでいく。

 激しい揺れで正直お尻が痛い。

 もうそろそろ日が暮れそうなので、休憩になりそうとは思うのだけれど。


「よーっし今日はここまで、この場所で野営するぞ」


 どうやら野営する場所が決まったよう。

 お父様が大きな声を出してみんなを集めている。


 百人以上はいる大集団の野営となると、準備も大変なんじゃと思っていたけれど、みんな慣れているようで、テントやら色んな物がテキパキと荷馬車から下ろされていく。

 

 よし! 私も頑張るぞ。

 みんなが寝る場所の準備をしてくれる間に美味しい料理を作らなきゃ!


「料理長、私たちも料理の準備しましょう」

「そうですね。やりましょう」


 野営での料理は初めてで、手際が分からないのもあり今日は簡単な料理。

 大きな寸胴鍋にいっぱいの具材を入れ煮込む。


 具材は【マジックバック】という、便利な空間収納の魔道具に入れてきた。

 このバックの中は時間経過がない便利アイテム。

 このアイテムは迷宮でしか入手できないので、ゲームをしていた時もコレを入手するために迷宮潜る人がいっぱいいた。


 さすが最強の強さを誇るドンバッセル領。

 赤の狂騎士たちが迷宮に潜り、マジックバックを入手したんだと、お父様が教えてくれた。

 私が使ってるのは一番大きなサイズのマジックバックだ。

 かなりレアなマジックバック、それが二個も!!

 この中には大人五人くらいは余裕で入れる大きさ。

 マジックバックの中は全て食材。

 百人の三週間分の食料なんだもん。たくさんなくっちゃね。

 日持ちする野菜などは馬車にも積んであるし。準備万端なのだ。


「にしし」


 スープをコトコト煮込んでいる間にメインの準備。

 今日は唐揚げ! この世界では料理を揚げる工程を知らない。

 なので初めてお父様たちに唐揚げを作った日は、みんな涙を流しながら食べていた。

 唐揚げの仕込みは終わっているので、後は揚げるだけ。

 量が多いので料理長と手分けして、大きな鍋に油を投入してジャンジャン揚げていく。

 するといい匂いが一気に広がる。


 テントを作りながら騎士たちやお父様たちが、こちらをチラチラと見ている。

 香りの爆弾にやられた模様。

 もう少し待ってて下さいね。


「料理長、一気に揚げますよー」

「はい。美味しい料理作りましょう」


 完成したスープとメインの唐揚げ。それにパンを添えた食事を、一番初めにお父様のところに持っていく。


「お父様どうぞ」

「レティありがとう。野営でこんな美味しい料理が食べれるなんて、ここは天国かな?」


 お父様、ここは魔王城に向かうただの森ですよ。


 お父様が唐揚げを口に入れると、サクッといい音とが聞こえる。


「はぁぁぁっ! 何度食べてもレティの唐揚げ最強!」


 お父様の声を聞き。


「姫っ! 俺たちもう我慢できねぇっす」

「唐揚げを姫っ」

「姫、よだれが止まんねぇっす」

「唐揚げ姫!」

「唐揚げ姫ぇ〜!」


 いっせいに騎士たちからの唐揚げ食べたいコール。

 てか唐揚げ姫ってなんや、私が唐揚になってるやん。


 と言うわけで、初日のご飯は大成功に終わった。

 よかった。みんな喜んでくれて。



読んで頂きありがとうございます

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