ラスボスに転生!?
「レティシア・ドンバッセル。君にはガッカリだ」
「なんのことでしょうか? 身に覚えがありませんが?」
「何をしらばっくれて!? ここにいるミレーナに嫌がらせを色々したらしいな」
今日はみんなが集まる学園の卒業パーティだ。
私を罵倒しているこの男は、一応私の婚約者——エディバン王国第二王子エリック様。
そしてエリック様が親しげに肩を抱きしめている女性が、ミレーナ様。グリード伯爵家の令嬢である。
——全く話したことないですがね。
色んなところで私に嫌がらせをされたと、吹聴して言ってたのは知ってたけれど。あえて否定しなかった。
こうなることを私は望んでいたから。
「私は何もやっていません。ミレーナ様とは、今日お会いするのが初めてです」
「そんなっ! 私を噴水に突き飛ばしたり、魔法の授業の邪魔をしたり、他にも色々したじゃないですか!」
「……証拠はあるんですか?」
「急に噴水に突き飛ばされて、しょっ、証拠なんて! でも私が噴水でびしょ濡れになっている姿はみんなが見ています」
「そうですか」
もうこんな茶番は良いの! 早くあの言葉を言って。
私はそれを待っているんだから!
「レティシア、もう君とは婚約解消だ!」
——しゃあああああああああああああっ!! キタキタキタ! コレを待ってたの!
心の中でガッツポーズをとる。
「私たちの婚約は王命ですが、国王様の許可は?」
この王子が、勝手に婚約解消と言い出したってのは分かる。だけど、国王様の許可は? と聞いておかないと。
その理由は、私は国王様の事を気にしましたよ? あなたが勝手に言い出したんですよね? と周りにアピールしとかないと、後で国王様から何か言われた時に、私はちゃんと確認しましたよ。と言えるから。
「はんっ、そんなのは後で……そう、僕が報告するから心配しなくていい」
「了解しました。なら私は今日中に父ーーダクネル・ドンバッセルに婚約解消したと報告させていただきます」
「嫌がっても……はぇ? え、了解?」
エリック王子とミレーネ様は、あんぐり口を開けポカンとしている。
あまりにもすんなり事が進んで驚いているのだろう。
「では早く報告したいので、私は失礼します」
私は踵を翻し会場を後にする。
だめだニヤけてしまう。
だって私はずっとこの時を待っていたのだから!
「ヒャッハァァァ!!」
誰も周りにいない事を確認し、嬉しさの雄叫びを上げる。
今まで我慢してきたんだ。それくらい許してほしい。
私に汚名をきせた事は、今まで否定せずに黙っていたが、これから否定をしないわけではない。
もちろん婚約解消後は、ちゃんと名誉を戻してもらう。
領地に戻ったらスローライフを楽しむんだ。
はぁ……この世界に転生して、ここまで来るの長かった。
★★★
《十四年前レティシア二歳》
誰かが私を呼んでいる?
なんの声? 目をこすりながら開けると。
「レティ! よかったー……目を覚ましたっ、ぐすっ」
——はぇ!?
何が起こってるの? 目を覚ますと、大勢の人が私の周りに集まっている。
しかもみんな涙目で私を見ている。なんで?
私——ん? あれ? 誰だっけ?
そうだ【レティシア・ドンバッセル】これが今の名前。
——今の?
今ってどー言うこと?
「あーーっ!! 思いだちたっ!」
「レレッ、レティ急に起き上がって大丈夫なの? 今さっき目を覚ましたばかりな……」
ガバって言葉がピッタリな勢いで、急に起き上がった私にみんなが驚いている。
泣きながら私のことをレティと愛称で呼んでいる綺麗な人は、私の母マーガレット・ドンバッセル。
「そうだぞ、二日間も目を覚まさなかったんだ。急に無理したらダメだ」
その横に立ち、オロオロと心配しているのがダクネル・ドンバッセル私の父。
「レティ! よかった」
「急に起き上がったりしちゃダメだよ」
「ほんとだよ!」
「目を覚ましてくれて良かった」
更には四人の兄たち。
みんなが私を心配している。
——全て思い出した。
私は転んだ拍子に噴水の角に頭をぶつけて、二日間寝込んでいた。
どうやら頭をぶつけた拍子に、私は前世の記憶を取り戻したようだ。
そのせいで現在脳内がぐちゃぐちゃで、少し記憶が混沌としているけども。
前世の最後の記憶。
確か……仕事帰り家に戻ると、家が燃えていて家の中に残されていた愛犬を救おうとして、燃えている家に入って行ったんだ。
そこからの記憶がないってことは、その時に死んだんだろう。
愛犬のおもちはどうなったんだろう。
気になる事が多すぎて、色々と頭を整理したい。
なんだけど、周りにこんなにも人がいては、整理できるものも出来ない。
どうやって……そうだ!
「あにょ、ちょっと横になりまちゅ」
私は再び横になり、疲れてますアピールをする。
「そうだな。目が覚めたばかりだもんな。いきなり騒がしくしたら疲れるな」
お父様が私の頭を撫でる。
「ゆっくり休むのよ」
お母様が私を優しく抱きしめる。
今世の私はみんなから大切にされ、愛されているようだ。
前世の私は孤児で、本当の親の温もりを知らない。子供の頃から人の顔色ばかり気にしていた。
無条件で愛されてるって幸せだな。
なんだか顔が綻ぶ。
家族が部屋を出て行った後、頭を整理するために紙とペンを用意し机に向かう。
今の私は二歳。鏡で見るその姿を一言で表すなら、愛らしいでしかない。
真っ赤に燃えるような艶のある髪の毛。金色に輝く瞳。
真珠のように艶々で真っ白なお肌。
見た目チートすぎる。
だけれど、気づいてしまった。
この美しい姿に、レティシア・ドンバッセルという名前。
前世で何度も何度も何度も見たし聞いた。
そう……この世界が、前世でめちゃくちゃハマったゲーム【エデン】であると。
最強と名を知らしめているドンバッセル辺境伯領。国の要だ。隣国から国を守り、近くにある新淵の森から溢れる魔獣たちを討伐している。
エンディバン王国随一の最強の強さを誇るのが、このドンバッセル領。
お父様やお兄様たちもみんな強い。
だけれど一番の最強がこの私。
厄災の悪役令嬢と呼ばれるレティシア・ドンバッセル。
このゲームの最強ラスボスである。
クリアするにはこの最強集団ドンバッセル家を倒し、最後に待ち構えるレティシアも倒さなくてはいけない。
どうにかドンバッセル家を倒せたとしても、後ろに控えるラスボスレティシアが強すぎて倒せない。
とにかく無理ゲーなのだ。
SNSでも一時#レティシアが強すぎて無理なんだが。が流行ったほどに誰もレティシアを倒せない。
クソゲーと言われてもおかしくないこのゲーム。
なのに大流行した。
その理由の一つが、無理にレティシアを倒さなくても楽しめるということ。
ゲームの始まりは魔法学園入学。その時に自分のキャラクターをクリエイトするんだけれど、職業を戦闘職にしなくても良い。
錬金術だったり、生産職だったりと色んな授業があり、そこで覚えた魔法や技術を使い、在学中に冒険者になったり、自分のお店を出しても良いのだ。
魔法学園で、自分のジョブにあった色々な訓練をしながら、好きなことが出来るというのが流行った一番の理由。
ドンバッセル領にさえ行かなければ、最強集団と戦う必要はないのだから。
このゲームを遊んでる人で、ラスボスレティシアを倒そうなんて考えている人は、もういないだろう。
そんなラスボスレティシアに私が転生!?
ありえない……。
とりあえず私はラスボスになりたくないし、知らない誰かと戦いたくもない。
と言うわけでラスボスルートにならないように、今覚えている前世の記憶を忘れないよう紙にメモり、ドンバッセル領で静かに暮らせるように努力するんだ!
★★★
久しぶりの新作です! よろしければブクマや★レビューで応援していただけると泣いて喜びます。
毎日更新頑張ります。
本日、五話投稿します!引き続き読んでいただけると嬉しいです