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老科学者の空虚な日常

見えない人間、現る

作者: 一飼 安美

 透明人間、ってわかるか?聞いたことくらいはあるだろう。なりたいと思うか?なれるらしいぜ。女の裸は見放題、万引きしても捕まらない。透明人間になるには、どうするか。イカれたジジイが言っていた話だ。


 まず、透明人間とは何か。透明とはどういうことか、とジジイは俺に聞いた。目に見えない、とわかりきったことを答えると、それなら可能だ、なんて抜かしやがる。目に見えなければいいというのなら、理論上可能だという。目で見ても、誰も気づかなければいい。誰もそこに、人間がいると思わなければ、同じことだという。


 人間の体を、人間ではないものに置き換える。すると人間は、置き換わった部分がわからなくなるという。人間のはずなのに、人間ではない。見たことのないものと入れ替わった、人間のはずのもの。自分たちの種族にインプットされていない何かは、動けばすぐに見失う。無論、見えている。写真を撮れば映るし、映像にも残る。だが、目には見えない。道に街路樹が何本あったか、見ようとしなければ誰も見ない。駅前に止められた自転車がどんなものだったか、考えなければ残らない。そんな異物で、全身を埋め尽くしてしまえば、人間だった異物は誰にも見えない。見えているのに、誰もピンと来ない、と言った方がいいかもしれない。透明人間とは、そんな代物だという。


 誰かなったのか?と聞いてみたら、割と多いという。手段があるなら作ってみようなどという権力者は後をたたず、大規模な実験で相当数が生まれる。だが、代償はあまりにも大きい。本人に生まれる副作用。誰も自分のことが、ピンと来ないのだそうだ。


 人間は、自分と同じだから相手を理解できる。同じ種族が群れを作る理由は他になく、お互いに人間だから理解できる。人間ではないもので体を埋め尽くした、人間だったものはもう人間には理解できない。姿を見てもわからないように、そいつがどんな奴なのか、もう人間にはわからない。同じような透明人間が、集まって新たな集落を作るだろう、とジジイは言っていた。万引きできるものなど知れている、女はなんだかんだ言って皆どこかで抱く。それと引き換えに、誰にもわからない人間になってもいいという者が……普通はいないものなのだが、とジジイは話を括った。これが、透明人間。俺の出会った、イカれたジジイが言っていた話だ。

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