6話
学園に入学してからエビネの生活は
屋敷にいた頃とは大きく変わっていた。
学びの場では常に同年代の貴族たちと共に過ごし
格式ある振る舞いや知識、そして魔法の基礎を学んでいる。
そして本日の授業では普段よりも少し特別な課題が課されていた。
「本日は、四人一組のグループを作り、共に課題に取り組んでもらいます。貴族として必要な協調性を養うことが目的です。」
教師がそう告げると、エビネは指定された席へ向かった。
そこにはすでに三人の生徒が座っていた。
「初めまして。レオ・ファルクナーと申します。
ファルクナー男爵家の次男です。」
貴族にしては短く切り揃えられた金髪に金色の瞳の少年が
爽やかに微笑みながら自己紹介をする。
「初めてまして。エビネ・コーデマリーと申します。
コーデマリー伯爵家の長女です。
本日はよろしくお願いいたします。」
エビネも優雅に会釈を返した。
「初めまして。リリィ・アステルと申します。アステル伯爵家の長女です。よろしくお願いいたしますわ。」
柔らかな金茶色の髪と若葉色の瞳にそばかすが素敵な少女が小さく微笑みを浮かべながら挨拶をする。
最後に、銀髪に黒い瞳の鋭い雰囲気の少年が静かに口を開いた。
「初めまして。ユリウス・ヴェルトナーと申します。
ヴェルトナー公爵家の長男です。」
彼は端的に自己紹介を済ませる。
(ヴェルトナー公爵家の方…!粗相がないように気をつけなくては…)
そう思いつつも、エビネは表情を崩さず礼儀正しく振る舞う。
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今回の課題は、「貴族の務めとその在り方について意見を交わすこと」
「私は騎士を志しておりますので、貴族として最も重要なのは、民を守る力を持つことであると考えております。」
レオがはっきりとした口調で言う。
「私の家は代々財務官を輩出しておりますから、国の経済を発展させることこそ貴族の務めと考えておりますの。」
リリィがすこし緊張した様子の声で答える。
「貴族の務めとは、家名を守り、その誇りを後世へと継ぐこと。そのために我々は存在しております。」
ユリウスの言葉は端的ながらも重みがあった。
エビネは少し考えた後、口を開く。
「私は、貴族であるからこそ、人々のために何ができるかを常に考えるべきだと思っております。力を持つ者としての責任があるのですから。」
その言葉に、リリィが微笑んだ。
「素晴らしいお考えですわ。」
「皆様それぞれ重視する部分は異なる視点をお持ちですが、やはりどれも大切ですね。」
ユリウスが静かに言う。
そうして話し合いは進み、無事に課題を終えた。
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授業が終わると、レオがにこやかに声をかけてきた。
「せっかくご一緒しましたし、皆様で昼食を共にしませんか?」
「素敵なご提案ですわ。ぜひご一緒させていただきます。」
リリィが頷き、エビネも微笑む。
「私もお供させていただきます。」
ユリウスは特に断ることもなく、静かに頷いた。
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食堂に到着すると、それぞれ食事を選び、四人でテーブルにつく。
「本日の授業、なかなか興味深いものでしたわね。」
リリィが優雅にナイフとフォークを使いながら言う。
「そうですね。同じ貴族であっても、育った環境や家の歴史によって何を一番重視するかは大きく異なるものですね。」
エビネも相槌を打つ。
「皆様、それぞれ異なる価値観をお持ちだからこそ
こうした学びの場が設けられているのでしょう。」
ユリウスが静かに言葉を紡ぐ。
「しかし、こうして語り合う機会があるのは素晴らしいことですね。」
レオが微笑みながら言うと、リリィも静かに頷いた。
その後、話題は徐々に和やかな雑談へと移っていった。
「皆様、ご兄弟はいらっしゃいますか?」
「兄が一人おります。兄はすでに領地運営の補佐をしておりとても尊敬しております。」
レオが誇らしげに言う。
( レオ様はお兄様とは違うタイプなのね。
後継争いなどはなさそうでいいわね。)
「私は一人娘ですので、家を継ぐのは私の役目ですの。」
( リリィ様が一人娘となると、婿を取ることになりそうね。
では色々な殿方からお声が掛かりそうで大変そうだわ…。)
「私には弟がございます。」
ユリウスが落ち着いた口調で答える。
( 弟……。ビデンスみたいなものかしら? )
…次は私の番ね。
「私は兄が一人おりますの。とても優しく魔法に長けた方ですわ。」
「優秀な方なのですね。」
リリィが微笑みながら言う。
「ええ。私もいつか兄に誇れるような貴族にならなければと思っております。」
エビネがそう言うと、リリィが微笑んで
「それは良い心がけですわね。」
昼食を共にしながら、エビネは直感的に感じていた。
(この方々とは、これからも良い友人になれそうな気がする!)
学園での新たな出会いと学びがエビネの未来を少しずつ彩り始めていた。