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4話



 屋敷の門をくぐると、すでに使用人たちが並び、緊張した面持ちでこちらを見つめていた。

 その中心には、エビネの父――コーデマリー公爵が静かに立っていた。


 エビネは足を止めた。

 ――お父様、怒ってるわよね……。


 後ろからエヴィルが軽く背を押す。


「ほら、行ってきな。」


「……うぅ。」


 エビネは観念して、父の前に歩み寄る。


「エビネ。」


 静かに名前を呼ばれる。

 怒鳴られているわけではないのに、その低い声には冷静な怒りが滲んでいた。


「屋敷を抜け出し、魔物に襲われたそうだね。」


「……はい。」


「危ないじゃないか…。護衛を連れて出掛けるのでは駄目だったのかい?」


 その問いに、エビネはぎゅっと拳を握る。

 叱られるのはわかっている。けれど、嘘はつきたくなかった。


「……学園に行くようになったら、こんなお出かけはもうできなくなるから……。」


「?どういうことだい?」


「学園は全寮制でしょう? そうしたら、ビデンスと2人だけで一緒に街で遊んだりすることも、もうできなくなる。だから……今のうちにって……。」


 ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。


 父はじっとエビネを見つめ、やがて深く息をついた。


「……そうか。それよりもエビネが無事でよかった。」


 ぽつりと零れたその言葉に、エビネは思わず顔を上げる。


「お父様……?」


「エビネの身に何かあれば、私はきっと後悔しても仕切れなかっただろう。」


「エビネが無事だったことが、何よりも大事だよ。」


 そう温かく微笑んで優しく頭を撫でられ、

 エビネは目を見開く。


「お父様……。」

「怖かっただろう?おいで。」

 そう手を広げると

 エビネの瞳からまた涙が溢れ出す。

「死んでしまうかと思って怖かった…!!

 勝手に抜け出してごめんなさい…。」


「二度と、今回のような無茶はしないと約束してくれるね?」


「はい!」


「さ、もう夕食の準備ができているよ。お母様も待ってる。」

 

「はい!」


 エビネがそう言うと2人は食堂へと向かって歩き出した。

 

 エヴィルが笑みを浮かべながら視線をウロウロして居心地悪そうに佇んでいたビデンスに声を掛ける。

「ビデンスも無事で良かったよ!

 今日ゆっくりに休むように。」


 「あ、ありがとうございます…!エビネ様を守れなくて、すみません……」

 

「2人ともまだ子供だからしょうがないよ。

 ただ、これからはエビネのことを絶対に守れるようにならなくちゃ他の人が従者になってしまうよ?」


「それは……」


「僕は食事に向かうよ。ビデンスも食事を食べて身を清めてゆっくり寝なよ。」

 

 「………はい。」


 ビデンスは去っていくエヴィル達の背中をただ見つめることしかできなかった。


 


その夜・ビデンスの想い


 皆が寝静まった屋敷でビデンスはこっそりと窓の外を見つめていた。


 ――昨日のエヴィル様の「ファイアーアロー」……すごかったな……。


 ホーンウルフを一瞬で倒したあの魔法。

 強くて、力強くて、そして――かっこよかった。


「僕も……魔法、使えたら……。」


 小さな呟きが、夜風に溶ける。


 ――僕がもっと強くなれば、次はエビネ様を守れるかもしれない。

 ――エビネ様と……ずっと一緒にいれるかもしれない。


 胸に芽生えた決意を、ビデンスはそっと胸の奥にしまった。

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