「修羅場とか聞いていませんわ!」
今日も今日とてウィルフレッドとそういう展開にならない触れ合いをするぞ!と意気込んでお庭にお散歩をしている時、目の前から黒い影が飛び出してきた。咄嗟に後ろに下がり警戒態勢を取るが、その姿を見てすぐに肩の荷を下ろした。
「チェルシー……貴方、その現れ方どうにかならないかしら?」
「これが"チェルシー"なんだから仕方ないじゃないかぁ、そんなことよりもどう?どこまで進んだ?」
「期待しているような進展は無いわ」
「えぇー?嘘だぁ、原作通りならアリスはウィルフレッドの虜になって、それこそ今頃にはムフフな展開がぁ〜〜…!!」
やはり小説でも手が早かったのか。それよりも原作でも1回目と同じ展開ならつまりその小説はR18になるのでは。野暮な事は聞かない方がいいか。
「そんなことよりもその小説ではどうやってウィルフレッド様を惚れさせていたの?」
「あ〜それ聞いちゃう?」
チェルシーは少しだけ咳払いをし、私の手を引っ張って耳に口を近付けた。
「一目惚れなんだよねぇ、つまりもう惚れまくりってこと。そもそもアイツ、純粋無垢で誰にでも優しい、それでいてなんにでも照れる君を見て独占欲と嫉妬を募らせた結果、闇魔法に手を出してその結果君は死に至っているんだよねー」
「なによそれ……初耳なんだけれども」
「あれ?君ループする前は転生者でこのゲームやってたファンじゃないの?ファンブック買わなかったの?」
「私はただのクソゲーマーよ、ゲームしかやってないわ。その代わりにゲーム内の事なら誰よりも知っている自信があるわよ」
「……」
何故か分からないがチェルシーが凄い顔をして私のことをまじまじ見てきた。なんだ?少し怖いが恐る恐る大丈夫?と口を開く、すると彼女は私に思いっきり抱きついて、そのままずびっと鼻を鳴らした。嘘、あのチェルシーが泣いてる?
「な、なによチェルシー、何かあったの?それとも私がクソゲーマーだったのがそんなに嫌だった?」
「違う……全然違うってば!やっぱり僕アリスちゃんの事好きだ。こんなチャンス二度と……いや、3度もない!ウィルフレッドなんかに渡すもんか……」
「誰が、誰を好きだって?」
後ろから声がして振り返ると、そこにはウィルフレッドが凄い顔をして立っていた。あれ、何これ。修羅場?
「僕がアリスちゃんの事が好きなの!」
「チェルシー、君は俺に利益を与えてくれると言ったから出入り自由にした筈だよね。なのに君は俺のアリスを奪おうとした……最初からそれが狙いだったんだね?」
「それは断じて違うね、僕は本当に協力しようとさたさ。でもアリスちゃんが僕の運命の人だったんだ、仕方ない話だ」
「運命?ふふ、君は分かってないね。アリスの運命の人は俺だよ」
2人がなにやら言い合いをしている間にそろりそろりと抜けようとしたが、チェルシーががっしり腕を掴んでいるせいで動けず断念した。ウィルフレッドが私の事を好きなのはこの世界では当然の常識だが、チェルシー……いや、チェルシーを名乗る転生者はおかしな話だ。まさか女好きが冗談とかではなく本当で、私に定期的に告白してきたのも本当だったとは。
「あの、チェルシー……?運命の人ってどういう…」
「後で話す!今はウィルフレッドとバトル中だから!絶対に僕が勝ってやるからな」
「俺と戦うつもり?勝てるかなぁ……?」
「えっ暴力はちょっと、アリスちゃんここを離れよう!ちょっと失礼しますぜ!」
グッと身体が宙に浮く。私が反応する前に目の前の景色が変わりそこはどこか分からない家の中だった。これは転移魔法?高度な技の筈だがもう習得していたのか。流石主人公、補正があるのか。
「よし、邪魔者は消えたね」
「もう……なによチェルシー、どういう事なの?」
意味も分からずそう聞くと、チェルシーはにししと笑って私の手を取りその手にキスを落とした。そしてその後にまた涙がボロボロと溢れ始めた。
「ねぇ……なんでそんな酷い目に君が合わなくちゃいけないの?」
「な、なによ。本当にどうしたの?」
「そういう優しい所も変わってないんだ」
変わっていない?先程から何を言っているのか理解が出来ない。そんな私を見て彼女はにっこりと笑って見せた。
「早苗、覚えてる?私の事」