「仲良しの儀式」
「アリス、最近どうしたの?」
チェルシーに言われた言葉通り仲良くなる為に頻繁にお茶会に誘ってみているが、今まで私が構わなかったせいか疑われているようだ。
「ウィルフレッド様ともっと仲良くなりたくて…駄目でしょうか?」
「駄目じゃないよ。そんなに仲良くなりたいなら……花嫁修業って事で1ヶ月間俺の家で過ごさない?」
で、出た!ループ中に何度もあったこの誘い。私は一番最初の時に純粋な気持ちでこの誘いに乗り、すっごい目にあった。何とは言わないが彼は凄く手が早い、肉食獣に狩られる草食動物になった気分だった。何度か繰り返すうちにうまいかわし方を見つける事が出来たのだが、仲良くなる為にはこれも受け入れた方がいいのか…?いやいや、そうなるとこのゲームの世界が年齢制限がついてしまう、健全な世界で居るためには避けるべきだろう。
「いいですけれど…約束があります」
「ん?」
「絶対に、その、あの、ぇっ……ち…はっハレンチ!ハレンチな事はしないでくださいよ!」
「え?ふふ、俺達は将来結婚するのに?婚約者なんだからそのぐらい許されるんじゃないのかな?」
猫学の世界は性格にも乱数要素があってもおかしくない。この世界のウィルフレッドはどうやら以前の世界よりもそういう事に興味があるようだ。
「ほら…まだ早いじゃないですか。私達まだ学校にも通ってなくて…」
「だからこそだよ、寮でそんなことあまり出来ないじゃないか」
なんでこの人こんなに食い下がってくるんだ?前のループではこんな事絶対無かった、もしかしてチェルシーがウィルフレッドと接触してなにか吹き込んだ?十分有り得る話だ。ループを無限に繰り返している事や、死なない為に奮闘していることなど様々な事を話してしまったせいか?だけどもこっちは困る、流れに流された回は頭の中がウィルフレッドの事だけになって上手くいかないことが多い。絶対に回避しなくては!
「や、早い……早いわよ…まだ子供よ…?」
「そうかもね、でも俺は君ともっと仲良くなりたいんだ。君も同じ気持ちじゃないの?」
「そうだけどもぉ……と、とにかく!ハレンチな事さえしなければいいです!したら速攻帰りますからね!」
「分かった、じゃあ準備出来たらまた手紙を送るね」
「は、はい!楽しみにしてます!」
なんて言ってからすぐに時は経ってしまい、私は今王宮でウィルフレッドに案内されている所だ。
「で、君の部屋なんだけどさ。凄く傍に居たいから俺の部屋の隣に急遽用意しちゃった」
「まぁ……ありがとうございます?」
ここまでは今までのループと変わりない。そして私の部屋のベッドの枕がふたつあるのも変わらない。恐らく今回も一緒に寝ようと言ってくるだろう。
「じゃあアリス、早速なんだけど一緒に勉強しない?」
「勿論です、へへ…この1ヶ月間楽しみましょうね?」
「もう…アリスは可愛いね」
ここから私とウィルフレッドの攻防戦が始まったのであった。
それから3日経った昼間、私がお庭で薔薇を眺めていた時それは起こった。
「あ〜りす、どう?ここは俺のお気に入りの場所なんだ」
「とっても素敵です、手入れが隅々まで行き届いてて……こんな所で暮らせたらきっと幸せでしょうね」
「気に入ってくれて良かった。……ねえ、ちょっといい?」
なんだと思いウィルフレッドの方を向くと、彼は真剣な顔をしてするりと手を握ってきた。とうとう攻めてきた。ハレンチな事では無いが、彼は相当なやり手で最初はこんな感じのスキンシップを仕掛けてきて、次第にその心の獣を解放してくる。
「アリスからも握って?」
「えと……」
こんな純粋な愛をまともに浴びたのはループ中でも最初の方だ。元々恋人なし歴=年齢であった私には刺激が強過ぎる。何度愛されても全く慣れない、だけども今回のループこそ私から仕掛けないと…!
「なっ……アリス?」
「ググググ…」
自分から抱きついておいてこんな体たらく、これが元女子大生?流石に陰キャ過ぎるだろうが。しかし恥ずかしさには耐えきれずぎゅっとウィルフレッドを絞め殺す勢いで抱き締める。
「アリスっ……!君は君の力を理解した方がいいんじゃないかな!」
「あっごめんなさい!」
おっと忘れていた、今の私は身体も強くなって昔のような弱々しい私はこの手で葬り去ったんだ。これ以上ウィルフレッドを傷付けないように力加減を覚えなくては。