「乱数のせいにしてよろしくて?」
朝起き、今日も日課の剣術を習いに行こうとした時に突然お父様から呼び出された。何事かと部屋まで向かうと、非常に上機嫌そうなお父様がこちらに微笑んでいた。
「アリス、最近頑張っているお前にいい話があるぞ」
「本当ですかお父様!」
あまり私にご褒美をくださらないお父様がこんなこと言い出すなんて天変地異でも起こるのかな?それよりも何をくれるのだろうか、土地?家?島?それとも流行りのアクセサリー?スイーツ?
「ウィルフレッド第1王子とのお見合いが決まったぞ!ほら、どうだ?嬉しいだろう!」
今なんて?努力が無駄になる一言が聞こえたよ
うな?現実?手をつねっても痛いからこれは現実のようだ。
「ありがとうございます、お父様」
こんのクソ親父が何言ってるんだ、私の今までの努力を返せ。
……なんて、序盤の周回では言っていたが今は違う。こうなることは分かっていた、今の私は国の中でも優秀なレベル、この年齢にしては有り得ない程の才能を持っている。より強い人間を傍に置いておきたい王国側からすればそりゃあ王子様とのお見合いの話も出るだろう。
しかしこっちにも手がある、その為に秘密基地を作ったのだから。
取り敢えず今日の鍛錬は一通り終わらせ、今日も今日とて秘密基地に足を運ぶ。その理由は上級魔法の習得の為だ。その為にはポーション等の様々な薬品を調合しなければいけない。直接的要因には関わってこないが、沢山魔力を消費するので単純に魔力補給の為に欲しいだけだ。しかしそんなの買い込んでしまうと周りから色々怪しまれてしまう。なので自分で作る事にしたのだ。
さて、今日はどんなポーションを作ろうか。筋力強化のポーションを作ってモンスター狩りに出るのも悪くはない。
「……誰?」
ピリッとした空気が周りを覆う。これは侵入者が来たという警告だ。飾り用の剣を取り出して外に飛び出す。周りを見渡すが侵入者らしき人は見当たらない。しかし私を誰だと思っている?数え切れない程のループをしてきた私の探知能力を舐めるなよ。
「そこにいるのは誰?」
……反応はナシみたいね。ならば実力行使で行くしかない、そう思い剣を振り上げた瞬間に目の前から子供がガサッと出てきた。
「わぁっ!!ストップストップ、悪い奴じゃないから安心して!」
その人物は綺麗な赤髪を揺らし、青と赤のオッドアイで私を見つめてきていた。
嘘、嘘でしょ?こんなの今までの周回には無かったことだ。まさかこんな所で会うとは思わなかった。
「……何故ウェルフレッド様がここにいらっしゃるんです?ここはエヴァンス家の敷地内の筈ですが」
会うこと自体死亡フラグなのに何故こうなってしまったのだ。意味がわからない。なんだ?これが乱数というものか?乱数とは私が1番忌み嫌う存在だ、やはり猫学は乱数の王とも呼ばれていた実績もあるゲームだ、これくらいは当然という訳か。
「それはね、君を見に来たんだ」
私を?成程、もしかして婚約者がどんなもんかと見に来たのか。少し早い披露になってしまったがこの家を見せる時が来たようだな。
「それは失礼致しました、それでは折角ですし私の隠れ家をご案内しましょう」
「え、隠れ家…これの事?」
「ええ、そうですけどなにか?」
「いやー……はは、なんでもない。じゃあ案内してもらおうかな」
絶妙な笑い方をしている彼の真意は全く分からないが、とにかく今は案内の方が先だ。
まず玄関を開けると薬草のいい匂い。私はこの匂いを嗅ぐことでいつも安心を得ている。そして右手には魔女っぽい鍋、ここではポーションを作る事が多いかな。お次に左側を見れば机に沢山の本、これこれ!幼い頃夢見た魔女の家!どうだ王子!参ったか!?
「へぇ、君は童話に憧れるタイプなんだ」
「そうよ、私魔女に憧れてるの。わるーい魔女、だから貴方の事も利用してやるわ」
決め台詞も実に魔女らしい。こんな性格悪い人間嫌いでしょ?なんて思い彼の様子を伺うが、彼は表情を変えずに私の足元に跪いてそのまま手を取った。
「君にならどんなに利用されても構わないよ」
彼はそう言って私の手にキスを落とした。な、なに?どういう事?どこを見て惚れたの?それを教えて欲しい。と言うかどうしよう、このままだとまた死亡フラグが立ってしまうではないか!落ち着けアリス、ここで取り乱せば前の周回と同じだ。ここは冷静に対処しなければ。
「あらぁ!なんて従順な下僕でしょう!あーっははは!なら最初に私との婚約を解消してくれないかしら?私、貴方の事だいっ嫌いなのよ!」
「……君、嘘ついてるね」
まるで全てを見通すかのような瞳に少しだけ息を飲んだ。これだからこの王子様を相手にしたくないんだ、ゲームを進む事に違う動きをする、予測不可能ゲーマー殺しのウィルフレッド・ハーツだ。
しかし私はクソゲー攻略班でもある、貴方がカマを掛けていることぐらい分かっている。
「嘘ぉ?そんなのついていませんわ、でもウィルフレッド様がそう仰るのなら今だけそういうことにしましょう」
「ふぅん……そっか、今日は君の顔見れてよかったよ、じゃあ俺は帰るね」
そう言って家から出る彼の姿を見送る。全く、嵐のような存在だったな。こんな感じで毎回来れられてしまうとこっちも対応が大変になるなぁ……。
「……ま、いいわ。さっさとポーション作りましょ」