コスモス館密室達人事件
このお話は【小説家になろう】タイアップコンテスト「第5回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞」に合わせて執筆した、『私と猫と迷探偵と』シリーズの読み切りバージョンとなっておりますが、本編を未読の方でも問題なくお読みいただけます。
これを読んで『私と猫と迷探偵と』に興味を持っていただけましたら、本編の方も何卒よろしくお願いします。
本編も、超短編やちょっぴり長編もあり、お暇な時間に気軽に読んでいただけるものになっています。
“推理”ジャンルですが、堅苦しいものではなく、“探偵が登場するドタバタコメディ”としてお楽しみいただけたらと思います。
それでは今回の超短編、楽しんでいただけましたら幸いです。
男の名は赤岩タルト。
探偵事務所を経営する、若き所長探偵である。
今、彼が立っている場所は、とある小さな村の観光名所『コスモス館』の第2展示室前。
この場所で事件は起こった。
彼の周りには、この館の従業員1名と3人の客。
事件発生時に館内にいた全員が赤岩タルトによって第2展示室前廊下へと集められた。
事情を理解していないのか、皆一様に不安そうな表情を浮かべている。
「皆さん。落ち着いて聞いて下さい。先程、事件が起こりました。この第2展示室を、何者かが密室にしてしまったのです」
「何ですって?!」
ポニーテールで白いワンピースの30代の女性客が叫ぶ。
「では、この第2展示室に入れないというのか?!」
「嘘でしょ?!『ムニュモニュラ星とポープピー星のツチノコの生態の違い』の展示を楽しみにしていたのに!」
黒のカッターシャツにベージュのチノパン、七三分けをした50代の男性客と、その妻と思われる同年輩の花柄のブラウスにロングスカートを身に付けた女性客が驚愕の表情を浮かべる。
ここコスモス館は、全宇宙の星々に関する展示を行っている博物館である。
宇宙を表す『コスモ』に、たくさんの資料を展示しているという意味を込めた複数形の『S』を付けて『コスモス館』と名付けられている。
「この展示室のドアというドア、窓という窓、穴という穴、全てを塞がれて、猫の子一匹どころか隙間風一吹きも入れない程の完璧な密室となっています。これは明らかに密室の達人の犯行です」
この赤岩タルトの言葉に、紺色のスーツを着こなした60代のコスモス館館長の男性が落ち着いた口調で尋ねる。
「何のためにそのような事を」
「密室の達人に目的はありません。いや、密室を作り上げる事そのものが目的と言っていいでしょう。密室の密室による密室のための密室。“そこに部屋があるから”。彼らは密室のために生まれ、そして密室と共に生きていくのです」
夫婦の叫喚が廊下に響く。
「なんて酷い事を!鬼畜の所業だ!」
「いやあああああーーー!!!」
赤岩タルトは話を続ける。
「さて、ここに防犯カメラの映像があります。犯人が映っていました。映っているのは、黒のTシャツにダメージジーンズを履いた10代前半の少年です・・・ええ。密室推理小説のお決まりですから、言わせていただきましょう、このセリフを」
赤岩タルトはこの場にいる全員の顔を見渡し、そして言った。
「犯人はこの中にいない!」
お読みいただきありがとうございました!
今回のコンテスト、”1000文字以下”の規定がありましたので超短編となっていますが、
1000文字以下で・・・解決できませんでした。。。
赤岩タルト所長率いるRR探偵事務所には、優秀な猫探偵と自称探偵助手のパワフル女子大生も在籍していますので、ぜひ本編『私と猫と迷探偵と』の方も覗いてみて下さいね。