真白のひまわり
白という名前の娘がいた。名の通り、娘の身体は全身が雪のように真っ白であった。娘は生まれつき体が弱く、さらに日の光を受けると容易に火傷を負う体質をしていた。
だが、白はいつも、外で日の光を浴びて遊びたいと思っていた。今朝もこっそり家から抜け出そうとしていたところを、見張り役である親戚の大次郎に見つかった。
「いやだ、わたしもみんなと一緒に遊びたいんじゃ」
「ええ加減にせえ白、お前にとってお天道様の光は害にしかならん。家でおとなしくしておれ」
大次郎は白を大層気にかけていて、見張り役だけでなく、身の回りの世話や、薬の服用まで手伝っていた。
だがそれも長くは続かず、白は成人を迎える前に、この世を去った。
「大次郎、わたし生まれ変わったら、ひまわりになりたい。そして、太陽の光を目一杯浴びて、誰よりも大きく育つんだ」
遺言を受けた大次郎は、ひまわりの種を都会から取り寄せ、白の墓の近くに蒔いた。
そのひまわりが白の生まれ変わりであることは、すぐにわかった。根も葉も花弁も、全てが真っ白だった。そして奇妙なことに、そのひまわりも日光を受けると、まるで火で炙られたかのように黒ずんでしまうのだ。
大次郎は驚き、ひまわりを家の中へと避難させた。するとたちまち、ひまわりは元気を失い、首を垂れた。
外で遊びたいと、泣いているようだった。
「白よ、お前はそんなにお天道様の光が好きなのか。わかった、おらが何とかしてみせる」
大次郎はそれから、白いひまわりを受粉させ、種を採取した。それから、何個かの種に、色々な農薬や、漢方薬を与えて、栽培してみることにした。
だが、色々試してみても状況は改善しなかった。
大次郎はひまわり栽培の傍ら、勉学に励んだ。やがて、品種改良という手法があることを知った。
遠く離れた都会の大学に入り、最先端の農学を学んだ。
何度も品種改良を繰り返し、あらゆる栽培技術を施された白いひまわりは、徐々に日光に耐えられるようになった。
何年かの月日が経ち、ついに、白いひまわりは、日光への完全な耐性を得るに至った。
「やった、やったぞ白。これでもう、日の光がお前を傷つけることは無い。さあ、外に出て、思う存分に遊んでくるがいい」
富田大次郎博士は、最高傑作である『真白のひまわり』を産み出してから、一週間後に亡くなった。
博士は、故郷の日の当たる丘の上に埋葬されている。墓地の周りには、たくさんの白いひまわりが咲き誇っているという。
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