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手紙の好きなあなたへ

作者: 坂上啓甫

妹の顛末

 ふと郵便受けを覗いてみるとぎゅうぎゅうに詰まったチラシの一番上に白い封筒が置いてあった。

 

 私の妹は突然家を飛び出し音信不通となった、数年後いきなり両親に電話をしてきたかと思うと結婚したという報告、まさに寝耳に水の話であり両親も兄である私も憤りそして心配した、その時はまだ妹個人に対する心配でしかなかったが妹はあちこちで厄介ごとを起こしており借金までしていた、両親はその始末の為に大変な苦労に追われたらしい。

 それ以後たまに両親に電話はあったが私には飛び出した日から一切の連絡はなかった。

 それからしばらくして妹が子供を産み両親に初孫が出来たらしい、色々な経緯はあれど両親はとても喜んでいた、父親が私に孫の写真(私にっては姪にあたる)を見せてくれたことがあったが私は見ることを拒んだ、一目見てしまえば会いたくなる,(それは誰もが持つ普通の人情ではないだろうか)しかし依然私には妹からの連絡は一切なく、それはつまり私は妹には許されていない「何か」があるのだということを意味してるように思えて姪の写真を見なかった。

 

 だがこうして手紙が届いたということは少しは心を開いてくれたという事だろうか。

なにしろ20年ぶりの連絡であり、私はその空白を取り戻すべく妹へ手紙を書くことにした。


妹への手紙


某月某日

妹へ手紙を書いた。

某月某日

妹から返事が来た、

妹は昔から字が上手い方ではなく細かな文字で書かれたそれは決してキレイとは言えないが心温まる内容であった、思わず涙が出た。

某月某日

妹へ手紙を書いた。

某月某日

返事が来た「今までごめん」と書いてあった、謝ることはない謝らなければならないのはたぶん私の方なのだから、今度手紙にそう書こう。


某月某日

妹へ手紙を書いた。

某月某日

返事が来た、この間の私の手紙に対する返事なのだろうか、便箋10枚にびっしりと文字が埋め尽くされている、長ければ良いというものではないが、ちょっとしたイラストや記号、外国の言葉らしきものまで駆使して書かれていて妹の未だ私に対する複雑な感情を意味している様に思えて胸が締め付けられる、とても苦しい。


妹は毎日手紙をくれる、時には一日に二、三通届くこともある、自分はすぐに返事を書いて送る、妹からの手紙が唯一の楽しみだ、一通が一文字が私たちの空白を埋めてくれるような気がする。

妹からの手紙は全部保存しているので家じゅうの引き出しが手紙でいっぱいだ。


某月某日

妹へ手紙を書いた。

某月某日

妹から返事が来た。父さん、母さんの健康を案じ、そして私に対しても申し訳ないという気持ちが切々と書かれていた、あれほど両親に心配をかけていた妹がこんなことを書いてくるなんて、私は写真もなく花が一輪と小さな和菓子が供えてあるだけの簡素とすら言えない粗末な仏壇に妹の手紙を置いて手を合わせた。


某月某日

妹へ手紙を書いた。

某月某日

妹から返事が来た、何か所も修正が施してある、何か心に不安を抱えているのだろうか、得体がしれない惑まどいが伝わってくる、心配だ。


某月某日

妹から返事が来た、文字が乱れすぎていて何が書いてあるのか分からない。


某月某日

妹からの返事、封筒を開けると血が溢れてきて止まらない、妹が心配でならない、いますぐ妹のところへ行きたい、会いたい。


某年某月

投函口にはチラシが乱雑に詰め込まれはみ出している、

もう手紙が届くことはない。


家族の肖像


 この家には4人の家族が住んでいた、お父さん、お母さん、お兄さん、お姉さん、それに僕、ピカピカの新築一戸建て、

ピカピカの家にはピカピカの夢がつまっていた、4人の誰もが明るい未来を信じて疑ってないみたいだった

やがてお兄さんが家からいなくなった、僕はお兄さんとずっと一緒に眠っていたのでとても悲しかった。

次にお姉さんがなくなった、家の中が静かで広く感じられた、僕はとっても悲しいのにお父さん、お母さんはそうでもみたい、もっともお母さんは2人が出ていった晩はいつまでも泣いていてお父さんが慰めていた

 たまに電話からお兄さん、お姉さんの声が聞こえた、だから僕は電話が鳴ると一目散に走って行って「電話だよ」と伝えた、大抵は知らない人の声だったけれども、たまにお兄さん、お姉さんの声が聞こえてきた時は僕は耳を澄まして聴いていた、懐かしい声、とっても嬉しかった、電話はお兄さんの方が多かったかな。

 時々はお兄さんが帰ってきた、僕は「お兄さんが帰ってきた、お兄さんが帰ってきた」と疲れるまでビュンビュン走り回った、

ある時お兄さんはいつもより長く帰ってきた、僕はまた一緒に過ごせると思うと嬉しくてたまらなかったけれども、お父さん、お母さんは困り果てた顔をしていた、お兄さんと喧嘩することも多くなった、僕はなぜだかわからなくて黙って見ているしかなかった。

そしてまたお兄さんが居なくなりもう帰ってくることも電話がかかってくることもなくなった、

その代わりにお姉さんが小さな子供と知らない男の人を連れて帰ってきた、みんな嬉しそうだった、僕は少し輪の外から見ていて、ここにお兄さんがいたら最高なのになと思っていた。

お姉さんはたまに帰ってきたけれどやっぱりお兄さんが帰ってくることはなかった。

ここまでが僕の知っている家族の物語。


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