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【番外編】英雄騎士の秘密

一番楽しんで書きました笑

多少の驚きはあったものの、無事に結婚式を終え、ジークは幸せの絶頂を感じつつ…頭を抱えていた。

今、彼は湯あみを終え、夫婦の寝室に向かうための…いわゆる『初夜』への覚悟を決めている最中なのだ。


社交界におけるジークは、稀代のモテ男のように扱われているが、実のところ、彼に「そういう経験」は一切ない。


確かに、数年前、アリアとの微妙な関係に不貞腐れ、ご婦人方の誘いに乗ったことはあるが、あくまでパーティーの同伴や日中のデートなどの軽い遊びだけである。

しかし流れる噂や、ご婦人方の競うような見栄大会を、わざわざ訂正して回るのも面倒だったので、放置した結果、彼は周囲からは経験豊富な色男扱いとなってしまった。


それに加えて、勝手に載せられた「英雄騎士」としての肩書がジークを追い詰めている。


(今更、()()()なんですとも言えねえぞ…!)


ジークは、すぐにでもアリアのところに行きたい気持ちと、押し寄せる不安やプレッシャーとの間で揺れていた。

風呂を出てからかなり時間がたっているので、もはや身体は冷たくなってきている。


(はっ…!早くしねえと、リアの身体も冷えちまう!)


そのことに気づいて、ジークは慌てて部屋を出た。


(うおおおお、え、俺、本当に()()のか?)


これまでも勢い余ってアリアを押し倒したり、きわどい触れあいを幾度となく重ねてきたジークだったが、いざ本番を目前にし、多少なりとも怖気づいてしまう。もはやそこに英雄騎士としての威勢はどこにもない。

こういう時は、男がリードするものなのだということを、流石のジークも理解している。


(めちゃくちゃしたい…だが、自信がねえ…!)


なんせ、こちらは長年片思いをこじらせ続けた、哀れな男なのである。

妄想だけは一人前だが、彼は元々平民なので、貴族としての()()()()()()()も、もちろん受けていない。


頭の中でぐるぐる考えているうちに、夫婦の寝室についてしまった。


「く、悩んでも仕方がねえ…!」


男は度胸!とジークはノックをすると返事も待たず、勢いよく扉を開けた。相変わらず意味を成さぬノックはもはやご愛敬だ。


しかし、部屋の中はジークの予想に反してしんと静まり返っている。


「リア…?」


まさか寝てしまったのか?と、安心少々、盛大にがっかりしながら、奥にあるベッドに近づく、と膨らんでいた布団の中から「わっ!」とアリアが飛び出してきた。


「うお!?」


飛びつかれて、ジークはアリアともども、ベッドに仰向けに倒れこんだ。

突然のことに、緊張も吹っ飛んでしまう。


アリアは目を見開いて固まるジークの上にのしかかりながら、「うふふ」と抱き着いてきた。


「遅かったのね、ジーク。まあ!身体もすごく冷たい!」


言いながら、ジークを温めるようにすりすりと頬を擦り付けてくる。



―――――なんだこの可愛い生き物は!?



ジークは真っ赤になってわなわなと震えた。その様子をアリアは面白そうに眺めている。

その柔らかな身体の感触と、花のような香りに、ジークはくらくらした。もう不安などどうでもいいから早く彼女を抱きしめたくて仕方がない。


そっと手を動かしたジークの顔を覗き込みながら、アリアはにんまり笑った。


「大丈夫よ、ジーク。私、()()()()()んだから」


その言葉に、ジークはぴしりと固まった。


「え?」


思わず情けない声が漏れたが、それどころではない。

アリアは知っているといった。…何をだ?どこまで?


さっと顔色を変えたジークを見て、アリアはころころと笑い声をあげた。

上機嫌な彼女はどこかあどけなく、可愛らしい、が内心それどころではない。

ジークは恐る恐る訊ねた。


「し、知っているって…何を?」


情けなくも少しだけ声が震える。アリアはきょとんとして、それからいたずらな笑みを浮かべる。


「何って…貴方が()()()だってことをよ!」


放たれた爆弾発言に、ジークは「うわあああ」と叫んで、飛びのいた。

そのあまりの反応の良さに、アリアが腹を抱えて笑い出す。


「あー!おかしい!もう、ジークったら!」

「いやいやいやいや、なんでそんな…!」


―――――そんなことを知っているんだ!?

ジークは二の句が継げなくなって、口をぱくぱく動かした。


「当然じゃない。貴方が一番よく知っているはずよ。私、気になったことはとことん調べないと気が済まないの!」


アリアは逃げるジークの上にのしかかり、またにんまり笑った。


***


結婚式を間近に控えたある日、あらゆることを先回りしてやられてしまったアリアは、暇を持て余していた。だから、気になったことをとことん調べることにしたのだ。


いわゆる、ジークの「女性遍歴」を、である。


アリアは気になったことはとことん調べて、白黒しっかりつけたいタイプだ。

いつまでももやもやするより、しっかり調べてしまったほうがすっきりするはずである。


(嫉妬するにしても、相手を明確にしなくてはね)


これからアリアたちは夫婦として死ぬまで一緒にいるのだ。忙しい夫に代わり、きちんと()()()()をしてあげよう。

そこに少しだけいたずら心があったのは否定できない。とにかく、アリアはすぐに動き出した。


まず、ジェイドを呼び出し、これまでジークと噂になったことのある女性の名前を一通り上げさせた。ジェイドはここぞとばかりに面白がり、嬉々として協力してくれた。


そこで上がったのは思ったよりも少ない人数だったので、アリアはもう、直接会いに行くことにした。


とんでもない行動だが、アリアはもともと貴族らしくない性格なのである。それに、いまや英雄騎士の愛妻として、社交界の花となった彼女に怖いものなどない。



アリアは噂の貴婦人たちのところへ、嵐のように電撃訪問を繰り返したのである。



当然のことながら、アリアの訪問に、全員が目ん玉をひん剥いて驚いた。

アリアにとって予想外だったのは、その後に全員が平身低頭、謝り倒してきたことである。


いわく「調子に乗ってすみません、ちょっと見栄を張りたかっただけなんです」とのこと。

アリアはしばし首を傾げ―――――やがて、満面の笑みを浮かべた。


全員の証言をつなぎ合わせるに、実のところ…ジークに「深い仲」の女性など、アリア以外に他に一人もいなかったのである!


そうして、アリアは心の底からすっきりして、今日という日を迎えたのだ。



***



アリアの話を聞いて、ジークは青くなったり赤くなったり、忙しく顔色を変えていた。

恥ずかしいやら情けないやら、恐ろしいやら…もう、どうしたらいいのか全く分からない。


楽しそうに話していたアリアは、ジークにしがみついたまま、真面目な顔で口を開いた。


「ジーク、私、子供が欲しいわ」

「んなっ!?」


真正面から切り込まれ、ジークは戦いた。

しかし、アリアは気にせず続ける。


「私ね、わかるの。この力は...『古の魔女の力』は、私たちの代で途絶えるわ」


アリアには確信があった。リーゼロッタにも同じ感覚があるようだ。

アリアたちの力が著しく弱まったのは、その証とも言えると考えている。おそらく、この力は、もう持たない。 


「だからね、安心して未来を生きていけるなって、はじめて思えるようになったの。子供って、未来の象徴でしょう?だから、欲しいわ。誰よりも貴方との子供が欲しいのよ。他の誰かじゃダメなの」


穏やかに微笑むアリアに、ジークはしばし見惚れた。


出会ったときから美しかった彼女は、自由な日々を重ねるごとに、より美しくなる。

それこそがジークが見たかった『本来の彼女』なのだ。

ジークの胸の底から、アリアを愛したい、という気持ちが沸々と込み上げてきた。


堪らなくなって、ジークはアリアをぎゅっと抱き締めた。そのままガバリと起き上がり、今度は自分が彼女にのし掛かる。


「アリア...愛してる。俺も、あんたとの間に『未来』が欲しいよ」


そして、嬉しそうに笑って目を閉じたアリアに、ゆっくり、優しくキスをした。




ーーーーー結論から言うと、ジークの不安は杞憂に終わる。


そもそも彼は『本能型』の人間なのだ。開き直って()()()()()行動したのが功を奏した。



代償として、アリアにはかなりの負担を強いることになったが「これも2人の未来のためだ」といけしゃあしゃあと言ってのけ、しっかりとお叱りをもらうことになった。



二人の元に『未来』が訪れる日まで、あともう少し。





これにて完結となります。

はじめての連載でしたが、見守っていただきありがとうございました。


リクエストなどいただけましたら、他の人の小話などもあげていきたいと思います。


なんとなく、他の上級妃の物語も書きたいな~などと思っておりますので、応援がてら☆をポチっと押していただけますと嬉しいです!


今後ともよろしくお願いいたします。

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