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【番外編】元騎士団長の独り言(エリック目線)

かつてグレタナ王国騎士団長を勤めたエリック・ノイマンは、元はしがない男爵家の次男である。

長男以外は自分で身を立てなければいけないので、幼い頃から何となく騎士なろうかな、と思っていた。幸運にも、彼は魔法の才能があったからだ。


そんな彼に、騎士団長に上り詰めるまでの覚悟を決めさせたのが、幼なじみの存在だった。


彼の幼なじみでもある、ロアンナは、大層風変わりな人間だった。

寝ても覚めても本のことばかり。とはいえ、彼女の生まれた子爵家一族は、みんなそのような感じだったので、幼い頃から「そんなもんかな」という感覚で付き合っていた。


ロアンナは美しい少女だった。

黒い艶やかな髪に、真っ赤なルビーのような瞳、白い肌…。彼女が本にしか興味がなかったせいで、男性陣は遠巻きに彼女を見つめることしかできなかった。彼女は高嶺の花だったのだ。


しかし、エリックに言わせれば、ロアンナはお転婆なわがまま娘である。

本を読んでいて、気になることができると、エリックを強制的に付き合わせて調査をした。

断ろうとすると、細腕から投げたとは思えない速度で本をぶつけてくるので、エリックはいつも渋々付き合った。


今思えば、それはとても幸せな日々だった。


どんなに面倒なことでもついうっかり付き合ってしまうのは、エリックがこの幼なじみを愛しているからに他ならなかった。

そして、ロアンナも憎からず想ってくれているのはなんとなく感じていた。


2人は家柄も釣り合うし、なんとなく周囲は、彼らが結婚するのだろうな、と思っていた。

エリックもそう思っていた。



―――――彼女が、時の王に見初められてしまうまでは。



それは、エリックが騎士団に入ってしばらくしてからのことだった。

訓練もあり、ロアンナと会える時間も必然的に少なくなってきてしまっていたころだ。

エリックがちょっと目を離した隙に、ロアンナは好色な王に奪い去られてしまったのだ。



そのとき、エリックは初めて絶望を感じた。自分にとって、ロアンナはそれだけ大きな存在だったのだ。


―――――他にも女はたくさんいるし、これまでだって散々嫁をもらっていたくせに、なんでよりによってロアンナなんだ!


信じられないことに、王にはロアンナ以外に9人もの妃がいるのだ。

騎士になるべく奮闘してきたエリックも、さすがに国に仕える気が失せてしまった。


いよいよ、明日、ロアンナが王の元へ嫁いでいく…打ちひしがれていたその夜、ロアンナは突然、エリックの家を訪ねてきた。


彼女の目元は真っ赤だった。一目で泣きはらしたのだとわかるその様子に、エリックの胸が痛んだ。

一緒に逃げよう、という言葉が喉元まで出かかったとき、彼女は思いもよらない一言を放った。


「エリック、騎士団長になって」

「え?」


エリックが聞き返すと、ロアンナはきつく眉根を寄せながら続けた。


「私、身分も低いし、ただでさえ9番目の妃よ。この先、子供がもし生まれたとしても、その子はとても苦しむことになるわ。第二王妃は恐ろしい人なのよ。本当は結婚なんかしたくもないけど、家のことを考えるとそんなこと言えないわ」


賢い彼女は、その小さな頭をフル回転させて、一生懸命立っていた。

エリックは、責任を放棄した言葉を投げそうになった自分を恥じた。


「力が欲しいの。でも私だけじゃだめなの」


震える声をなんとか振り絞ってそういった少女の願いを、拒むことなどできなかった。


エリックは彼女の手を握って「うん、わかった」と言った。


だから、エリックは騎士団長になった。




その後生まれたアリアともども、王が最後までロアンナを可愛がっていたのは、不幸中の幸いだった。

少なくとも王が生きている間は、2人の安全は保障されていた。


しかし、その後、ロアンナの予想は的中し、アリアは兄デロイからひどい仕打ちを受けるようになった。

その頃にはロアンナの望み通り騎士団長になっていたエリックは、幼い少女を守るべく行動した。


デロイに薄暗い部屋に閉じ込められても、涙も流さずじっとしていた少女が不憫でならない。

瞳の色以外、ロアンナにそっくりなその子を見捨てることなど、エリックにはできなかった。


ロアンナが亡くなってしまった後も、その思いを引き継ぐようにアリアに寄り添い続けた。

もはや娘も同然だ。必ず守ると決めていた。



――――――アリアがジークを連れてきた時、エリックは本当にうれしかった。

若き日の自分とロアンナの姿を重ねては、二人を助けたいと心から思った。



くしくもその思いは届かず、二人は一度、引き裂かれてしまったけれど…。



***



アリアとジークの結婚式に参加した後、エリックは一人、王宮の裏に来ていた。

そこには、歴代の王族が眠る墓がある。

その一角、こじんまりと設けられているのが、ロアンナの墓である。

身分が低かった彼女の墓は、他と比べるとかなり質素なものだ。


しかし、それは他とは比較できないほど綺麗に保たれている。

アリアやナニーが、こまめに掃除をしているのだ。6年という短い月日ではあったが、ロアンナが一人娘を愛し、慈しんだ想いは、きちんと届いている。


「ロアンナ…今日、アリア様がジークと結婚式を挙げたんだ。すごく綺麗だったよ。どんどん君に似てくる…」


墓の前に彼女の好きだった百合の花を手向けながら、エリックは語りかけた。


「なんとか君との約束を果たせたかなあ」


そっと膝をつき、彼女の名前が刻まれた石碑を撫でる。


「俺は本当に、最後まで君のわがままに付き合う羽目になったよ…だから、今度は俺のわがままも聞いてほしい」


エリックは、もう触れることができない愛しい人を想って、涙を流した。


「生まれ変わったら…今度は俺と結婚してくれ、愛してるんだ…」


昔言えなかった言葉を、今なら言える。もう遅いけれど。


自分たちの分も、アリアとジークが幸せになってくれるなら、今の人生はそれで十分だ。

願わくば、次も君と出会えますように…。



エリックはひとしきり泣いてから、いつものように立ち上がって、笑った。



「まあでも、俺にとってあの2人の子供は孫みたいなものだから…その成長を見守るつもりなので、あと数十年は待っていてくれ」



最後にわがままを追加して、エリックは踵を返した。

その後ろで、分厚い本を振りかぶって怒ったような顔をしながら、でも嬉しそうに、「いいよ」と笑うロアンナの声が聞こえた気がした。





本編でなかなかエリックのことや、アリアのお母さんのことを書けなかったので、番外編として投稿させていただきました!

あとはジーク目線の新婚編を明日投稿して、一旦完結にしようと思っています。


この人の番外編がよみたい~!などあればお気軽にリクエストをいただければと思います!よろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ジークの変わりように翻弄されるアリアも大変ですねっ。読んでいる身としては大変楽しいです。 甘い展開から戦闘の展開まで、沢山の要素があってとても楽しく読めました! 能力や仕事について、流れに…
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