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夢のような

一気に2話投稿しております!

青空が澄み渡る、素晴らしい日に、ディートリヒ・フォン・グレタナの戴冠式が行われた。


彼の妹であるアリア姫と、その夫である英雄騎士ジークの活躍によって、悪しき皇国の歴史に幕が閉じられてから、約1年後のことである。


凛々しく美しい新たな国王の誕生に、彼をよく知る商人たちをはじめとする国民はみな、祝福の声を上げた。

そして、その数日後に行われたアリアとジークの結婚式も、彼らを大変喜ばせた。


一度はイフリード帝によって引き裂かれた2人が、愛の力で国を…いや、大陸を救ったというおとぎ話のような物語は、広く知れ渡っていたからだ。


結婚式は、国で一番大きく美しい教会で盛大に行われた。

新国王の戴冠式から、英雄夫婦の結婚式が行われるまでの数日間、国中がお祭り騒ぎだった。



―――――当のアリアを差し置いて。



「また、とてつもなく急すぎる展開なんじゃない…!?」


真っ白な花嫁衣装に身を包んだアリアは、目を回した。

それをナニーとリーゼロッタが微笑ましく見守っている。



今日のアリアは、相変わらず妖精のような美しさだ。

1年という準備期間のなかで、あの仕立て屋マダムと優秀な侍女ナニーの涙ぐましい努力により、彼女は完璧に仕上げられている。

肌は頭のてっぺんから足の指先まで一部の隙も見せず磨きあげられ、黒い髪の毛も艶やかに光り輝いている。健康そうに色づいた頬や唇を見て、ナニーは内心とても安堵した。


実は、イフリードとの戦いの後、アリアとリーゼロッタは急速に体調を崩したのだ。

それというのも、あの夢の中で『魔女』がアリアに告げた通り、力の(心臓)がなくなったからなのか、2人の能力はかなり弱まり、一気に魔力バランスが崩れてしまったからだ。

気力をごっそり持っていかれたような状態が長く続き、2人揃ってしばらくは療養生活を送った。


かたやジークは、イフリードとあんなにも激しい戦いを繰り広げたにも関わらず、軽いやけどを負っただけという超人ぶりを発揮して、周囲を驚かせた。


彼は床に伏せるアリアを異常なほど心配したが、単純に力が出ない、というだけであったし、医者の見立てでは慣れれば元の生活に戻れるということだったので、あまりにも過保護な夫に、アリアは困り果てた。挙句の果てには、ついうっかり、「看病は良いから、結婚式の準備でもしてて!」と叫んでしまったのだ。


それにジークは大層喜び、マダムを呼びつけドレスを作らせ、いつの間にか国で一番大きな教会を押さえて式場を確保し、招待客のリストなどを嬉々としてまとめ始めた。

元々優秀な男なので、アリアの知らないところで、とんでもなく盛大な式が完成しようとしていたのだ。


少し元気になって状況を聞いてから、今日にいたるまで、アリアは口をはさむ暇もなかった。


気づけばあっという間に結婚式当日である。しかもとんでもなく豪勢な。


「まあまあ、別に嫌なわけじゃないんでしょう?本当にすっごく綺麗よ、アリア!」


嬉しそうに微笑むリーゼロッタに心からの祝福をかけられて、アリアはぽっと頬を染めた。


「そ、そりゃあ、嬉しいわよ…でも混乱してしまって……ありがとう、リーゼ」


アリアは改めて、鏡に映る自分を見つめた。

頬を染め、目をきらきらと輝かせた自分は、我ながらまあまあなんじゃなかろうか、と少しだけ褒めてみる。


(まさか、私が本当にジークと結婚できるなんて…)


まるで夢を見ているみたいだ。いや、ジークと再会したあの日から、アリアはずっと夢見心地なのかもしれない。

物思いにふけっていると、控室の扉がノックされた。入室を許可しようと声を出そうとしたアリアの返事も待たず、扉がバタンと開く。


アリアは呆れてため息をついた。


「ジーク!だから返事を待たずに開けたらノックの意味が…」


苦言を呈そうとしたアリアだったが、いたずらな笑顔を浮かべて現れたジークの姿に言葉をのむ。


式典用の騎士の正装に身を包んだジークは、まるでおとぎ話から飛び出してきたように美しかった。

真っ白な礼服は、ジークの銀色の瞳や髪とよく合っている。いや、合いすぎてもはや光り輝いている。


対して、なかば覚悟していたジークも、アリアの姿を見て目を細めた。

真っ白な花嫁衣装に身を包み、美しい宝石をあしらった繊細なティアラを頭に乗せ、ベールをかぶったアリアの神々しさたるや、(格別だ…)とジークは満足げに頬を染めた。


「綺麗だ…リア…」


愛しい人の手を取って口づけたジークがあまりにも優雅で、アリアは一瞬で昇天しかけた。

そんな二人を見て、ナニーをはじめとする侍女たちは、いつかのように(いい仕事したわ~)と内心で拍手喝采だ。


「長かった…ようやく、ここまでこれた」


しみじみとつぶやくジークがあまりにも真剣で、アリアは涙がこぼれそうになった。


「ジーク…」

「リア、愛してる…これからも一生、あんたを守るって誓うよ」


言いながら彼女の頬に口づけたジークの目は、温かく、優しい。

アリアは胸がいっぱいになったが、「私も」と返そうと口を開いたとき…


「はい、とりあえずそこまで~」


突然現れたジェイドによって、ジークが引きはがされた。


「おい、なんだよ!」


ジークが声を上げるが、ジェイドはひるまない。


「仲がいいのは結構ですけどね。時間が押してるんで、花婿は先に式場にお願いします!…細かい進行を俺に丸投げしたのはお前なんだからな!」


恨みがましくジークを見るその表情は、晴れやかでどこか嬉しそうだ。


抵抗するジークの背中を押しやりながら、ジェイドはアリアを振り返った。


「…アリア様、幸せになってくださいね」


ジークと同じくらい、側に寄り添い続けてくれた騎士の言葉に、アリアは胸を詰まらせた。そして、笑顔で頷く。

花が咲いたようなアリアの顔を見て表情をほころばせながら、ジェイドは嬉々としてジークを連行していった。



***



しばらくして、花嫁が入場する時間になった。立ち上がったアリアを迎えたのは、他でもないディートリヒだ。

彼は父親代わりに、花嫁をエスコートする役目を自ら進んで引き受けた。


少しだけ緊張した末の妹の姿に、ディートリヒは慈しむような表情を向けた。

アリアは少しだけ照れながらも、彼の腕をとり、教会の入り口に立った。


すぐに厳かな音楽が響き渡り、扉が開く、神父の前に立つジークの姿を見つけた、自然と顔がほころんだ。緊張しながらもディートリヒとともに歩いていると、ふと、彼がアリアの腕をたたいて目配せした。


「アリア、見てごらん…フローラがあそこに」


フローラというのは、あの日、アリアたちが助けた、イフリードの娘でもある()皇女のことだ。

幼い頃からイフリードによって『古の魔女の血』を利用されていた彼女は、全身傷だらけで、とてもかわいがられていたとは思えない有様だった。おそらく、イフリードが全線で戦いに明け暮れていた時から、血を取られ続けていたのだろう。


アリアは幼い皇女のことが哀れでたまらなくて、ディートリヒに直訴し、その身元を引き受けることにしていた。あくる日の妹に重ねたのか、フローラの不遇に同情したディートリヒも、快く許可を出してくれた。フローラは城で保護されることになり、アリアとリーゼロッタは、自分たちの体調が回復してからは、毎日のように、心身ともに衰弱していた彼女の面倒を見た。

最初のうちはおびえてうまく話すこともできなかった彼女だが、次第に回復を見せ、今ではアリアたちのことを実の姉のように慕ってくれている。

今、彼女は参列者の席に座り、アリアたちに向かって元気に手を振っていた。


そのかわいらしさに、アリアは顔をほころばせた。


小さく手を振り返し、そのままの笑顔で前を向く。


その様子を、ジークが優しい笑顔で見つめていることに気づいて、アリアはまた頬を染めた。



見つめあう二人を見て、ディートリヒは笑いながら、アリアの手をジークの元へ導いた。


「アリア…幸せになりなさい。お前にはその資格があるから」


優しい兄の言葉に、アリアは目を潤ませながらもしっかりと頷いた。


「はい。ディートリヒ兄さま…ありがとう」


アリアは、ジークの横に立った。


優しい顔をした神父が、いろいろと祝福の言葉を述べ、いよいよ、二人が誓いの言葉を述べる番になった。


「新郎、あなたは新婦アリアを妻とし、嬉しいときはともに喜び、悲しいときは寄り添い生涯彼女を愛することを誓いますか」

「誓います」


いつもと打って変わって真面目な返事をしたジークに、アリアはなんだか面白くなった。

そこでふと、いたずら心が湧いてきた。再会してからというもの、アリアはジークに振り回されっぱなしだったが…今こそやり返す時なのではないか?


続いてアリアに問いかけようとしていた神父を、アリアはそっと制し、にっこり笑って言った。


「もうひとつ新郎に確認したいことがあるの」


え、と固まるジークや神父、参列者を無視して、妖精のような姫は愛しい夫に向き直り、口を開く。


「ジーク、貴方、私のモノになってくれる?」


出会ったあの日、いたずらに問いかけたときと同じ表情、声色で告げられて、ジークは真っ赤になった。動揺しつつも、あの日と同様、無意識にこっくりと頷いてしまう。


それを見てアリアは破顔する。



「じゃあ、私も貴方のモノになるわ!」



アリアはそのまま、ジークに飛びついて、自分からキスをした。

無邪気な花嫁に、会場にいた人々は一瞬呆然とし―――――次の瞬間、わっ!と盛り上がった。


初めてアリアから唇へキスされたジークは真っ赤な顔をして固まったが、その後嬉しそうに目を細めて、すぐに主導権を取り返すべく動き出した。


すっかり夢中になってしまった新郎新婦を見て、神父は困ったように笑ったが、気を取り直すと、「ここに、二人の結婚を宣言します!」と高らかに述べた。



おとぎ話のような逸話を持つ2人の結婚式は、やはりおとぎ話のように語り継がれる素晴らしいものになったのだった。


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