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宝物

前後半でまた落差があります。

また若干の暴力表現があるかもしれませんので、苦手な方はご注意ください。

皇女の件が明らかになった翌日、アリアはフリジア伯爵邸の自室で荷物をまとめていた。

彼女はこれから、しばらくの間は王宮で過ごすことになったのである。


いまこの国には、アリアとリーゼロッタという2つの『古の魔女の力』があることになる。

もしイフリードが本当に生き返ったのだとすれば、真っ先に標的にされるはずだ。


守るべきものはなるべく1カ所にあるほうが都合がいいとのことで、アリアが王宮に移ることになったのだ。当然のように、ジークも付いてくる予定である。

大体のものは向こうでも用意してもらえるはずなので、ナニーの助けを借りながら、着替えを数着と、大切なものをいくつかだけ鞄に詰めていく。


そのときふと思い出して、引き出しの中からひとつの箱を取り出す。


「あら、オルゴールですか?綺麗ですねえ」


動きを止めたアリアの手元を見て、ナニーがほほ笑んだ。アリアも頷く。


「ずっと昔、お母さまからいただいたのよ。これだけでも宝物だけど、実は中に…」


そのとき、ドアをノックする音がして、アリアは顔を上げた。

間髪を開けずに扉が開き、現れたジークを見てため息をつく。


「こちらが返事をする前に開けたら、ノックの意味がないわ、ジーク」

「ん~~」


テキトーな返事をしながらすり寄ってくるジークをいなしながら、アリアは「でも、ちょうどよかったわ」とほほ笑んだ。


「貴方にお願いがあるの」

「なんでも叶えてやる」


内容も聞かずに即答する彼に苦笑を返しながら、アリアはオルゴールのふたを開け、一つのネックレスを取り出す。

アリアの手元に大切に載せられたそのネックレスを見て、ジークが目を見開いた。


「リア…それ…」

「15歳の誕生日に、貴方にもらったものよ、ジーク」


3年前、皇国に向かう前日に過ごした、あの素晴らしい日に、ジークがプレゼントしてくれたネックレスが、そこにあった。


「まだ持ってたのか…」

「当然よ。むしろ、これくらいしか大切なものはなかったから…」


母からもらったオルゴールと、ジークからもらったネックレス。

この2つが、アリアの宝物だ。


「私…最初はこのネックレスを、いつも肌身離さず身に着けようって思っていたの…でも、イフリードの元であんなことをすることになって…従うしかなかった自分が恥ずかしくて、悔しくて…このネックレスを汚してしまうような気がして、とてもじゃないけれど、着けられなかった」


俯くアリアに、ジークはそっと寄り添ってくれた。その温かさが、勇気をくれる気がした。


「私…もう間違えないようにするわ。今度こそ必ず正しいことをしてみせる。…だから、これをいま、私につけてくれない?」

「……ああ」


ジークは穏やかにほほ笑むと、アリアから恭しくネックレスを受け取り、慎重な手つきで彼女の首にかける。

カチリ、と金具がはまる音がして、アリアが顔を上げ、ジークを見つめる。


「これからは、このネックレスを見るたびに強くなれると思う。ありがとう、ジーク」


そう言って花が咲くように満面の笑みを浮かべた。

ジークは一瞬苦し気に顔をゆがませ、次の瞬間ぎゅうぎゅうとアリアを抱きしめる。


「………ナニー…」


ジークが小さく呼びかけると、ナニーは「心得ました!」と叫んで部屋を出て行った。

アリアが「え」と思う間もなく、ジークは彼女を抱きかかえると、ソファの上にアリアともどもなだれ込む。


そして、小さく悲鳴を上げたアリアのすべてを呑み込むかのように深いキスをたっぷりお見舞いしてから、小さな体にのしかかり、唸った。


「…反則だ…可愛すぎる、リア…好きだ……」


そしてアリアが音を上げるまで、存分に彼女の唇を味わったのだった。



***



ジークの暴走に伴い、アリアの王宮への到着時間は大幅に遅れた。

いま、遅刻の理由を聞いてきゃーきゃー騒いでいるリーゼロッタの前で、アリアはげんなりとため息をついた。


「リーゼ、もう十分よ!恥ずかしいからあんまり騒がないで!」


たまりかねて叫ぶと、リーゼロッタは「ごめーん」と言って、身もだえていた姿勢を正し、ソファに座りなおす。


「いやあ、でもうまくいってるようで良かったよお。アリアったら、このまま思いつめすぎてストレスで死んじゃうんじゃないかって思ってたから」

「……怖い想像しないでよ…」


あながち間違いでもない気がして、アリアは冷や汗をかいた。


王宮に到着してすぐ、アリアが部屋に入ったのを見届けてから、ジークも仕事に戻っていった。

今、騎士団はイフリードとその娘の捜索を第一に、奔走している。

並行してアリアたちの警備にも人員を割いているので、流石のジークもサボりきれないようだ。


「それにしても『魔女の血』かあ…どういう能力なんだろうね」


紅茶を飲みながら疑問を口にするリーゼロッタに、アリアは「うーん」と首を傾げた。


「どの本にも癒しの力だ、としか書いていなくて、今いちその能力の範囲がわからないのよね。本当に死人を生き返らせることができるのかしら…」


2人で首をひねっていると、リーゼロッタが「ん?」と疑問符を浮かべた。


「ねえ、アリア」

「なあに?」

「イフリード帝を()()()とすると弾かれるって言っていたけど、皇女はどうなの?」

「え?」

「皇女のことも、見られないの?」


言われてアリアはしばしリーゼロッタをポカンと見つめ…

ガタリ、と立ち上がった。


「―――――私としたことが!どうして気づかなかったのかしら!!!」


イフリードを見ようとすると弾かれる、ということが念頭にありすぎて、すっかり頭から抜けていたが、よくよく考えれば2人が一緒にいると思われる今、皇女のほうを()()みる必要があるではないか!


「やってみるわ」

「え、ここで?」


慌てるリーゼロッタを無視して、アリアは意識を集中した。

頭の中で、(皇女…イフリードの娘…)と何度も唱える。だんだん、スーッと意識が薄らいでいく感覚があった。遠くのものを見るときによく陥る感覚だ。


目を開けば、そこはうっそりとした森の中だった。すごいスピードで視界が動き、その中心にある塔が見える。ぐっと力を入れると、今度はその塔のなかの映像が見え……アリアは瞠目した。


「……大変!」


そこには、古びたベッドに横たわる少女が見えた。なんとまだ5~6歳程度だ。

少女の顔は青白く、意識がないように見える。そして、そのベッドに置かれた『謎の箱』を見て…アリアは悲鳴を上げた。


「アリア!?どうしたの!?」


慌てるリーゼロッタの声に合わせるように、アリアの能力は切れた。

あまりのことに言葉も出ないアリアの顔を、リーゼロッタが心配そうにのぞき込む。


「アリア、いったい何が見えたの…?」

「血…血が…」


震える声を何とか出そうとしながら、今見たことをもう一度整理する。


「皇女を早く助けなくては…!このままでは失血死してしまうかもしれないわ!」


叫びながら、アリアは部屋を飛び出した。


(なんてこと…!まさか皇女があんな、年端もいかない少女だったなんて…!)


そういえばディートリヒ達に彼女の年齢を聞くことを失念していた。

あれでは、まだ自分ではなにも判断できないだろう。利用されていると考えるほうが正しい。


アリアは再び、自身と皇女の境遇を重ねてしまい、胸が締め付けられた。

とりあえず見たものをディートリヒに報告しなければ、と急ぎ廊下を進む。


「アリアちょっと待って…」


後ろからリーゼロッタが呼び止める声が聞こえ、アリアは動きを止め、振り返った。


「ごめんなさい、リーゼ、こんな時間だからあなたは部屋に…」


途中、ふと気づく。いぶかし気に顔を顰めたアリアに、追いついてきたリーゼロッタも不思議そうな顔をした。


「どうしたの、アリア?」

「リーゼ…護衛の人がいないわ」

「え?」


言われて、リーゼロッタも辺りをきょろきょろと見渡した。

しかし、部屋の外にも数人控えているはずだった騎士は一人もいない。


「あら、本当だわ!」

「リーゼ、とりあえず部屋に…」


―――――戻りましょう、というアリアの声は、リーゼに届くことはなかった。


突然頭に強い衝撃が走り、アリアは意識を失ったのだ。

かちゃり、と何かが床に落ちる音と、リーゼロッタのおびえたような叫び声が、遠くで響いていた。

お察しの通り物語は佳境に入ります!引き続き毎日投稿予定です。

まだイチャイチャ回もいくつか予定しておりますのでご安心ください。


引き続き応援いただけますと幸いです。

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