表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/40

合わない数

アリアはその日、王宮の図書室を訪れていた。

今一度、『古の魔女の力』に関する書物を調べるためだ。


どうやって時間を作ったのかは怖くて聞けないが、当然のようにジークも同行している。

憤怒の形相で追いかけてくるジェイドを想像して、アリアはぶるりと震えた。


「ジーク…本当に大丈夫なの?騎士団のほうの仕事は?」

「大丈夫大丈夫。どうせ今は手詰まり状態だからな。リアの調査のほうがよっぽど実益があるだろ」


いけしゃあしゃあと言ってのけるので、アリアはため息をついて受け入れるしかなかった。

それに、最近はジークが忙しすぎて、あまり一緒に過ごせていない。

少しだけ、ほんのちょっとだけ、嬉しい気持ちがあるのも否定できないのだ。


アリアは浮ついた自分を戒めるべく、ごほん、と咳払いした。


「…とにかく、改めて『古の魔女の力』について調べてみます。まずは…8つに分かれた能力が、それぞれどんな力を持つのかがわかるといいんだけど…」


図書室についてすぐ、アリアは数冊の本を手に取った。以前母妃が教えてくれた本たちだ。

置いてあるソファに腰かけて本を開こうとすると、ジークがアリアの横にぴったりと引っ付いてきたので顔を顰める。


「ジーク…近くて本が読みづらいわ。少し離れて」

「いやだ」

「…もう!子供じゃないんだから!」


…などと言いつつ、やはりうれしい気持ちが少しだけあり、結局はそのまま読むことになった。


「まずは、魔女の持っていた力を表す文を読みなおすべきね。えーっと、『魔女はとても膨大な魔力を持っており、彼女の歌は人を操り、その血肉は人を癒し、ときに強くし、耳は他者の心の声を聴き分け、目はこの世の果てまで見通した。その知識は人間の数倍深く、世界の理のすべてを理解しているようであった。』…あら?魔力を1として数えても、7つしかないわ」


魔力、歌、血、肉、耳、目、知識…たしかに「8つに分かれた」と書いてあるのに、魔女の力は7種類しか記載されていないようだ。


「いち、にい、さん…おかしいわ。やっぱり7つしかない」


どう思う?とジークを見上げると、彼はなぜかにやにやしていた。


「…なによ」

「ん~~?いや、声に出して数えてるのがすっげえ可愛いなって思って…。もう一回言って?」

「真面目に考えて!」


持っていた本でぽかりと胸をたたくと、ジークはそれすらも嬉しそうに、けらけら笑った。アリアは少しだけ頬を染める。


「…やっぱりジークを連れてきたのは間違いだったわ。全然集中できない…」

「一緒にいると、俺のことばかり考えちゃうから?」


とんでもなく甘い声で問われて、アリアは今度こそ、完全に赤面した。


「こっ…こんな雰囲気になるために来たわけじゃないのよ!」

「こんなって、どんな?」


くすくす笑いながら顔を近づけてくるジークを、アリアは必死で押しとどめた。


「と、とにかく…!どんなものかはわからないけど、『古の魔女の力』には他にも種類があるということだわ。それは後々調べるとして、すでに分かっているものについても確認しましょう」


ぎゅうぎゅうと抱き着いてくるジークは、この際無視することにした。

アリアは再び思考を巡らせる。


(魔力、耳、…これは書いてあるままの理解でいい気がする。歌は、リーゼのことね。目は私…。あとは、血、肉、知識、か…)


「ジーク、私たち以外に所在のわかっている『上級妃』2人とは、話はできたの?特別な力のことはわかった?」


問いかけると、アリアの髪をいじっていたジークは「ああ」と思い出したように言った。


「まだ直接は話せてないが…少なくともそのうち1人がどんな力を持っているのかは、明らかだな」

「?…どういうこと?」

「俺も戦ったことがある」

「戦う…?どこで?」


きょとんと首を傾げたアリアに苦笑を返しながら、ジークが「戦場に決まってるだろう」と言ったので、目を見開く。


「戦場!?…『上級妃』が前線にいたということ?」

「そうだ。騎士として最前線で敵を薙ぎ払っていた。異常な身体能力だよ…この中で言うと、『肉』なんじゃねえの?」


アリアはぞっとした。脳裏に、何度も覗かされた戦場の映像が横切る。


「…あんな所に、女性が…ひとりで…」


イフリードはどこまでも『古の魔女の力』を利用し尽くすつもりだったのだ、と改めて身に染みて、アリアは指先が冷えるのを感じた。

ぎゅっと握った拳を励ますように、ジークがそっと開く。


「…大丈夫だ…。少なくとも体は無事だよ。心のほうは…わからねえけど」


アリアは目頭が熱くなった。自分やリーゼもさんざん苦しめられたけれど、その他の『上級妃』たちも、長い間過酷な環境に身を置いていたのだ。それがつらくて、悔しい。


「…私、いつか他の『上級妃』たちとも話がしたいわ…私に何ができるのか、わからないけれど…」

「ああ。俺が叶えてやるよ。必ず」



―――――ジークがいてくれてよかった、とアリアは心から思った。



イフリードの影におびえる生活は続いているといえるが、ジークがそばにいてくれるだけで、精神的な負担はかなり減った。

リーゼと寄り添うように蹲っていた日々とは全く違う。堂々と立つことができる気がする。


(私が犯してしまった罪は消えないけれど…だからこそ、出来ることを探していきたい。…ジークがいてくれるなら、できるわ)


アリアはじっとジークを見つめて、微笑む。


「私…貴方がいるから強くなれるの」


あふれる気持ちを伝えたくて首を伸ばし、彼の頬にちゅっと軽いキスを送る。ジークはぴしり、と固まった後、「ぐうっ…」というよくわからない唸り声をあげた。

アリアがきょとん、と首をかしげると、ジークは眉間に皺を寄せる。


「…リア…、あんたにはそろそろ理解してもらいたいんだが…」

「…?なあに?」

「俺が起こす行動の()()は…大体あんたにあるんだぜ」


―――――呆れたように言った後、獣のように瞳をぎらつかせたジークに、噛みつかれるようにキスをされ、アリアは目を回すことになった。



***



たっぷりと時間がたった後、図書室のソファの上で、アリアは息も絶え絶え横たわっていた。

流石にやりすぎたと思ったジークが、パタパタと薄い本で彼女に風を送っている。


「…ジーク、もう、本当に…」

「いやあ、悪い悪い。つい」

「ついじゃないわよ!もう!…このままじゃ心臓が破裂してしまう…っ」


いつかリーゼロッタにも言った言葉を吐き出して、アリアは「ん?」と動きを止める。


「…心臓?」

「どうした!?まじで心臓が痛いのか!?」


慌てだしたジークを無視するように、数秒考えこんでいたアリアは、真剣な顔をしてジークに問いかけた。


「…ジーク、心臓が止まると、人は死ぬわね?」

「…? 当然だろ?まじでどうした?」

「…心臓は、誰でも持っているはずよね?」


―――――たとえ、大きな力を持った「魔女」であったとしても。


「ジーク…これは本当に可能性に過ぎないのだけど―――――」


アリアが一つの仮説を口にしようとしたとき、図書室のドアがノックされた。

いまは他に誰もいないので、アリアは言葉を止め、「どうぞ」と返答する。


すると、いつかのようにひょっこりとジェイドが顔を出したので、目を見開く。

横のジークが「うげっ」といやそうな声を出した。


「アリア様!よかった、ここにいらしたんですね!……なんでジークまでいるのかは、後で本人に()()()()確認させていただきます!」


爽やかににっこりと笑って告げられた言葉がかえって恐ろしく、アリアは慌てて先を促した。


「ええっと…ジェイド、私に用事かしら?」

「そうなんです。いやあ…またこんなことを聞くのもどうかなあと思うんですけど」

「…またなの?なんだかすごく嫌な予感がするわ」


戸惑うアリアに、ジェイドは「ははは」と困ったような笑みを向けた。


「念のための確認なんですがね。…イフリードの子供って、()()()3()()()()()?」


問われたアリアは素早く思考を巡らせ…そして、再び顔を青ざめさせた。

朝上げした閑話の伏線を爆速回収!

隙を見つけてはいちゃいちゃさせております!アリアもかなりネジが飛び始めています!


よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ