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束の間の休息、はたまた嵐の前の静けさ

アリアの祖国は皇国から西に位置する、グレタナ王国という、決して小さくはない国である。

グレタナ王国は職人の技術力が売りの国で、武器や建築、工芸品とそれを作り出す職人の能力が大きな財産だ。故にその王宮は、皇国に負けずとも劣らず豪華で華やかなのである。


その派手さが余って、王族の家系図もド派手になったのだ、とアリアは思っている。


なぜなら、彼女には10人もの兄弟姉妹がいるからだ。しかも、全員母親が異なる。


アリアは、その10番目の子供だった。いわゆる末子である。母は、代々王宮の図書室を守る司書を担ってきた家系だったが、ひょんなことから父王に見初められてしまい、アリアを身籠ることになった。

恐らく望まない結婚・出産であったが、穏やかで知識深い母を存外気に入った父王は、その血を継いで賢く、美しいアリアを殊の外可愛がった。それが、アリアにとっては「不幸」の元となる。


なにせそこは、王子王女が溢れ、欲望うごめく王宮。

王座を狙う者から、アリアは疎まれ、危険にさらされるようになったのだ。

特に彼女を目の敵にしたのは、第二王妃の息子であった第一王子デロイである。

当時、何を思ったか父王は王太子を定めていなかった。そのせいで、「お気に入り」のアリアはデロイによって、幼い頃から何度も嫌がらせを受けてきた上に、時には命の危険にもさらされるようになった。

「守ってくれる人間」がいなければ、とっくに死んでいたと思う。


もっとも、アリアだけがやられていたわけではない。デロイは自身の王位継承の障害となりそうな兄弟姉妹の、そのすべてを貶めようとしていたが、特にアリアに対してのそれは執拗なものであった。シンプルに嫌われていたのだ。


その嫌がらせは、父王が突如亡くなり、デロイが正式に王として即位した後にも続いた。三つ子の魂もなんとやらである。



ーーーーアリアは姫だが、社交界デビューすることなく結婚した。

デロイが王となってからより頻繁に行われるようになった王宮の舞踏会をはじめとする、全ての催しへの参加を禁じられていたからだ。


ド派手な王宮にて、派手好きな王族によって行われる舞踏会の一切に出席できない姫は、王国において死んでいたも同然だった。もはやその存在すら知らない者もいただろう。



毎夜のように開かれる宴の、音や光が漏れ出るホールを、遠く離れた自室の窓から静かに眺める日々だった。


母妃も、アリアが6才の時に亡くなったので、アリアはそれから数年は、自室で一人、夜を過ごした。



**


(ーーーまぁ、終わりの数年は、それなりに楽しかったけど...)


昔に想いを馳せながら日の光を浴びてまどろんでいたアリアを、リーゼロッタはじぃいっと見つめている。昨晩の話が聞きたいのだろう。アリアが昨晩こなした、上級妃としてのある「仕事」についての話を、だ。


アリアはまたクスリと笑うと、手をひらひらと振りながら口を開いた。


「わたし、また【やった】わ。.........最低よね。」


吐き捨てるように口にすると、リーゼロッタはブンブンと首を横に振った。彼女とは皇国にきてから出会ったが、ずっと味方としてアリアに寄り添ってくれる。アリアもまた、リーゼロッタにとって自分は唯一の心休まる存在であるという自負もある。年齢も近く、「上級妃」として同じような月日を過ごしてきた二人は固い絆で結ばれているのだ。


リーゼロッタはアリアに寄り添うと、肩を抱いた。


「アリア...あなたは強いわ。わたしの憧れ。わたしの誇り...だからどうか自分を責めないで。あなたは、あなたの役割を正しくこなして、なんとか自分を貫こうとしてるって、わたしは分かってるわ」


アリアはリーゼロッタの温かい胸に抱かれながら目を閉じた。

皇国に連れてこられた15歳のあの日、誓ったことを何度も思い返す。そうして確認する。自分がなすべきことを、だ。


(そう......わたしにはしなければならないことがある......)


アリアはそのためにひたすら努力してきた。自身の「才能」を活かしながら、辛い夜を何度も乗り越え、皇帝イフリードに怯えそうになる心を叱咤してきたのだ。


祖国を離れて3年。アリアは18歳になった。

願いが叶うまで後少し...ようやくここまできた。



陽の光のなか、静か寄り添う二人の姫は、まるで一枚の絵のように美しい。


だが二人とも、その後に「あんなこと」が起きて、全てが無に帰することになるとは、このときは微塵も思っていなかった......。


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