変化と暗い影
急にイチャイチャしますので注意!!!
後半との落差があります。
「リア...可愛い......キスしていいか?」
アリアを膝上に抱え込みながら、うっとりと呟くジークに、真っ赤な顔をして、彼女はため息をついた。
「ジーク......これで何度目だと思ってるの?」
「知らん。法律で1日のキスの上限回数が定められてるわけじゃないし、いいだろう?」
「いや、そういうことじゃなくて...!」
呆れたように眉根を寄せたアリアの眉間を、グリグリと指で撫で付けながら、ジークは彼女の頬に口づける。
「あんたのことが好きすぎて、ずっと一緒にいたくなる...そんで近くにいると、キスしたくなる。キスしたら愛おしすぎて離れられなくなる...とんでもない罠を編み出したな、リア」
「私はなにもしてないっ!」
がーっと叫んだアリアの顎を素早くとらえると、ジークは顔を近づけ、そのまま深いキスを仕掛けてきた。
アリアは一瞬だけ抵抗したが、そのあまりの心地よさに、すぐ力が抜けてしまう。
―――――アリアが真実を話し、想いが通じ合ってからというもの、2人はいつもこんな調子であった。
あの後、帰宅してすぐ、どこからともなくジークが持ってきた結婚誓約書を見て、アリアは開いた口が塞がらなくなった。
その書類は、アリアのサイン以外、なんと国王の承認サインも含めた必要事項全てが、既に完璧に埋められていたのである。
「リアが帰ってきたらすぐ出そうとしてたのに、焦らされたから遅くなった」
「べ、別に焦らしてなんか...」
「あー!長かった!俺、えらいなー!」
なんとなく後ろめたくなったところを容赦なくつつかれて、アリアはあれよあれよという間にサインをさせられた。
ジークは、それをものすごい勢いで教会に持っていき、2人はその日のうちに、書類上の結婚を済ませることになってしまったのだ!
イフリード帝に対する不安はもちろんのこと、建前上は先王の喪中でもある。以前ジークが言っていたように、式こそしばらく先になるが、一応、2人は正式な夫婦となった。
―――――書類だけとはいえ、関係に名前がついてからというもの、ジークの溺愛モードはさらに加速してしまった。
それまではアリアを抱き締めたり、軽く彼女の頬や額に口づけるだけだったジークだが、『夫婦』となってからはそれらの行動が一段......いや、三段くらい進んでしまい、アリアは毎日、目を回していた。
まだ寝室こそ分けているものの、それ以外は...わりと際どい行為までされているような気がして、アリアは内心慌てている。
今されているキスも、以前とは比べ物にならないくらい深く、親密なものだ。
アリアは食べられないように必死にジークにすがり付きながら、息継ぎの合間にか細く訴える。
「んっ...!はぁ、じーく!ちょっ...と、待っ...んんっ」
「はぁっ...!リア...かわいい...もっと...」
そんなアリアの声にも興奮するようで、ジークはますます前のめりになる。
いつの間にかソファの上に押し倒されているような体制になり、アリアは「んむーっ!」と無音で叫びながら、足をバタつかせた。
(た、食べられる...!)
猛獣にロックオンされた草食動物のような気分になって、アリアは冷や汗をかいた。
嫌ではない、決して嫌ではないが、これ以上は...!
そのとき、パコーンという小気味良い音がして、ジークが「うっ」と唸った。
彼は渋々離れ、その音を立てた...もとい、そんな音が鳴る勢いでジークを叩いた相手、を睨み付ける。
そこには、絶対零度の微笑みを浮かべたジェイドが丸めた紙束を手にして立っていた。どうやら、その紙で作った武器(?)でジークの頭を叩いたようだ。
「ジェイド...またお前か!新婚の邪魔をするなんて、配慮がないぞ!...知ってるか?そんなやつは、馬に蹴られるらしい」
呆れたように言ったジークに対し、ジェイドは青筋をぴきりとたて、冷たい声を出した。
「配慮...?仕事が溜まりまくっているくせに、いつまでもいちゃいちゃいちゃいちゃ...サボり続ける不届き者には、言われたくないな」
心なしか室温が下がったような気がして、アリアは震えた。
ジェイドは今はディートリヒの側近として働いている。しかし、戦後の事務処理が落ち着き、本格的に活動が始まった騎士団において、ジークがあまりにも仕事をサボるため、彼への唯一の対抗馬として、こうして駆り出されることも多い。
忙しい彼にこうして出張らせていることに対して、多少なりとも責任を感じ、アリアも思わず小さくなった。
「ジェイド...ごめんなさい、私がしっかり追い出せなかったから...」
「いいえ、アリア様。悪いのは全てわかった上で、貴方に襲いかかっているこの脳筋です...今どき、動物でももっと言うこと聞くぞ、コラ!」
捲し立てるジェイドに、ジークはうんざりしたようにヒラヒラと手を振った。どこまでもナメた態度である。
「へいへい...行きゃいいんだろ、行きゃ」
ジークは最後にもう一度アリアにキスをすると、のそのそと立ち上がった。
―――――実際、ジークをはじめとする騎士団はかなり忙しくしていた。
理由は言わずもがな、イフリードのことである。
あの後、アリアは何度かイフリードのことを見ようとした。しかし、何故かうまくいかない。
毎回、バチン!という衝撃が走り、何故か能力が切れてしまうのだ。
それを受けて、ディートリヒがイフリードの能力に対する考察を深めた。
「彼は、『古の魔女の力』をコントロールできると言ったね?...もしかしたら、その能力の派生で、自身に能力が使われることを防ぐこともできるのかもしれない」
その意見に感心しながらも、アリアの脳裏に不安がよぎる。
――――――もし本当に自分の能力が弾かれたのだとしたら...
(イフリードが生きている可能性が、消せない...)
それこそが、最大の問題だった。
アリアは改めて、イフリードの能力について考えていた。
リーゼロッタともすり合わせた結果、今わかっていることは少ない。
1つ、イフリードは、『古の魔女の力』を持つものに、強制的に能力を発動させることができる。
2つ、イフリードが持つ(と思われる)力では、『古の魔女の力』の力を最大限に引き出すことはできない。
3つ、発動するとき、おそらく彼の目が光る。
以上が、現時点で確実性の高い情報たちだ。
ここに、「自身に『古の魔女の力』が使われることを防ぐ」と「生き返ることができる」が加わるとすれば、とんでもない能力数である。そんなことはあり得るのだろうか。
アリアたちは自らの意思で『古の魔女の力』を使用することができるが、大きな力がゆえに、発動するたびに大小さまざまな反動が生じる。
それは体力的なものであったり、精神的なものであったり、能力によって異なるが、基本的には使用には一定の『代償』が伴うはずである。
(イフリードはどんな能力を、何を代償にして体に入れているのかしら…)
『古の魔女の力』については、資料がとにかく少ない。おそらく意図的に残されないようになっているのだ。危険な力が、誰かに利用されることがないように。
それなのに、イフリードはすべてを知っているかのようだった。
アリアには、なぜ彼が『古の魔女の力』について知っているのか、という疑問に対して、いくつか思いついていることがある。
(ひとつは、何らかの文献を手に入れたから…もうひとつは、彼自身が『古の魔女の力』を有しているか、だわ。だとしたら、彼の能力もいずれかの力に由来しているはず…)
今一度、自分たちの力について調べなおす必要がある。
アリアは、ぎゅっと拳を握った。
次回、ジーク視点です。




