不安
いよいよアリアの秘密が明らかになっていく予定です!
ここからだんだん戦い的なものが増えていくので、R15的な要素が出るかもしれません…苦手な方はごめんなさい。
怪しいところは前書きに注意書きを書くようにいたします!
「こ、このままじゃ心臓が破裂して死んでしまうわ…!」
「え~~~愛されすぎて死にそうってこと~~~?もう、惚気ちゃって!」
夢のようなパーティーから数日後、相変わらず溺愛モードを崩さないジークに耐えかねたアリアは、今、リーゼロッタの様子を見に行くという建前で王宮に緊急避難していた。
大慌てで、用意された部屋に駆け込んできたアリアをなだめながら、リーゼロッタは「きゃっ」とかわいらしい声を上げる。
「ジークさんって、アリアから聞いていたのと、かなりイメージ違うんだねえ!愛されちゃってうらやましいっ」
リーゼロッタはパーティーにこそ参加していなかったが、アリア本人やディートリヒから2人の様子を、それはそれは詳細に聞いていた。ぽっと頬を染めながら黄色い歓声を上げる友人に、アリアは慌てる。
「あ、あんなの私が知っているジークじゃないわ!前は…もっと飄々としてて…あ、あんな甘い言葉をぽこぽこ出すようなタイプじゃなかったのに…!」
アリアはとてつもなく混乱していた。ただでさえ結婚だなんだと衝撃的な事態が多すぎるのに、毎日こんな状態では落ち着いて考えることもできない。
今日だって、ついて来ようとするジークをなんとかナニーに抑えてもらって、ようやく引きはがすことに成功したのだ。
「え~、じゃあアリアは嬉しくないの~~~?嫌なの?」
「い、嫌ってわけじゃないけど…でも…、」
「アリアはずっと好きなんだもんねえ、ジークさんのこと?」
「いや…まあ…でもほら、昔のことだし…」
「『お仕事』のことが気になるのぉ?」
きょとんと首をかしげて問いかけてられて、アリアはぴしりと固まった。
リーゼロッタは無邪気なふりをして、突然核心をついてくることがある。柔らかな物腰やふわふわした雰囲気に油断をしていると、すぐ刺されるのだ。
――――そう、アリアは確かに、心の隅ではこの状況を喜んではいる。しかし、ジークのことを上手く受け入れられない、理由があった。
今日はそのことも確認したくて、リーゼロッタに会いに来たのだ。
「リーゼ…他の『上級妃』が、今どうしているかって、聞いている…?」
アリアは、ここ数日ジークに翻弄されていて確認できなかったことを問いかけた。
リーゼはお茶菓子をつまみながら「うーん」と小首をかしげる。
「アリアたちと別れた後にね、ディートリヒ陛下から色々聞かれたから答えたよお。上級妃の名前とか特徴とか…ほら、後宮にいた姫の数が多すぎて、身元確認にもすごく時間がかかっているみたい」
「やっぱり…ディートリヒ兄様はどういうわけか『ご存知』だから、きっと勘付いているはずよ…リーゼも確認された?」
「されたされた~!アリアとの会話で、そうなのかなって思ったから、『私は声を持っております』って伝えたよ!ほら、私はもともとユーディタにいた時から、いろいろ噂が出回ってたしさあ~」
「...兄様は、なんて?」
「『そうか』って言って、それだけ~~!拘束魔道具とかつけられちゃうと思ってたから拍子抜けしちゃった!しかもこんなに大きな部屋までもらっちゃったよ~」
えへっと笑うリーゼロッタに対し、アリアは難しい顔をした。
「...冗談でもそんなこと言わないで。リーゼにひどいことをするようだったら、例え兄様相手でも、分厚い本をぶん投げて抗議するわ...それにしても、兄様は一体どうするつもりかしら...」
アリアの言葉ににっこりと笑ったリーゼロッタは「アリアはフライパンも包丁も投げちゃうもんね~」と楽しげにつぶやいた後、眉を下げた。
「でも、イフリード様も亡くなったって言ってたし、そんなに考えなくてもいいんじゃない~?」
「......リーゼは、イフリード帝が本当に死んだと思う?」
アリアの問いかけに、リーゼロッタは目を見開いた。
「アリアは......生きていると思うの?」
ジークの話では、イフリード帝の寝室に奇襲を仕掛け、彼の首を切り落としたという。
渋るジークに詰めよって、直接聞き出した情報だから間違いはないだろう。
『普通の人間』であれば間違いなく即死だ。だが、アリアの考えが正しければイフリード帝は…普通の人間ではない。
「私にも、確信があるわけではないの。だから、可能性をつぶすためにも、『上級妃』の居場所を明らかにしたい」
「でも、そんなの私たちだけではどうにもできないよ。やっぱりディートリヒ陛下ときちんと話し合わないと」
リーゼロッタの提案はもっともだ。しかし、アリアはそれを躊躇ってしまう。
ディートリヒと向き合う時…それは、アリアが「真実を告げなければいけない」時だ。
アリアは、自身やリーゼロッタが語る真実を、ジークに聞かれることが怖かった。
真実を知れば、今向けてくれている温かな視線も、甘い言葉も、失われるかもしれない。
(ばかね…私ったら…だからって逃げることは許されないのに…)
帰国してからジークと過ごした日々は、確かにアリアにとって困惑する状況ではあったものの、やはり幸せなものだった。まさしく夢のような日々だ。
でも幸せを感じるたびに、あの恐ろしいイフリード帝の幻影が脳裏を横切る。
真っ赤に燃える髪や瞳を思い出して、アリアはぎゅっと拳を握った。そんな彼女を、リーゼロッタは心配そうな表情を浮かべて見つめている。
やはり、ディートリヒと話をする必要がある、と顔を上げたところで、二人がいた部屋の扉をノックする音が響いた。
慌てて入室を許可すると、開いた扉の隙間からひょっこりとジェイドが顔を出した。
騎士団にてジークの同僚として、アリアとも親しかった彼は今、ディートリヒたっての希望で、王の側近として仕えている。日々忙しくしているのに、こんなところに顔を出したのが意外で、アリアは目を見開いた。
「ジェイド!一体どうしたの?」
「よかった、アリア様、リーゼロッタ様、お二人ともまだ一緒にいらしたんですね」
ということは、2人ともに用があるということだ。アリアはなんだか嫌な予感がした。
ジェイドはほっとしたような顔をして、静かに入室すると、ちょっとだけ困った顔をした。
「あの~~~こんなことをお二人に聞くのもどうかなあって思うんですけど」
「なあに?もったいぶらないで教えて」
アリアが催促すると、ジェイドは困ったように眉を下げた。
「あの~~~、先に言っておきますけど、俺の頭がおかしくなったわけではないですからね」
「だから、なあに?」
リーゼロッタと二人で首をかしげると、ジェイドはごほん、と咳払いし、とんでもないことを聞いてきた。
「お二人とも、イフリード帝の死体がどこにあるか、なんて、知らないですよねえ?」
予想だにしなかった一言を浴びせられて、一瞬顔を見合わせた2人の姫は…、
――――その後、揃って顔を青くした。
いつも読んでいただきありがとうございます!
だんだん曇行きが怪しくなってきましたが、頑張ってイチャイチャ要素も入れていくようにいたします。
多分また明日投稿できるかと…!よろしくお願いいたします。