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騎士の記憶①(ジーク目線)

その時々、ジークが何を想っていたのかを追いかけます。

時をかけるので、長い。ごめんなさい。

「今度はもう、絶対ェ逃がさねぇからな」


ポカンとして自分を見るアリアを見つめながら、ジークはぐっと喉に力をいれた。


ーーーーちくしょう、そんな顔も可愛いぜ、とか思ってる時点で俺の負けだ!!


ようやく望みを叶えた男の頭のなかは、お花畑状態であった。

大体、人の気も知らずに、このお姫様は無防備過ぎるのだ。ジークがいまどのような想いで目の前にぶら下げられた「ご褒美」を我慢しているのかわかっているのだろうか。いや、わかるはずがない。


アリアにはわからないのだ。自分がどんな想いで「騎士」になったのか、なんて。


***


「ジーク、貴方、わたしの騎士になってくれないかしら」


目の前で天使の如き微笑みを浮かべる少女の言葉を、ジークは呆れた面持ちで聞いていた。

自分のような人間が、貴婦人を守る騎士だなんて!なれるはずがない、と断るつもりだった。

だが、ふと気づいたのだ。


ーーーー少女の金色の瞳が、不安げに揺れていることに。


そうだ、そういえばこの少女は肌身離さずナイフを持ち歩いていた。あれも、命を狙われる可能性が常に付きまとっているからだろうか。

今日、あの男に捕まった瞬間ジークは「死んだ」と思った。そして怖かった。あんな風に命の危険にさらされるような状況に、常に置かれている心境とは、どんなものだろうか。



(守ってやりたい...守れる男になりたい...)



ごく自然に、そんな気持ちが沸き上がってきた。

そして気づけば、ジークはアリアの手をとっていたのである。



ーーーーーそれからの日々は、これまでの人生とは全く異なり、キラキラとした充実したものになった。もちろん生活も劇的に改善された。


師匠であるエリックの教えは厳しかったが温かく、愛情深かった。

アリアだけでなく、ジークの身も案じ、慈しんでくれているのがわかったので、期待に応えたくて必死に努力した。実の父親には抱かなかった尊敬と親しみを覚えた。


こちらがひぃひぃ言っている横で、呑気に読書に勤しむアリアにムカつく日もあったが、ページをめくるごとにチラリとこちらの様子を見ていることに気づいてからは、許してやることにした。よくよく思い返してみれば、彼女はどんな訓練のときもジークたちの側にいた。別に本を読むだけなら、部屋にいればいいのに。


実際に目にしたアリアの現状は、本当に厳しいものだった。

エリックたちがどれだけ助けようとしても、相手は国王である。

怪しい気配がいつでも彼女を監視していることに気づいてからは憤りが止まらず、意地でも強くなって、全員ボコボコにしてやると誓った。


自分に魔法の才能があることには驚いたが、好都合だった。

魔法が使えるのと使えないのでは、強さが段違いだったからだ。

無理やり騎士団に所属させられたときは少し参ったが、これも結果から見れば悪くなかったと言える。



それよりも参ったのが、出征の指令が出るたびにアリアが泣きそうな顔をすることだった。

今にも国王に飛びかかりそうなくらい真っ赤な顔をして憤る様子を見ていると、こちらが辛くなり、絶対に生きて帰ると決めた。どうせならあの最低な国王に一泡ふかせてやる。



戦場は悲惨だった。恐ろしくはなかったが、皇国に怯えて、前に進むことしか許されない敵兵が哀れでたまらなかった。ジークはたくさんの敵を切った。アリアが自身の帰りを待っているとわかっていたから、なんとか耐えられていたというだけだ。



どんなに疲れて帰っても、駆け寄ってくるアリアの顔を見れば頑張ろうと思えた。

その時にはもう、認めざるを得なかった。



ーーーーー自分がこの小さな姫を、どうしようもなく愛していることを。



しかし、ジークはろくでもない暮らしをしていたあの頃から、相変わらず「線引き」をしっかりしてきた。



手を出していいこと、悪いこと、近づいていいヤツ、悪いヤツーーーーー欲しがっていいもの、悪いもの。



アリアは、自分なんかが触れていい存在ではない、と心のなかで何度も言い聞かせた。

少女から一人の女性へと少しずつ、美しく、成長していくアリアの金色の瞳に、自分と同じような熱が込められるようになっても、ジークは目をそらし、「線引き」を守り続けた。

悲しそうに眉を下げる彼女の気持ちに、気づかないフリをした。



幾度もの戦争を乗り越え、「英雄」と呼ばれるようになると、周りの目が変わってきた。



本来ならばジークのような平民など呼ばれるはずもないようなパーティーの招待状が、いくつも届いた。

立場上断れないものがあったので仕方なく参加すると、わらわらと女どもが寄ってきて、呆れてしまった。

自分が女受けする容姿なのは、何となく気がついていたが、よくもまぁ、と薄暗い気持ちが湧いてきた。



ーーーーなんでこいつらがこんなに楽しそうで、姫さんがあんな風に扱われなきゃいけないんだ。



今こうしている間にも、アリアは命を狙われる不安に怯えているのに。

街には昔の自分のように、飢えに苦しむ民が溢れているのに。



きらびやかな王宮が気持ち悪くて、微笑みながらすり寄ってくる女の匂いに吐き気がした。

ハリボテのような美しさを目にするたびに、アリアに会いたくなったが、参加してしまった自分を見られるのも嫌だった。

それに、大人になるにつれて、あの美しい瞳とどう向き合ったらいいのかもわからなくなっていた。自分の欲が見透かされてしまうのではないか。



逃げるように宴に参加するジークを、アリアはいつも何もいわずに見送った。

当然のことなのに、少し不満に思う自分自身にもイラついた。



今思えば思春期特有の感情だったのかもしれない。もてあました想いをぶつけるように、次第に女からの誘いに乗るようになった。

ただ、誰とどこで何をしようと、満たされることはなかった。どんなに求められても、応じる気にならない。結局色々なところに飾りのように連れていかれるが、それだけだ。

それ以上触れあいたいとも思わなかった。



別に誰とも深い仲にはなっていないのに、周りが勝手に噂しているのはわかっていたが、面倒だから放置した。



その頃には、アリアとの間に流れる微妙な空気を、どうしたらいいのかもわからなくなっていた。



騎士団の同僚のジェイドは、そんなジークの葛藤に気づいてくれる数少ない存在だった。


「ジーク、いいのか?このままで。きちんとアリア様と話し合った方がいい」

「いいもなにも、別に...話し合うこともねぇよ。元々住む世界も違ぇし」

「あーあー、そうやってガキみたいに拗ねるなよ。後悔しても知らないぞ」


彼はジークがどうしても側にいられないとき、代わりにアリアについてくれているので、2人の事情にも詳しい。


今思えば、この時ジェイドの言うことを素直に聞いていればよかったのだ。そうしたらあんな想いはしなくてすんだのに。

ここを抜ければ溺愛モードに突入しますので、ジークのネジが外れるまでもう少しお付き合いください。

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