元カノが家族になった。そして元カノの妹とキスをしている所を元カノに見られた。
元カノが家族になった。そして元カノの妹とキスをした所を元カノに見られた。完
完結編です。
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前編↓
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中編↓
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七海との仲直りが終わり3ヵ月弱、季節は冬を迎えた。
現在、我が竜胆家では3ヵ月前では考えられない光景が食卓を彩っている。
「はい、緋色。あーん!」
「お、お兄さん、私の方を!」
昼間、冬休みに突入し両親が仕事に行ってるのを良いことに、それぞれが料理を俺の口元に寄せている。
「あ……あの、二人とも、自分で食べれるから……」
「そんな事言わないで良いから。お姉さんに甘えな?」
「ね、姉さん!お兄さんが困ってます、ここは私が──」
「あんた抜け駆けしたいだけでしょ!もう!」
「姉さんだって!」
僕の両脇でぎゃーぎゃーやかましいんだよ……
「……戻る」
昼食はそこそこに、僕は二人を置いてリビングを離れた。
「ちょ、緋色ー!」
「お兄さん!?」
何だってこんな事に……
七海と壁を作ってよそよそしくやってた頃が既に懐かしいよ……
※
最近、私には困っている事があります。
あ、お忘れの方の為に自己紹介をしておきましょう。
私の名前は竜胆 葉月と申します。中学3年生です。
姉の七海は実姉で、お兄さん──緋色さんは私の義兄に当たります。
今からおよそ1年と9ヵ月前、運命の悪戯で私達は家族となりました。
私達3人は元々見知った関係で、特に姉さんとお兄さんは元恋人同士だったのです。
……この時点でかなり複雑な関係なのはお分かり頂けるでしょう。
ただ問題は私もお兄さんに恋をしてしまっているという事です。
きっかけなんてありません。
お二人が会う度に私にも気を掛けてくれるお兄さんに気付けば惹かれていて……
つい最近まではこの気持ちを押し殺そうと思っていました。
でも……私は自分のワガママでしてしまったキスによって、この恋の諦め方が分からなくなってしまいました。
3ヵ月経った今でも頭から離れないんです。
私、必死に忘れよう、諦めようとしたんです!
……だと言うのに……
最近の姉さんはおかしいんです!
お兄さんと仲直りしたのは良しとしましょう。
私も以前のように、付き合っていた頃のようなお二人を見れて嬉しいですから。
でも!でもです!
両親には決して見せませんが、私にはお構い無く、見せ付けるようにイチャイチャしだすんです!
こないだなんて「緋色、お風呂上がったよ次入りな♡」って言って後ろから抱き付いてたんですよ!?
あれは危なかったですぅ……両親の目を盗んでちょこちょこあーゆー事して……!
お兄さんもお兄さんで何かまんざらでもない顔してますし!!
私……諦めたいんですよ。
お兄さんは今は家族で……お付き合いするとなったら色々、お母さん達に迷惑が掛かるでしょうし……
でも……姉さんがお兄さんとイチャイチャしているのを見る度に思ってしまうんです。
──負けたくないって。
お兄さんは私だけのお兄さんなんです……!
お兄さんには悪いですけど、このまま誰とも結ばれず、ずっと私のお兄さんで居てくれたら良いとさえ思ってました。
それもキスをしてしまうまででしたけどね……
あのキス以来、一人占めしたい、お兄さんともっと深い関係になりたいという欲が止まらないんです。
だったら……もう、こうするしかありませんよね。
「お兄さん、今良いですか?」
私はお昼にご迷惑をお掛けしたお詫びと、ある要望をお伝えする為に、お兄さんのお部屋のドアをノックします。
すぐに返事は返って来たのですが、何やら声が変でした。
『は、葉月ちゃん!?ちょ、ちょっと待って……!』
「……?」
……何か、嫌~な予感がします。
私は間違ってたら謝れば良いと思い、お兄さんの了承を待たずに部屋を開けました。
「やっぱり……姉さん!何してるんですか!!」
「待ってって言ったよねぇ葉月ちゃん!?」
私の視界に飛び込んで来たのは、ベッドの上の壁際にお兄さんを押し込み、今にも唇を奪おうとしている姉さんでした。
こういう事するから私は……!!
「もう、姉さん!最近度が過ぎますよ!」
私は急いで姉さんをお兄さんから剥がし、距離を取らせます。
「ちぇー良いところだったのに」
「た、助かった……」
私の腕の中で姉さんがぶーたれて居ます。
全く……と言うか、この二人……もう済ませること済ませちゃってませんよね?
付き合っている頃はそのような様子はありませんでしたが……
「おい七海、いい加減こういう事するの止めろって何度言えば分かるんだ」
お兄さんがベッドの上から姉さんを見下ろして文句を言っています。
どうやら私の知らない間に何度も同じ事をしていたようですね……
姉さんは悪びれもせずに答えます。
「先にあたしを襲おうとしたのは緋色じゃない。あたし、緋色の練習台になってあげてるだけだもん」
「そ、それは……!」
「……お兄さん……」
「そんな軽蔑した目を向けないで葉月ちゃん!」
はぁ……だから私は3ヵ月前に言ったんですよ。
姉さんは一度言ったら聞かないって。
キスをすると言えばするんですから。
でも、どうやらこのうぶな反応……まだキス止まりと見て良いでしょうか?
「はぁ~あ。何か興が削がれちゃったわ。緋色、また今度ね♡」
「……あ、あぁ──」
「お兄さん?」
「こほんっ。七海、もう駄目だぞ。今日で最後だからな」
「はーい♡」
「むぅ……」
姉さん……ほんと悪魔って言葉がよく似合いますよ。
サタン七海ですよ。妙に語呂がいいですね。腹が立ちます。
姉さんは颯爽とお兄さんのお部屋から出て、ドアの隙間からウインクをしてから姿を消しました。
「はぁ……お兄さん、ちょっと姉さんを甘やかし過ぎですよ?」
「はは……そう言う葉月ちゃんは最近僕に厳しいね」
「お兄さんの──いや、姉さんのせいです」
「まぁこうなったのは葉月ちゃんが僕達に仲直りを促したせいだけどね」
「……お兄さん、私のこと嫌いでしょう?」
「いや、大好きだよ?溺愛してると言っても良い」
本当でしょうか?最近のお兄さんはどうも私に刺のある物言いをする時がありますからね。
……嫌われてしまったならそれで良いのかもしれません。
諦める事が出来ますか──
「ありがとね、葉月ちゃん。君のおかげで僕達は前みたいに話せるようになった」
「……!」
お兄さんは私の頭の上に手を乗せて、優しく撫でてくれました。
……こういう事をするからこの人を諦められないんですよ……
「……お兄さん……私……」
「なんだい?」
「……いえ……」
──好きです。
ただ一言そう言えたらどれだけ気持ちが楽になるでしょうか。
私には勇気が無いんです。
世の中のカップルの皆さんは凄いですね。
好きだと伝えるのってとても怖くてたまりません。
姉さんも……尊敬しますよ。本当に。
キスをする時は姉さんの、お兄さんの為と自分に嘘をつけたのに、告白はそうはいきません。
でもいつまでもこうやってうだうだしている訳にもいきません。
目的を果たさないと。
「お兄さん、もうすぐクリスマスですね」
「! そ、そう言えばそうだね」
何か嫌な事でも思い出したのか、不自然なリアクションを取りますね。
あぁ……そういうことですか。
「姉さんと別れたのもクリスマスでしたっけ」
「うぐっ……そう、だったね」
「お兄さんは本当に分かりやすいですね」
「……悪かったね。クリスマスにはあまり良い思い出が無いんだよ」
……私はそうでも無いのに。
熱で動けなくなった私を一生懸命探してくれて、おぶってくれたあの背中の暖かさを、私はまだ覚えています。
お兄さんや姉さんには大っぴらには言えませんが。
さてと、話しやすい空気も作れたでしょう。
いざ……勇気を出して、私!!
「あ、あの、お兄さん!」
「お、おぉ……なに?」
「クリスマスイブ、私とで、で、デぇ……デート!!しませんか!?」
「え……?」
「駄目……ですか?」
「い、いや、駄目じゃないけど……」
何か言いにくそうにするお兄さん。
はぁ……お兄さんがこういう反応をする時は決まって姉さんが絡んでるんですよね。
「……姉さんとダブルブッキングしちゃったどうしよう、ですか?」
「はは、さすが僕の義妹。鋭いね」
「嬉しくありません。お兄さん、どっちを選ぶんですか?」
「……どちら、ねぇ……?」
……これは謀らずとも姉さんと私、どちらを選ぶのかの構造が出来てしまいました。
ただ私は察してしまいました。
ヘタレなお兄さんがこの後何て言うかを。
「葉月ちゃん、僕が七海を説得するから一緒じゃ駄目?」
「……お兄さんのバカ」
「すみません……」
本当、仕方ない人ですよ……
※
あたしは緋色の部屋を出てから、葉月達が何を話しているのかをずっと聞いていた。
うちのドア、ちょっと薄いみたいで音が結構漏れるのよね。
そして知ってしまった。
葉月がとうとう緋色にアタックを始めようとしている事を。
……駄目。絶対駄目。
例え妹でも……緋色は……緋色はあたしの男だもん……!
──ガチャ。
「! ね、姉さん……!」
「……」
緋色の部屋から出て来た葉月はあたしを見て酷く驚いていた。
当然だろう。今の話をあたしに聞かれていては気まずいだろうしね。
「姉さん……今の……聞いてましたか?」
葉月は緋色に聞こえないよう小さな声であたしにそう訊ねてきた。
あたしも同じように声のボリュームを絞って答えた。
「そりゃあもうバッチリ。お邪魔虫があたし達のデートを邪魔するってね」
「そ、それは……」
やれやれ、困った妹だよ。
自分の気持ちも上手く伝えられない癖に、あたし達には仲直りを迫ってさ。
仕方ない。チャンスくらいは作ってやるか。
「葉月、クリスマスイブ一緒に来て良いよ」
「え?」
「ただし──」
あたしは仲直りした時から決めていた事がある。葉月にそれを教えてやる。
「あたしはクリスマスイブにもう一度緋色に告白するよ」
「!」
「あなたはそのままで良いの?何もせず、出来ずに緋色をあたしに取られて……!」
この子はもう随分と我慢した筈だ。
緋色は渡せないけど、これくらいは……ま、お姉ちゃんだからね。
「……私は……」
「ねぇ葉月、あなたが3ヵ月前に言った事を返してあげるわ」
「え……?」
あたしは葉月の耳元に近付き、そっと告げた。
「緋色の事が好きなら好きだと言いなさい。あの鈍感男はちゃんと言わないと気付かないわよ。言わないと……ね」
「……姉さん」
「あーやだやだ、敵に塩送っちゃったわ。あたしも部屋にもーどろっと」
葉月に手を振ってあたしは自分の部屋のドアを開けた。
あたしはこう見えても妹が大好きだ。
それよりちょっとだけ緋色が好きなだけ。
葉月があんなに苦しそうにしてるなんて知らなかった。
あんなに緋色の事が好きだなんて……
「中学の時は悪い事したな……」
それでも緋色は……渡したくない……
やっとまた話せるようになったんだもん。
家族になっちゃったけどさ、諦められないよ。
だけど……あたしはずっと葉月の幸せを奪って来てしまった女だ。
どうすれば良いんだろう。
答えを出さないといけない。クリスマスイブまでに──
※
クリスマスイブ当日の夕刻。
僕は結局七海と葉月ちゃん、二人とデートをする事にした。
僕らがデート場所に選んだのは近くのショッピングモール。もう色々回って足も疲れて来た頃だ。
この場所は2つの大きなクリスマスツリーが東と西に別れ、イルミネーションで彩られた4,500メートルの道が一直線に繋いでいる。
中高生に人気なのか、周りにはあまり年の違わないであろう若者がうじゃうじゃいる。
そしてそんな中、イルミネーションに負けない異彩を放っているのが僕達だ。
……僕の両腕をがっしり掴んで……歩きづらいったらありゃしない。
「あのさ二人とも、恥ずかしいしそろそろ放してくんない?」
丁度そう言った時、東西を繋ぐT字路に差し掛かった。
七海と葉月ちゃんはお互いに視線をぶつけ合った後、僕から離れて真剣な表情を作った。
「お兄さん。今から私は東のツリーに、姉さんは西のツリーに別れます。大事なお話がありますので最初に姉さん、次に私の所に来て下さい」
大事な話がたいって……二人とも凄く真剣な顔してるし……
不意に思い出したのは七海が告白をしてくれた時の事だった。
はは、まさかな。
僕はごくりと喉を鳴らした後に、二人の真意を確認した。
「……どういうつもり?今日は後三人でツリーを見て終わりだろ?」
「はぁ……緋色、女がここまで言ってるんだからちょっとは察せないわけ?」
「ぐ……」
「まぁ良いわ。どうせ最初はあたしだもの、一緒に行くわよ緋色」
「え!?」
七海はちらりと葉月ちゃんを見た後、僕を引っ張って西のツリーへと連れ出した。
僕も横目に葉月ちゃんを見たが、彼女の顔は赤く恥ずかしそうにしている。
本当にそのまさかって奴なのか……?
だとしたら僕は──
※
「ちょ、七海、力強いって!」
「早く歩きなさいよ。葉月がかわいそうでしょ」
「か、かわいそうって……」
あたしは緋色の腕を引きながらもようやくツリーの下までやって来た。
周囲には人も多かったけど、と言うかカップルだらけだったけど、ツリーを囲うように配置されたベンチが丁度空いた。
そこに緋色と一緒に座り、一息つく。
「ふふっ、やっと二人きりになれたね」
「もしかしてこのまま二人で抜け出そうとか言うつもりか?」
「あ、それも良いね!でも──」
あたしは緋色の肩にそっと頭を預けて呟いた。
「──緋色、もうあたしの事は忘れて」
「は……?」
前を見たまま、固まる緋色。
本当、この男は昔から変わらない。
あたしの胸の中にある気持ちには中々気付かない。
「ほら、あたし達さ、もう別れたのも結構前じゃない?いつまでも元カノを引き摺るなって言ってるの」
「別に僕は引き摺ってなんか──」
「──嘘だよ」
あたしはもうずっと前から気付いてた。
それが嬉しくて、幸せで、この3ヶ月は本当に楽しかった。
夢のような時間だった。
また大好きな人と一緒に居れてさ。
緋色もあたしと居る時、昔を懐かしむように楽しんでいたように思う。
いつまでもぬるま湯のような時間に浸かってた。
「どうして緋色はあたしとのキスを拒まなかったの?嬉しかったからじゃないの?またあたしとイチャイチャ出来てさ」
「そ、それは……」
「ふふっ、あたしも嬉しかったよ?すっごく幸せだった。だけどそれはさ……」
「……?」
──だけどそれは葉月の幸せと引き換えの時間だった。
……あたしは葉月に借りがある。
「緋色さ……葉月の想いに気付いてないよね。それとも、気付いてないフリをしてるのか。どちらにせよそれってさ、凄く残酷だよ」
「……」
「いい加減あたしの事なんか忘れてさ、葉月の気持ちに向き合ってあげて。あなたも葉月の事を溺愛してるって言ってたじゃない!悪くない話でしょ?」
あたしは立ち上がり再び緋色の手を引っ張った。
「ほら、葉月が待ってるよ!」
「お、おい!」
立ち上がらせた緋色の背中を叩いて人混みへ送る。
こうでもしないとあの引っ込み思案な妹は告白も出来ないかも知れないからね。
「緋色!きちんと葉月の話を聞いてやるんだよ!お姉ちゃんとの約束!」
「お、お姉ちゃんて……」
「ほら行った行った!」
「……」
緋色はあたしの方を見ながらも人混みに逆らう事なく葉月が居る東のツリーへと向かった。
「これはあたし達を仲直りさせてくれたお礼……上手くやりなさいよ……葉月」
あたしはやり直せなくったってあいつの義姉で居られる。
幸せな時間はもう十分貰った。
だけど一筋だけ涙が流れてしまうのは仕方ないよね。
だって好きだったもん。中学から今までずっと。
あたしはベンチに座り直して一人ツリーを眺めた。
2年前、緋色が消えた時間を待っていた時よりも、時をゆっくりと感じた。
※
「お兄さん!」
「悪い、待たせたね」
お兄さんは段々と多くなる人混みの中、ゆっくりとした足取りで私の元へと来てくれました。
姉さんはどんな告白をしたのでしょうか。
お兄さんはなんて返事をしたのでしょうか。
私は……勇気を出せるでしょうか……
「こっちは公園みたいな感じなんだな」
私の隣に来たお兄さんが周囲を見回して感想を漏らします。
私も相づちを打ち、愛しい人の横顔を見つめます。
「……はい。座る所が無いのが少し辛いですね」
「構わないよ。遊具に座るには僕らは大人だ」
辺りには子供達がブランコやシーソーで遊んでおり、どちらかと言うとこちらはファミリー層向けなのかもですね。
仕方ないので私達は手すりに腰を掛け、もたれながらツリーを見上げました。
お互いに視線は合わさず、話を続けます。
「あの、お兄さん……姉さんとはどんなお話をしたのですか?」
「んー……そうだね……」
何やら言いにい事を言われたようですね。
……告白、してないのでしょうか?
いえ告白されたというのも言いにくい事でしょうし、まず間違いなくしてるとは思うのですが……
「姉さんと…何かありました?」
「いや……ふぅ、ごめん。葉月ちゃんにも関係する事だからちゃんと言うよ」
「は、はい」
あれ、私が告白しようと思っていたのに何か思わぬ方に話が転んでしまいました。
……少しほっとしている自分が居る事に気付いてしまいます。
あはは……こんなんじゃ告白なんて──
「葉月ちゃん、僕の事好きかい?」
「そうですね好きだって言えたらどれだけ──え???」
お兄さん?今さらっと何を仰いましたか?
好き?お兄さんの事を??
私、今なんて答えました?好きだって言えたら……?
ままま、待って下さい、い、今のじゃまるで──
「はは、葉月ちゃん顔真っ赤だよ」
「! わ、私……!!」
「ありがとう」
「……!」
その一言で、私の目からは涙が溢れて来ます。
「さすがにね、葉月ちゃんの気持ちには少しだけ気付き始めてたんだ。あれだけ七海と競い合って来たらいくら僕でも気付くさ……」
「……はい」
だから最近ちょっと刺のある物言いを……
私がお兄さんに幻滅するように、と……
私は俯いて両目から溢れる涙を手の甲に落とします。
そしてそんな私を見ないように、お兄さんは話を続けます。
「この3ヶ月、本当に楽しかった。全部葉月ちゃんのおかげだ。感謝してもしきれない」
「いえ……お兄さん達はただの話し合い不足だっただけですよ……」
「そうだね、今なら分かるよ。あの時だけで終わる想いじゃなかったんだ。僕が勝手に諦めてしまっただけだったんだって」
お兄さんはその後「七海には本当に悪い事をした」と言い、私の頭に手を乗せました。
「葉月ちゃん、君にも言われたね……僕は嘘つきだと思う」
「はい」
「即答かよ……こほん。葉月ちゃん、答え合わせをしようか。3ヶ月前、君が僕にしてくれたキスの」
「……」
私は未だに夢に見ます。
あの感触を、あの興奮を。
──あの時抱いた想いを。
「葉月ちゃん、僕は──」
「待って下さい……!」
私はまだ何も伝えてない。
まだ何も明かしてない。
好きだって、言ってない!!
勝手に決め付けて、私を諦めようとしないで下さい!!
まだ言わせません。
例えこの想いが実る確率が0%だったしても、私は……!!
「お兄さん、私から答えを教えます。きっとお兄さんの出した答えとは違いますから、勝手に答えを決めないで下さい」
「わ、分かった……」
お兄さん、これが私の気持ちです──
※
妹のような存在だと思っていた。
──事実、彼女は僕の義妹となった。
守ってやらないとと思っていた。
──事実、彼女は倒れた事があった。
3ヶ月前のキスの意味を僕は勝手に決め付けて、出した答えを押し付けようとした。
だけど彼女は言う。
違う、と。
いつも僕はそうだった気がする。
七海と別れた時も勝手に決め付けて、失望して。
だから舞う雪の記憶と共に蓋をして自分に嘘をついたんだ。
だけど、その雪を目の前に居る大事な女の子が溶かしてくれた。
感謝している。
おかげでまたあいつと話せるようになった。
ならばこそ、僕は彼女に告げなくちゃいけない。
残酷な嘘をつくなら残酷な真実を告げようと思っていた。
だが僕の決め付けた答えは言う必要性を失った。
そう。違うと言った彼女の答えはこうだ。
──パチンッ!!!
ツリーを見に来た大勢の人間の前で、葉月ちゃんは力の限り僕の頬を叩いた。
「お兄さん、私はあなたの事なんか大嫌いですっ!」
……驚く程痛かったよ。
気持ちがこもってた。
葉月ちゃんは涙を流しながら僕を睨んでいる。
「どうして私の気持ちを決め付けて、勝手にフろうとするんですか!?私は怒ってます!そんな事されたら私、もうどうすれば良いか分からなくなってしまいますよ!!!」
一息でそう言った葉月ちゃんは息を切らしている。
「……はぁ……はぁ……」
「……」
「……何も、言わないんですか……?」
頬がヒリヒリと痛み、前髪から葉月ちゃんを覗く事しか出来ない。
だけどそれで良い。
今は何も言わなくて良いんだ。
ここで口を出せば、葉月ちゃんの想いを裏切ってしまう。
「……お兄さんは……嘘つきですっ……姉さんとはやり直せないって言ったのにっ……!」
「……」
「私っ……ずっと、ずっと前から我慢してましたっ……!お兄さん達がお付き合いしてる頃からずっと!!」
「……」
葉月ちゃんはぼろぼろの顔で僕の体に手を伸ばした。
「反論はしないんですか……?」
「……必要かい?」
「いえ……お兄さん……ようやく"待つ"ことを覚えてくれたんですね……」
「……君のおかげだ。君が僕を止めてくれたから。また同じ過ちを犯す所だった」
「……」
葉月ちゃんは僕を抱き締めたまま、しばらくの間何も言わなかった。
数分が過ぎた後、僕から離れた彼女の顔に涙は残っていなかった。
「お兄さん……私は……」
「……うん」
「わた……しは……!!」
涙を飲み込んで、彼女は笑って叫ぶ。
「ずっとずっと!!あなたが大好きでした!!!」
瞬間、クリスマスツリーが揺れてイルミネーションの輝きが強くなった。
「家族としてじゃなく、ただ一人の男性として、大好きでしたっ!!!」
ようやく僕は彼女の想いに返事を出来るな。
違うと言ったのは、僕が決め付けたのは、僅かだけど、絶対に違うものだ。
僕はそれを告げる。
「……だけど、付き合ってくれって訳じゃないんだろ?」
「……ふふ、そこまでようやく分かってくれましたか」
「葉月ちゃんのおかげだ……」
葉月ちゃんは泣き笑いのような顔で続ける。
「本当は付き合いたいです。一人占めしたいです。でも届かないって知っちゃいましたから……だから私は最初の目的を果たす事にします」
「……さすがにそこまでは分からないから教えてくれるかい?」
「簡単な事ですよ。お兄さん、私にお兄さんを諦めさせて下さい」
「……!」
残酷な真実を、か。
……結局言わなくちゃならない。
きっと彼女を泣かせてしまう言葉を。
だがそれが僕の果たすべき責任だ。
可愛いくて大事な、僕の義妹の為に──
「葉月ちゃん……僕は──」
僕は確かに決意して言おうとしていた。
──僕は七海を選ぶ、と。
けれどそれは言葉になる事はなかった。
離れていた筈の葉月ちゃんが僕の唇を奪って行ったから──
「……!?」
「……んっ」
3ヶ月前とはきっと違う意味を持つ葉月ちゃんのキスは、少ししょっぱい味がした。
目を閉じて背伸びした彼女のキスは長くは続かず、数瞬の後僕から離れていった。
「ふふ……お兄さん、今回は私の事しか考えてませんね♡」
「……葉月ちゃん……?」
「お兄さん──」
後ろへステップを踏みながら右目から一筋だけ涙を流した彼女は言う。
「──これが最後のキスです。私に恋を教えてくれてありがとうございました……!」
※
雪が降り始めていた。
あたしが帰る道に足跡が残るくらいにはね。
葉月……上手くいったかな。
あのバカもあそこまで言えばちゃんと葉月と……
やだ……あたし何また泣いてるの……
家までまだまだあるんだから、こんな調子じゃ誰にも顔を見せられないじゃん。
随分長くあそこに居たからね……もう二人とも家に帰ってるだろうし、ちゃちゃっと部屋に入らないと──
「僕は君の泣き顔なんて見たくないって言った筈だぞ?」
降りしきる雪の中、聞こえる筈のない声があたしに届く。
心臓の鼓動が強くなり、震える体で顔を上げた。
「な……んでっ……ここに居るのよっ……緋色っ!!!」
「……帰り道、だからな」
「嘘つくな!遠回りにも程があるでしょう!?大体葉月は──」
「一人で帰らせた。七海を迎えに行くからっ──ぶほぉ!!」
あたしは力いっぱいこのバカの顔面を殴り飛ばしてやった。
可哀想だから、何故か既に赤くなっていた頬とは反対のね。
「ちょ、お前酷くない!?」
雪まみれであたしを睨むバカをあたしは見下ろした。
「酷いのはあんたよ!!どうして葉月と一緒じゃないの!?どうしてあたしの好意を踏みにじるの!?どうしてあんたはあたしの言うことを聞かないの!?」
どうして、と聞きたい事が止まらなかった。
「どうして……あたしにあなたを忘れさせてくれないのっ……」
あたしは人通りの無い静かな道路にしゃがみ込んでしまう。
立ち上がった緋色があたしの元に歩いてくる。
「好きだから……じゃないか?」
「またそうやって……決め付ける……!」
「3ヶ月前に君自身が言ったんじゃないか。大好きだってさ。それに……葉月ちゃんも教えてくれたから……」
「……!」
本当におせっかいな妹。
その優しさのせいで葉月は……!!
そんなの駄目、許されない。
あたしがあたしを許せない!
「緋色……今すぐ葉月を迎えに行きなさい!あの子、きっと泣いてる!あの時のように早く!!」
「……無駄だよ」
「どうしてっ……よ……あんた、あの時はあたしを見捨てたじゃない……!」
「そんな事したら葉月ちゃんに怒られるからな」
葉月……!
あたしはあなたに何も出来てないのにっ……!
ここまでされたら、あたし……!!
「……バ……カよ、あんた達……あたしなんかの為に……!」
あたしは涙を流し過ぎて、もう自分が何を言いたいのか分からなくなり始めていた。
そんなあたしを、緋色は優しい声色で包む。
「仕方ないだろ……いつまで経ってもこの想いを消せないんだから」
あたし……だって、ずっと……ずっと……!!
全く……もう……葉月の想いに応えなくちゃならないじゃない。
「緋色っ……あたし達……またやり直せるの……?」
「……どうかな、君次第だよ……」
「なにそれ……いつだってあなたは──」
いい加減な答えを言った緋色を見つめると、彼は素早くあたしの体を引き寄せた。
「僕の答えはもう出てるから、君が嫌なら無理だし、良いなら──」
「やり直したいっっ!!!」
考える間も無く、あたしは叫んでいた。
「やり直したいっ、もう一度緋色とデートしてキスして……いっぱい幸せな思い出をまた作りたいよぉ……!!」
「……そうだね」
「緋色っ……もう後悔しなくて良い……?あの日があったから今があるって、そう思わせてくれる……!?」
「こうすれば、そう思えるか?」
緋色は初めてした日から一番優しいキスをしてくれた。
ほんの一瞬だったけど、唇を離した緋色があたしの心を満たす言葉を紡いでくれる。
「七海、ずっと悪かった……また僕を君の彼氏にしてくれるかい?」
「……うんっ……!!またあたしをあなたの彼女にして下さい……!!」
あの日から丁度2年、ひび割れたクリスマスイブの思い出はそのひびの形を完全に元に戻した。
※
【エピローグ】
「葉月ちゃん、七海、準備出来たかい?」
「ばっちしよ!」
「はい、お兄さん!」
元旦、僕らは三人揃って初詣の為に近所の神社へ赴いていた。
お賽銭の前でそれぞれ5円玉を握り、横並びでそれを投げ入れる。
5円玉が賽銭箱の角に当たり、跳ねながら吸い込まれていく。
その間にクリスマスイブの事を思い出していた。
僕らが帰ると一足早く家に着いていた涙目の葉月ちゃんが出迎えてくれたんだ。
七海はそれを見てまた涙を流し、姉妹仲良く泣きわめいていたよ。
そしてちゃんと報告したよ。
僕と七海は再び付き合う事にしたって。
葉月ちゃんはそれを笑って「本当に良かったですね」と言ってくれた。
……強い子だよ。
もう僕に出来る事はない。
これ以上葉月ちゃんに優しくする事はあの子の告白を台無しにするのと同じだ。
もちろん、この先も義妹として溺愛はするけどね。
……願わくば、この子に僕なんかよりもずっと良い男が現れることを祈る。
ただし僕の審査は厳しいぞ。義兄を舐めんなよ。
──ちゃりんっ。
「よし、緋色!縄を振れーー!」
「鈴緒な。ちなみに鈴は本坪鈴ね」
「お兄さん、よく知ってますね」
義妹に褒められた!お兄ちゃんうれちぃ!
っと、ふざけてる場合じゃなかった。
後ろ混んでたんだ。
僕らは二礼二拍手一礼を済まし、神様とやらにお祈りをした。
二人は何を願ったのだろう。
帰り道、それとなく聞いてみた。
「二人とも、神社で何を願ったの?」
まずは七海が元気良く答える。
「決まってるじゃん!緋色との進展一択!」
「往来の真ん中でそんな事を叫ぶな!?」
「ひっひー。後は葉月の幸せかな」
「姉さん……私は十分幸せですから」
「分かってる。これは聞いた緋色が悪い」
「僕のせいか!?」
『そうだね(ですね)』
ひ、ひでぇ……
七海はもう放っておこう。
「ちなみに……葉月ちゃんは?」
「まだ攻めるとはお兄さんバカなんですか?」
「最近遠慮が無くなって来たね……」
「誰かさんが私の事をフるからですよ」
『す、すみません……』
「あら、姉さんまで。フフフ」
本当、葉月ちゃんには一生敵う気がしないよ……
僕はこれ以上の追及は危険だと判断した。
だが黙って帰ろうとしたら葉月ちゃんが耳元に口を寄せて来た。
「!?」
「……お兄さんが一生幸せでありますように、ですよ♡」
「あ、こら葉月!緋色にくっつきすぎ!」
「いーじゃないですかこれくらい!家族のスキンシップですよ~!」
「……やれやれ……」
本当、敵う気がしない……
「ったく葉月め……と言うか人の事ばっかりで緋色はどうなのよ?」
「そうですよお兄さん。自分ばっかり聞いてずるいです」
「僕かい?そうだね──」
僕は二人の間を割って早歩きで距離を離した。
「僕より先に家に着いたら教えてやるよ!」
『あ、ずるい!!』
一足早く全力で走ってやった。
これなら僕の勝ちで間違い無いだろう。
だってこんなの恥ずかしくて言えないよ。
──僕らがずっと家族で居られますように、だなんてね。
そうだ、これくらいなら言ってやっても良いな。
「七海、葉月ちゃん、大好きだぞーー!!」
『!? バ、バカーーー!!!』
「ハハハっ!」
……そうそう後、両親への説得が上手くいきますように、だなんて言えないよ……
お読み下さりありがとうございます!
大変お待たせ致しました、完結編でした。
三部作となった今作でしたがお楽しみ頂けていましたら良いのですが……
ぜひご感想お待ちしておりますm(_ _)m
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