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かすかな骨/渇望/汗の蔑み/犬の想い/欲望

作者: 雲野 曜平

なにやらマゾヒスティックな感じのする詩を集めてみました。


かすかな骨


無花果が香っていた

かくのごとき楽園の

終わりでも始まりでもない中間に

ありふれた私と私の哀情があり

水死しかけた溺死体は

最後の空気を求めて舌をだし

喘いでいた

俺はその舌を唇に挟み吸った

かくて最後のくちづけは

互いに削り合う歯に終わる




渇望


水銀でできているような

細い髪の一本一本を

丁重に梳きながら

ゆっくりと組み立てた

あの美しい少女が

唇を震わせて

僕を罵り

誘惑するのは

いつのことだろうか




汗の蔑み


どうか私を蔑んでください

それだけしか私の心が休まる方法はないのですから

あなたがどんなに苦しみ呼吸を震わせ心を砕いても

もう私は何も感じることができません

ですからどうか私を蔑み罵ってください

たとえあなたが罪悪感に捕らわれようとも

どうか私のためだけに

心を痛めてください

「あれはきりきりと暑い夜だった」

「その熱気が物事の余分なものをすべて削り」

「後に残された抽象的な何かとただの物がゆらゆらと揺れていた」

「そんな中であなたの流した涙は」

「あっという間に汗と一緒になって」

「悲しみも結局は暑さに負けたのだった」

「だからあなたにあの日」

「悲しみがあったという証拠は」

「その涙を舐めた私の舌の上にしかない

だからお願いです

この哀れな男に

最後の自由を

どうか与えてやって欲しい

あなたのたった一滴の汗とともに




犬の想い


その冷ややかな長く白い手が

俺の口蓋に差し込まれ

ゆっくりと犬歯をなぞる。

とめどもなく溢れでる唾液にまみれ

その白い手は彫像のように濡れる。

白い手はしゃべる。

「お前は淋しい、お前は悲しい、お前は卑しい。だから」

「噛んでもいいよ」

だが、俺は頑ななほど口を広げ、

その手の凌辱を邪魔しないように尻尾を振る。

犬の哀れさに白い手はかすかに嗤う。




欲望


異様なまでに熱にうなされ

ただはいつくばり

犯されている自分を夢想した

喉の渇きに

指を刻むような荒い息を吐き

汗にまみれたうなじを撫ですさる

ただひとつの飢えよりも深い欲情に

目を細め

それを見ようとする

床にばら撒かれたエーテルの匂い

血管に詰まるほどの空気

髪にまぶされた硝子の粉が

光っている

女の遺体を抱きしめるような

この欲望だけが

たぶん

最後の望みだった



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