九十八話
自室に戻ったクロードはアリシア姉様の言葉の意味を考えていた。
確かに人殺しには抵抗があるがアリシア姉様の危機なら躊躇なく飛び込むだろう。
「他に僕にできることってないのかな」
考えるが装備や回復薬を卸すことぐらいしかできることはなさそうだった。
その頃アリシアは旦那であるミシリウスと話をしていた。
「貴方はクロードのことをどう思っているのかしら」
「恐ろしく強いし軍略も一流間違いなく我が国の抱えるワイルドカードだね」
「聞き方が悪かったわね。戦争になったらクロードの力を借りるのかしら」
「ライヒルト公国の動きを気にしているのか。仮に攻め込まれても彼の力は借りないよ。対応できるだけの戦力は抱えているし辺境伯家の意地というものもある」
「何でも出来るけどできれば穏やかに過ごしてほしいわ」
「彼の能力を考えるとそれは難しいかもしれないね。これからも陞爵するだろうしそうなるとどうしても政治に巻き込まれることになる」
二人はクロードの今後のことを話し合うのであった。
ライヒルト公国のとある密室で話し合いをしている男達がいた。
「ゲルマン王国のミッシア辺境伯家が軍備を増強しているらしい。何とかならんか」
「その話は聞き及んでいますが妨害するのは難しいでしょう。代わりにこちらも軍備の増強に力を入れています」
「どれぐらいで終わる」
「いつになるかは確約しかねます」
「使えん奴だな」
「そうは言われましても他国に目をつけられないようにするのは大変ですし予算にも限りがあるのです」
「言い訳の上に金の無心か」
「そうは言われても先立つものがなければ難しいのも事実です」
「いいだろう。金は用意してやる。結果を残せ」
話し合いをしていた一人の男は乱暴に部屋を出ていく。
それを見送っていたもう一人は溜息をつく。
「さてさて。人使いの荒い人だ。その分甘い汁を吸わせてもらっているのも事実だが困った人だ」
男は部下に金を握らせ他国の貴族に武具を横流ししてもらうように手配するのであった。
クロードは考えた末回復薬を大量生産すべく精力的に動いていた。
幸い薬草の備蓄は十分であるため休むことなく精密機械のように作業を進めていく。
ミッシア辺境伯家に卸すのは当然として他の貴族にも回して関係の回復に少しでも役立てばと考えたのである。
結果としてこの目論見は成功する。
魔物の活動が活発になっておりどこの貴族も回復薬を欲していたのである。
結果としてクロードの元にさらなるお金が転がり込むことになるのだが問題視する者はいなかった。




