八話
洗礼を受けた翌日。
いつも通りに朝食を取っていると父様にこの後書斎に来るように言いつけられた。
書斎は父様の仕事場ということで立ち入ったことはなかったが奥に重厚な机があり手前側には応接セットと思われるソファーと四角いテーブルが置かれていた。
「父様。どうしたのですか」
「少し待て。そろそろ来るはずだ」
扉がコンコンとノックされ父様が許可すると扉を開けて一人の男性が入ってくる。
「侯爵様。お呼びとのことですが何かありましたか」
「カリオン。よく来てくれたな。クロードとは初顔合わせになるか」
「庭で遊んで居られるのを遠目から見たことはありますが初めてであります」
「クロード。カリオンは我が領の騎士団で主に新兵の訓練を担当している優秀な騎士だ」
「初めましてクロードと申します」
「丁寧な挨拶痛み入ります」
「カリオンを呼んだのはクロードの教育を任せたいと思ってのことだ」
「お言葉ですがまだ5歳の子供ですよ。自分の教育についてこれるとは思えませんが」
「カリオンの言うこともわかるのだがクロードは神に愛され他者とは隔絶されたステータスを持っておる。早期にきちんとした教育を施したいのだ」
「そこまでおっしゃられるなら引き受けますが無理だと思ったら報告いたします」
「うむ。よろしく頼む」
「それではクロード様。動きやすい恰好に着替えたら庭までお越しください」
「わかりました。師匠。よろしくお願いします」
書斎を後にして自分の部屋に戻り父様が用意してくれた服に着替え庭に向かう。
「それではまずは準備体操をしましょう。自分に合わせて体を動かしてください」
「わかりました」
準備体操といいつつもかなりハードなもので普通の子供なら音を上げるだろう動きを淡々とこなす。
カリオンはついてこれなければ早々に見切りをつけて侯爵に報告するつもりだったのだが考えを改める。
「クロード様。素晴らしい運動能力です。違和感はありますか」
「はい。言葉にうまく言い表せないのですが体が噛み合ってないような気がします」
「洗礼で与えられたステータスに体の動きがついていけていないのです。まずはステータスとの乖離を慣らすことから始めます。私の後に続いて走ってください」
「はい」
カリオンはクロードがしっかりついてくるのを確認しながらペースを徐々に上げていく。
成人した新兵でもついてこれない者が出るペースで走ってもしっかりついてくるクロードに対して天の与えた才能の差がこれほどとはと実感するのだった。