七十二話
リッチマン宰相は秘書官を呼び出すべくベルを鳴らす。
秘書官はすぐにやってくる。
「閣下。何かございましたか」
「すまないが軍務大臣と財務大臣を呼んできてくれ」
「わかりました」
秘書官が退室してそう時間もかからずに二人の男性が入室してくる。
「宰相が呼び出すなんて珍しいですな。何かございましたか」
恰幅のよい男性が口をひらく。
「よくきてくれたなウルス財務大臣。ルーシェン軍務大臣」
「ヒューズが持ってるのは武器か。ちょっと見せてもらってよいか」
ルーシェン軍務大臣は興味が惹かれたようでヒューズから受け取って剣を抜き放つ。
「これは素晴らしい。こんな剣が手に入れば言うことはないんだが」
リッチマン宰相は咳払いをして話に入る。
「ごっほん。二人に来てもらったのは他でもない今回クロード卿が剣や槍を大量に搬入してくれたのだがその代金が支払えぬとヒューズが泣きついてきたからなのだ」
「なんと。ということはそこにいる子供がクロード卿か。リザードマンの皮鎧の出来もよかった。それに続きミスリル製の武器まで用意してくれるとは軍務大臣として礼をいう」
「ちょっと待ってください。ミスリル製の武器とおっしゃいましたか。ミスリルの相場はわかっていますか。財務大臣としてそんな代金ポンっと許可するわけにはいきませんぞ」
「大変いいにくいのですが今回持ってきているのは加工の終わった一部です。将来的にはこれぐらい搬入する予定なのですが」
「こんなにですか。どこの部隊から配備すべきか悩んでいたがこれなら希望者を募り新設の部隊を作ることもできる」
「宰相としてはどちらの言い分もわかるが昨今魔物による被害が多く出ている軍備の増強は急務だ」
「陛下の指示で多くの貴族が税の猶予を申し込んできていて財政が悪化しているのですぞ」
「それを何とかするのが財務大臣の仕事だろ」
「そうは言われてもない袖は振れぬのです」
「横から失礼します。僕としては分割で支払ってもらっても構いませんが」
「なるほど。分割ですか。それならなんとか捻出することは可能です」
「話は決まったようだな。それではクロード卿には分割して納めることとする」
宰相の執務室を退室したクロードに軍務大臣のルーシェンが話しかけてくる。
「クロード卿。この後お時間はありますか。機会があればぜひお話ししてみたいと思っていたのです」
「後は帰るだけなので大丈夫ですよ」
ルーシェンの後に続いて軍務大臣の執務室に入室する。
「どうぞこちらにおかけください」
応接用の椅子を勧められ腰掛ける。
「今お茶を用意しますので少しお待ちください」
軍務大臣自らお茶の準備をはじめたのだった。




