六十五話
クロードはファールハイト兄様に呼び出され兄様の部屋に来ていた。
部屋の中央には机が出されており複雑な地形を模した盤が置かれている。
二人は盤上で知略の限りを尽くし戦略、戦術の勝負中であった。
「クロードの陣形は手堅いね。だけどこういう手を打ったらどうかな」
ファールハイト兄様は歩兵の一隊を無造作に配置する。
普通に考えれば食いつくべきだがファールハイト兄様のことだ何か策があるのだろう。
「それでは僕はこうでます」
歩兵の一隊をどうみても悪手と思われる位置に配置する。
「何か考えがあるのかな。でもここは取らせてもらうよ」
クロードはにやりと笑い手駒をオープンする。
「兄様。ここで僕は伏せていた伏兵部隊を投入します」
「まさかそんなところに忍ばせていたとはね。これはやられたな」
こんな地点に伏兵を配備する意味は通常ではないが予想できないからこそ意味がある。
悪手として打った部隊と伏兵部隊を合流させて二部隊で先ほどファールハイト兄様が打ってきた誘い部隊を攻撃させる。
「兄様。これでこちらが圧倒的な優位に立ちましたがどうでますか」
「ううん。このままだとまずいね。何とか立て直さないと」
有利になったことで攻めの手を休ませずどんどん追い込んでいく。
「これはまいった。完全に負けたよ」
結局ファールハイト兄様は劣勢を覆すことができず初勝利を飾った。
「ようやっと勝てました」
「この分野で負けてしまうと僕の立場がないんだけどね。もう1戦してみようか」
この後は勝ったり負けたりを繰り返して時間はどんどん過ぎてゆく。
「うん。クロードは本当に強くなったね。これなら学園に入ったら戦略研究室に入ることもできるかな」
「戦略研究室ですか」
「僕も所属していたんだけどね。国中の戦略家を集めて戦略の研究をしているところなんだ」
「面白そうですね」
「興味が出てきたみたいだね。指揮官の立場の人が多いから有事の際のことを考えれば人脈を作っておいて損はないからお勧めだよ」
「有事の際ですか。魔物相手ならいいんですけどやっぱり人相手の戦争は嫌ですね」
「そうだね。誰も人同士での戦争なんて望んでいないけど僕らが戦わなければ国民が苦しむことになる。他国次第だけど覚悟は持っておいたほうがいいよ」
8歳の子供であるクロードに聞かせるような話ではないが独立した貴族である以上上から命令されば従わなければならない。
国王陛下も年齢のことを配慮してくれるだろうが疎ましく思っている貴族はそうではないだろう。
複雑な気持ちのまま次の盤上戦を始めるのだった。




