六百十五話
封印の結界の専門家はいかにもな人物だった。
髪はぼさぼさで無精ひげをはやし浄衣を着ていなければ浮浪者と言われてもおかしくない。
「なんだ。小僧。封印の結界を学びたいだ。他にも学ぶべきことはあるだろ」
第一声から拒絶する言葉だった。
「双剣殿。そういわずに引き受けてもらせませんか」
「そこまで言うなら、簡単な試験を受けてもらう」
そう言って奥に行ったかと思うと山のように紙を持って戻ってきた。
「これを解いてみろ。間違いがなければ引き受けてやる」
簡単な試験といいつつ山のような問題を出してくるとか何なのだろうか。
しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。
「わかりました。これを解けばいいんですね」
クロードは黙々と出された問題を解いていく。
1時間ほどで解き終わり間違いがないか確認する。
双剣と言われた人物はその間ずっと不正がないようにみていたが驚いていた。
「おいおい。半日はかかると思ったのにこんな短時間で終わらせるとか何者だ。いや、だが。まだ間違ってる可能性もある」
そう言って解答をチェックしはじまる。
クロードはただ、解答したのではない。
正解とされる答えを書き、さらに改良点も添えた物を提出したのだ。
双剣の顔に驚愕が浮かぶ。
「ここが、こうなって。こう・・・。だが、しかし」
ブツブツと独り言を言っている。
30分ほどをかけて答案を確認した双剣は呟いた。
「非常に興味深い解答だった。これだけの答えがかけるんだ。認めてやるよ」
どうやらクロードはお眼鏡にかなったようだ。
「ありがとうございます」
「だが、時期が少し悪かったな。浄化の儀式があっただろ」
「はい」
「あれでしばらく修行用の瘴気噴出が弱くなる。そうなると修行するのに不都合が生じる。だから、他にやらなければならないことを済ませてこい」
「どれぐらいの期間で修業できるのですか」
「回復するには2週間ぐらいかかる。術式を覚えるのに1週間。だから来週になったらまたこい」
「わかりました」
双剣は変わった人物ではあるのだろう。
だが、総じてそういう人物程優秀なのは何故なのだろうか。
それは、地球でも異世界でも変わらない。
クロードは実践に出る為に他の試験を受けに向かった。
クロードが去った後、双剣はぼそりといった。
「マジで何なんだろうな。これだから天才って奴は・・・」
双剣は封印の結界の専門家ではあるが努力の人だった。
他の才能はほとんどなく唯一可能性があったのが封印の結界の研究。
理不尽な思いを抱えつつ可能性も感じていた。
自分では実現不可能だった物を色々試せるかもしれないと。
密かにその準備をはじめたのだった。




