五百五十九話
イフと幾度目になるだろうか。
己の内側に潜り広大な空間で鍵を探すが見つかることはなく前世の記憶を思い出すようになっていた。
鍵のついた扉の前に立つとふと両親の笑顔を思い出した。
その瞬間、目の前に金色に輝く鍵が現れた。
そして手の中にポトリと鍵が落ちてきた。
「これは・・・」
「どうやら部屋中に隠されていた鍵は全てダミーだったようだね」
クロードはイフにコクリと頷き現れた鍵を鍵穴に入れる。
鍵はカチャリと音をたて開いていく。
「何はともあれこれで前進だね」
イフは明るく振舞っているがどこか演技くさい。
クロードとしても前世では碌な振る舞いをしていなかったこともあり他人に見られるのは恥ずかしい気持ちもある。
しかし、ここで固まっていても仕方ないので扉に手をかけて開き足を踏み入れた。
前世の記憶の部屋はこじんまりとしていた。
今世の倍以上生きていたというのにこの部屋の狭さは予想外だった。
「ふむ・・・。これは神々が見せようとしないはずだ」
「どういうことですか」
「今世の君のキャパを確保する為に前世の部屋を利用したんだ。記録をみてごらんよ」
クロードは言われるままに1冊の本を開いてみる。
そこには虫食いだらけの情報しか載っていなかった。
本を見つめ何があったか思い出そうとしてもうまくいかない。
両親の顔は辛うじて思い出せるが他の知人はいくら思い出そうとしても上手くいかなかった。
「こればかりは力になってあげられそうにないね。転生した代償として諦めるしかない」
イフはそう言って慰めてくれる。
「まぁ、前世にはそこまで未練があるわけではないですし」
クロードは悲観に暮れることなくそう割り切った。
イフは部屋を見回して何やらごそごそとやっている。
「あんまり見ないでくれると助かります」
誇れるような人生ではなかった。
知人に色々見られるのはやはり恥ずかしい。
「私としても君の前世は割とどうでもいいんだけどね。あ、あった」
イフが何かをポチっと押すと奥の方の本棚がゴゴゴと音をたてながら動き出した。
「えっ・・・」
「いや、魂というの巡り巡っているものなんだよ。前の生の記録ってのは簡単に消えるような物じゃない。なのに次の部屋がないからおかしいなと思ってね」
「そういうものなんですか」
「そういうものだよ。あぁ、やはりここにも鍵があるね」
駄目元で前の部屋で見つけた鍵を試していくとあっさりと鍵は外れた。
「なんか、拍子抜けなんですけど」
「いわゆる、手抜きって奴だね。前世の記憶を弄るのに力を使いすぎたんだろうね」
そう言ってイフと二人次の部屋へと足を進めた。




