五百三十九話
ここでシンラ帝国について語っておこう。
元々は小国であり大した産業もなかったシンラ帝国は次々に侵略戦争を仕掛け大国へと成り上がった。
身分は皇帝を頭に皇族と続き貴族、富裕層、平民、貧困層、奴隷となっている。
奴隷から脱するのは難しいとされているが普通に生活する分には安寧が約束されている。
奴隷とはいえ、それは皇帝が守るべき民であるからだ。
それを破った第二皇子アルカバンに対する皇帝の怒りは凄まじかった。
とはいえ、中央から易々と動くわけにもいかなかった。
シンラ帝国では強き者が皇帝になるという習わしがある。
現在のシンラ帝国では皇帝を守る近衛と中央軍。
それとは別に東西南北にそれぞれ皇族を頭とした軍が存在している。
自分こそは皇帝に相応しいと思っている者が軍の頭を張っているのだ。
容易に動けばその隙をつき皇帝位を奪われるかもしれない。
そうしない為にも根回しは重要だった。
南以外の軍から勅命で少しずつ兵士をかき集めた。
皇帝は必勝を期す為にゲルマン王国を盟主とする連合軍すら利用しようと画策した。
皇帝の元には総力を挙げて連合軍を打倒すべしという嘆願書まで出されたが全て無視した。
ここで連合軍を打倒しても何の解決にもならないと知っていたからだ。
魔物を利用するなど人のなすべきことではない。
このままアルカバンを放置すれば悪の帝国となってしまう。
それならば、どうするべきか。
連合軍とアルカバンが激突したその時、アルカバンを討ち取る。
そして、連合軍にアルカバンの首を差し出すしかない。
馬鹿な息子だ。
可愛くないわけではないがそれでも庇いきれない失態を犯した。
どうか、帝国の為に死んでくれ。
アルカバンは一向に成果の出ないこの状況に苛立ちを募らせていた。
「何故だ。何故こうなるのだ」
陣地を攻めているゴブリンは何の成果もあげていない。
それどころか人工ダンジョンが次々と襲われゴブリンの攻勢が弱まっている。
「所詮はゴブリンということですかな。ですが、ご安心ください。本命はまた別です」
カールマンは余裕のある顔でそうのたまう。
「オークとオーガを出せばまた状況も変わるでしょう」
数は少ないがオークとオーガはまだ温存されていた。
人を使った魔物の繁殖実験としては十分であったしカールマンはアルカバンにも伝えていない隠し玉を持っていた。
カールマンはどうやって人を混乱させるしか考えていなかった。




