五百十一話
プロミネンス侯爵家、御用商人ライハルトはプロミネンス侯爵家当主であるファイネル・フォン・プロミネンスの依頼で北に商隊を向かわせていた。
プロミネンス侯爵家との付き合いが長いライハルトは今回の依頼の意味を薄々ではあるが感じ取っていた。
運んでいる品は武器に保存のきく食料。
明らかに戦争の準備である。
国内に多大な影響力のあるプロミネンス侯爵家だが一当主に過ぎないファイネルの独断でそのような判断を下すのは無理だろう。
ということは、国としての命令である可能性が高い。
ゲルマン王国は専守防衛の国だ。
ライハルトは独自に商売の為に情報網を持っているが他国から攻められそうな気配は感じとっていなかった。
ということは何かがあってゲルマン王国側から仕掛けるということなのだろう。
多くの者が犠牲になるはずだ。
後継者であるライヒルトは大丈夫だが親族の中には軍に入っている者もいる。
しがない商人ではあるが親族が無事であるように願うしかなかった。
ゲルマン王国の王都にある教会ではゲルマン王国からの要請により慌ただしく遠征の準備が進んでいた。
シスター見習いであるアンジェリカも遠征のメンバーに選ばれ荷物をまとめている最中だ。
教会の上層部としては今回の出征に懐疑的な者も多いが国から多くの支援を受けている立場としては口を挟める話でもなかった。
アンジェリカは王都の教会に移動になってから幾度となく兵士の魔物討伐に付き添い怪我をした兵士の治療にあたってきた。
今回もいつものように自分に出来ることをするだけだと言い聞かせ平常心を保とうとしていた。
主神オーディンに仕えるヴァルキリーであるブリュンヒルトはいつものようにお世話になっている喫茶店で働いていた。
お客さんである貴族が愚痴のように王征の話をしているのを聞いたブリュンヒルトは悩んでいた。
自分の使命はクロードを邪神ロキと戦わせることにあるがその肝心のクロードがいつの間にか消えており流されるように喫茶店で働き続けてきた。
しかし、己の本分は戦にある。
喫茶店のマスターや娘さんにお世話になっている身ではあるがここはお休みをいただき参戦を決意したブリュンヒルトはしまっていた装備を引っ張り出し北へ向けて出発した。
迷子癖のあるブリュンヒルトである。
果たして無事に戦場にたどり着くことは出来るのだろうか。
人類史に残る転換期である大戦の時はじりじりと迫ってきていたのである。
