五百九話
世界樹１０２層に繋がる安全地帯でクロードは休憩を取っていた。
軽く仮眠をとると瞬く間に夢の世界へと落ちてゆく。
「やぁやぁ。かなり活躍してるじゃない」
そう言って呼びかけてくるのは土の大精霊ノームだ。
「ここは・・・」
「君の夢に介入させてもらったんだ。君の深層心理の一部って奴だね」
なんだか最近、やたら超常的な者に介入されてる気がするが気のせいだろうか。
「まぁ、用件を言うね。君に従う精霊達がだいぶ増えたよね」
「えぇ、かなりの数、集まっていますね」
「そこで精霊の進化について説明しようと思ってね」
「進化ですか・・・」
「うん。相性の良い精霊同士を合成させることででその力を飛躍的にあげることが出来るんだ。僕達は進化と言っているけどね」
「精霊達には自我がありますけどその自我はどうなるんですか」
「あぁ。そこを気にするのか。実に人間らしいね。基本的には力の強い方に吸収される側の思考が合わさる形かな。でも、あんまり気にする必要はないよ。上位の精霊になるために避けては通れない道だからね。そこは本能的に精霊達も理解している。君は相性のいい相手を探してあげればいいんだ」
精霊達はただ漂っていた時は無力感を感じていた。
クロードに出会い行動を共にするようになって活力に満ちている。
そこを力だけを求めて精霊同士の合成をしてもいいのだろうか。
自然なことだと言われても踏ん切りがつかない。
「悩んでいるようだね。まぁ、それでこそ多くの精霊が惹かれるのだけどね。ここで僕らの事情を少し話しておこうか」
「事情ですか」
「嘆かわしいことに長いこと上位の精霊が生まれていない。そのことで世界樹には少しずつその歪みが蓄積されているんだ。新しく、上位の精霊となった精霊はまず世界樹が濾過した魔力のバランスを取る仕事をする。そして、一定の期間が経った上位精霊は世界中に広がって魔力を運んでいくんだ。今、世界樹には上位の精霊はほとんどいない。魔力を運ぶはずの上位精霊の一部が留まりバランスをぎりぎりのところで保っている。このままではいずれ世界樹は枯れ、世界中から魔力が失われるだろう」
魔力の消失、それは人間社会の崩壊を意味している。
この世界の人は魔力に大きく依存している。
魔物との戦闘以外にも生活を大きく支えているのは魔法だ。
それがなくなってしまえばどれだけの人々が死に絶えるかわかったものではなかった。
「うん。事情はわかってくれたかな」
事情はわかったものの、それを精霊達に押し付けるのは何か違うのではないかと考えてしまうクロードだった。
