四百八十六話
ポセイドスは会議を終え自分の執務室に戻ってきていた。
「陛下。お疲れさまでした」
そこに声をかけたのは頼れる宰相のリッチマンである。
「お主はこれから忙しくなると思うがよろしく頼むぞ」
「それは構わないのですがいくつか質問をよろしいでしょうか」
「構わぬぞ」
「会議をこれだけ急ぐ必要はあったのでしょうか。遠方の国で参加を表明していた国はまだあったかと記憶しているのですが」
「シンラ帝国にこちらの数を錯覚させたかったのだ。参加した国の数を見て戦争になっても何とかなると思ったはずだ」
「そもそもシンラ帝国を孤立させる意図がわからないのですが」
「これは話していなかったな。密偵からの報告でシンラ帝国は人工的に魔物を増やしているらしい。人類全体から見れば裏切り行為に等しい。そんなシンラ帝国と手を組むのは論外だ」
「理由はわかりましたがそれが事実ならもう少し慎重に動くべきでは」
「そなたの言うこともわかる。だがいつかは相手にしなければならないならそれは早い方がよいかと思ってな」
「だから会議でも挑発するような発言をなされたのですか」
「シンラ帝国はプライドが高い。戦争でもほとんど負けたことがなく支配した地域でも圧政を敷く選民意識の固まりのような国だ。だからこそ今回のように国の大小に関わらず同列とすればあのような反応をすることはわかりきっていた」
「陛下のお考えはわかりました。ですが勝ち目はあるのですか」
「勝ち目か。全軍を相手にするならば厳しいと言わざるを得ないだろう。しかし、一軍だけであるならなんとかなるだろう」
「まさかとは思いますが陛下自ら戦場に立つおつもりではないでしょうね」
「諸侯に動員させるのだ。近衛騎士団を率いて余自ら動かなければならないだろう」
「同盟を結んだとは言え他国に付け込まれませんか」
「その時はその時だ。我が国が先頭に立つからこそ説得力が出るのだ」
「はぁ・・・。陛下は一度言い出したら止まりませぬからな」
「わかっているではないか」
今でこそ賢王として知られるポセイドスだが若い時にはそれはそれはやんちゃ坊主であった。
幼い頃から付き合いのあるリッチマンは毎度毎度付き合わされた過去がある。
「余が戦場に出ている間、まとめ役は頼むぞ」
「本当は一緒に付き合いたい所ですが陛下の穴を埋めるのが私の役目です。どうかご無事にお戻りください」
この日を境にゲルマン王国では魔物対策という名目の元、軍備を固めていくことになる。
