三百二十話
授業も終わりクロードは予定通り召喚陣で使う媒介を求めて市場に訪れていた。
中々よさそうなものがないがいくつか気になるものがあり買い求める。
そこに聞きなれた音楽が聞こえてくる。
どこから聞こえてくるのかと探していると市場の一角から聞こえてくるようだ。
多くの人は知らんぷりしているが中には聞きほれている人もいる。
クロードも黙って演奏が終わるのを待つ。
曲を奏でているのは少女だった。
少女の前にはいくつものギターが並べられ客寄せとして曲を弾いているのだろう。
曲が終わりクロードは拍手してお金をいくらか少女に渡す。
「あのこれは」
「素晴らしい演奏への対価かな。いくつか商品を見せてもらってもよいかな」
「どうぞ」
クロードは前世でギターを弾いていた時期もあったので興味をひかれたのである。
当時はギターが弾ければモテるだろうという不純な動機ではあったがモテるとかはなかった。
何年も弾いていなかったが体は覚えているものでチューニングして簡単な曲を弾いてみる。
少女はそれを黙って聞いており曲が終わると拍手をしてくれた。
「聞いたことのない曲でしたが素敵でした」
「ありがとうございます。このギターはいくらですか」
「さっきお金は貰ったから大丈夫よ」
「いえ。そういうわけには」
押し問答の末クロードは割引された金額を支払った。
「その恰好って学園の生徒よね。君の名前は」
「僕はクロードっていいます」
「私はシェルカよ。そのギター大事にしてね」
シェルカはクロードが見えなくなるまで手を振っていた。
予想外の買い物をしてしまったが気を取り直して市場をまわるが目ぼしい物は見つからなかった。
寮に戻ってきたクロードはギターを取り出して何曲か弾いてみる。
どれも簡単な曲ではあるが弾いていた頃のことを思い出す。
あの頃は前世の両親との関係も良好で何の問題もなかった。
母は曲を弾けるようになると自分のことのように褒めてくれたものだ。
それが嬉しくてレパートリーの曲を増やすべく楽譜と睨めっこしたものだった。
不純な動機で始めたギターだったがいつの間にか真剣に向かいあい熱中したものだった。
ギターを辞めた原因は高校の学園祭で曲を披露していたときだ。
観客の一人が野次を飛ばしステージに上がってきたと思ったらギターを叩きおられたのだ。
安物ではあったが決して安い物ではなく長年連れ添った相棒が折られたことで心がぽっきり折れたのだ。
器物破損ということで被害者として警察のお世話になったがそれからギターを弾くことを辞めてしまったのだった。




