百十一話
「実はプロミネンス侯爵領の腕利きの職人を引き抜くことに成功しました。彼らの元で腕を磨いてくれないでしょうか」
「職人仲間からプロミネンス侯爵領には凄腕の職人がいるとは聞いていたがそんな奴らを引き抜ける貴方は一体」
「申し遅れました。この領地の新しい領主となった。クロード・フォン・プロミネンス子爵です」
こんな子供が子爵だなんて王国は大丈夫なのかと心配してしまう。
だが問題は新しく来るという職人達だ。
腕利きの職人が来れば仕事は奪われ路頭に迷いかねない。
「子爵様・・・。職人としては複雑な気持ちですが己の未熟を恥じ師事したいと思います」
「それはよかった。受け入れてもらえなければ新しく工房を建てて競合してしまうところでしたから。それでは素材はお預けするので新しく来る職人さん達と協力して装備の製作をお願いしますね」
子爵様はそういうと次々に見たこともないような素材を取り出して帰っていった。
工房で聞き耳を立てていたのだろう弟子達が憤慨する。
「なんですか。あの偉そうな子供は」
「素材は手に入ったんだし俺達でいい装備を作って見返してやりましょうよ」
「ダメだ。お前たち。これは子爵様からの依頼だ。間違っても失敗はできない」
「そんなこと言っても悔しくないんですか」
「悔しいさ。だけどな己の未熟がもっと悔しいんだ。新しく来るって言う職人の元で修業をし直す。これに不服の奴は出て行ってくれ」
何人かは納得できないと出て行ったがほとんどの奴は残ってくれた。
「残ってくれてありがとう。新しい職人が来るまでに仕事で必要な物資を集めて万全の状態で迎え入れるんだ」
鍛冶仕事には多くの消耗品が不可欠だ。
そういった消耗品を今のうちに揃え仕事に差し障りがないように整えるのだ。
クロードは鍛冶屋を後にした後代官と今後の予定を確認する為に領主館に戻ってきていた。
「おかえりなさいませ」
「うん。ただいま。忘れていたんだけどインフラの整備もしないとね」
「インフラの整備ですか」
「上下水道の完備やその他色々な設備の整備だね。全ては無理だと思うけどプロミネンス侯爵領のアポロニアを参考にして実装していきたい」
クロードはアイテムボックスからアポロニアの資料を取り出す。
「そちらは」
「ファールハイト兄様がまとめたアポロニア関連の資料だよ。預けるからお願いね」
「かしこまりました」
ミッシェルは正直驚きの連続だった。
子供が新しい領主と聞いて驚きもしたが決めた陛下には何かお考えがあるのだろうと思っていた。
