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SiX of Coins 長きにわたり生きる友①

登場人物

大天使ヒジリ→天地聖あまちひじり

大天使ランカム→天翔神威あまかけるかむい

大天使アリエル→天陽愛理あまひとあいり


高倉亜美たかくらあみ アンリにいじめられていた。ボブカットの大人しい子。愛理に助けられ、ヒジリと神威とも仲良くなる。


押谷麗華おしたにれいか 陸上部所属。ストレートでポニーテールをしている。心に傷を負っていて学校を休んでいる。


白蓮留美しろはするみ 水泳部と漫研。おさげで少し色黒。レイカに続いてかなり活発。髪が長いのでツインテールにするときもある。


関 奈々(せきなな) 漫研と美術部。登頂てっぺんお団子ひとつ髪のメガネっ子。


城市義孝きいちよしたか サッカー部所属。かなり活発。ルミが好き。


坂口アンリ(さかぐちあんり) イジメの首謀者だが、レイカ達によりグループを抜ける。神威達に見張られてるので怯えている。

「レイカは今日も学校を休むって。調子が悪いみたい」


 学校での休憩時間に、亜美が沈んだ声でぽつりと零した。

 うちわで扇いでいた手を止めて、ナナが神妙に訊ねる。


「体調が悪いってどんな風なの?」

「なんか、こう、身体の中に穴がぽっかりと開いたような感じなんだって……私もルミとナナも、レイカちゃんをお見舞いに行って顔を見たけどやつれてたよ。ごはんも喉を通らないみたい。あんな姿見たの初めてで、どうしたら良いのか」


 亜美やルミ、ナナはとても混乱している。 

 それを見たヒジリがアフターケアはちゃんとしてるのになぁと心の中で落ち込んだ。


「こんな時、何でも治せるお薬があれば良いのになぁ」

「心の病気を治す薬のこと? すぐに効く、都合の良いお薬があるなんて聞いたことも」

「ん~、ん~、ユニコーンの角があればなぁ」


 腕を組み、やじろべえのように身体を左右に振りながらヒジリはニコリと笑った。


「ほら、ユニコーンの角には癒しの力があるって言うし」

「そ、それっておとぎ話の物語でしょ?」

「漫画とかにもそういうのあるけどさ」


 ルミとナナが興奮しながらヒジリにつかみかかった。

 漫研に所属してる少女二人は、漫画やファンタジーが大好きなのでたまにオタク心が顔をもたげる。


「ユニコーンなんてこの世界にいるわけないじゃない……いたら真っ先に私がつかまえ…ゴホン、探してるよ」

「わたしも…普通の馬ならいるけどさ…ユニコーンじゃねぇ」


 ルミとナナが二人でねぇ、なぁ、とモジモジしながら話すところにヒジリの瞳が輝いた。


「え~~、いると思うけどなぁ、じゃあ神威に聞いてみようよ」


 周囲の人間を押しのけて、四人は神威に突撃した。

 彼はヒジリを見つけると、周囲にいたクラスメイト達を手で遠ざける。

 クラスメイト達は自らの席へと残念そうに座ると、彼らからの視線がチクチクと体中に突き刺さった。


「ヒジリ、どうした?」

「エヘヘ、ユニコーンはいるよね?」


 ヒジリへの頬をやわりと撫で止める神威に、ちらりと二人へ目を合わせると大量の汗を流していた。


「あは、あはは、神威君、ヒジリは冗談で言ってると思うんだ、ね、ルミ、ナナ」

「あは、はは……ヒジリってばおかしなこと言うよねー……いや、ヒジリの悪口ではないんだ、ね、ナナァ!」

「そうだよぉ、決してヒジリを拒否してるわけではひぃ……」


 亜美とルミ、ナナにちらりと一瞥すると、なぜか三人は小さく悲鳴を上げる。

 神威がまぶたを閉じて無言で天井を仰ぐ姿を見て、三人が申し訳ないと心の中で陳謝した。

 

「ね、ねぇ~、やっぱりユニコーンなんていないんだよ、神威くんゴメンね変なこと言って」

「そんなことないみょんぶおぉっーー」

「ヒジリぃ~、もう黙ってようねぇぇ」

「ヒジリは夢があるなぁ、もう、ねぇ~~!夢は、見るだけに留めようねっ!」

「モギョモゴゴゴゴオォッ(夢は叶えるためにあるんだよぉ)」


 亜美がフォローしてほっとしたのも束の間、ヒジリがおバカ発言をするのでルミがヒジリを拘束してナナがヒジリの口を塞いだ。いつもならヒジリを助ける神威が動かない――そしてモゴモゴとあばれるヒジリを上から押さえつけているルミとナナの三身一体攻防な図ができたためクラス中がシーンと静かになった。俺達わたしたちは何も見ていないぞと、おもに神威からの被害を受けないようにしている。


「あらぁ、みんなで何してるのぉ?」


 そこへ軽やかなで甘やかな声が飛び込んできた。

 波打つ艶やかな黒髪美少女、ナイスバディなその出で立ち、潤んだ瞳で見つめれば三秒で相手が堕ちるという大天使アリエルの再来だと彼女のファンらは言う。


「週末、うち(ランカム教の神殿)に集まってくれない?」

「モゴモゴ?モゴモゴォ??モッゴォォ(うち?うちでパーティでもするの?やったぁ~)」

「ふふ……それよりもっと楽しいことよ」

「モギョ?モギョモギョォォ(パーティではない?アリエル教えてよぉ)」

「週末になるまでのお楽しみ」

「モッギョォォ~~(お楽しみがたのしみぃ~~~♪)」

「良かったな、ヒジリ。俺も楽しみだ」


 ヒジリ大好き3人組はどうして会話がかみ合うのとか、亜美とルミとナナはいまさらかと心の片隅に雑念を置き去った。




 ―――



「「「こんにちは~~!」」」

「いらっしゃい、みんな!ささ、うちにようこそ~」

「イヤにリアルな像だよね、しかもデカいね……」

「この像はオーディンて言うんだよ。北欧の神様。わたし達を守ってくれる頼もしい神様像」


 この神殿に危機が迫るとオーディンの魂が宿るように設定してある。ヒジリ馬鹿の神威と愛理が、技巧の神に頼んで作ってもらった至高の一品だそうだ。

 居酒屋を始めたときに酔っ払いがヒジリに向けて拳を向けたので、オーディンの剣筋がひと撫でしたのを覚えている。酔っ払いの頬にぱくりと傷が開くと、悲鳴を上げて倍額の費用を払って逃げ出した。


 そんなオーディンのことをヒジリは頼もしく思っている。いつかは彼とも話したい。ランカムには内緒で、この像を見上げるたびにあなたはカッコいいよねといつもベタ惚れの言葉を賛辞していた。彼ら神々は褒められるのも大好きなことを知っている。だからヒジリはいつも出し惜しみせずに話しかけていた。

 

「……亜美ってば、前にもここに一人で来たの?」

「正確には愛理さんに連れてきてもらったよ」


 ランカム教の神殿におそるおそる足を踏み入れるルミとナナは、亜美に手を引っ張られながら中へと入った。敷地内がとにかく広い――バラ園とそこかしらに花々が咲き乱れ、美しいチョウチョと小鳥がお出迎えしてくれた。

 ここは天国かとルミとナナは目を瞬かせながら歩くと大きな池には美しい錦鯉が。通り際に口を開けてパクパク開けて挨拶してくれる。亜美が手を振るとパチャンと尾を叩いて池の中に潜っていった。

 小道を通り、黄金の扉を開くと神々しい店内が見える。黄金の居酒屋て初めて見た――と、ルミとナナはガン見した。朝だからか、ランカム教の信者さん達がほうきで掃き掃除していた。会釈するととびきりの笑顔を返される。

 

「門戸さん、亜美ちゃんと、こちらルミちゃんとナナちゃん。私の友達でーす」

「ヒジリお嬢さんにお友達が!ジュースでもどうぞ!」


 いらっしゃいと声を掛けられたのは居酒屋の店主に任命された門戸栄一郎で、ヤクザの様相ながら包丁片手にとても綺麗な笑顔で応対した。差し出されたのはカルピスジュースで、三人はジュースの入ったコップを受け取り見て、門戸栄一朗を再度見た。


「あわわわ…!や、ヤーさん…!ではない?」

「めちゃ優しそう!」

「門戸はうちの執事と店主を任せている。そして他の店員はランカム教の信者だ。他にも質問が?」 


 美しい黒髪で、光の屈折が交われば銀色にも見える。

 外国人でも十分通る麗しの神威が厨房から出てきた。

 その手には三人分のお弁当と水筒が見える。


「ほら、ヒジリの分。リュックに詰めような」

「うん!ありがと、神威!」


 ユニコーンの形に見えるリュックにお弁当を詰める神威だが、三人心の中で主夫だと一致した。


「あ、いらっしゃい、みんな。さぁさぁ、行くわよ」


 そこへ愛理の声が響く。上は白のブラウス、膝丈のカプリパンツとやけに軽装だ。ヒジリとお揃いのユニコーンリュックを背負っている。つば広の帽子を深くかぶり直して神威も準備をとせっついている。


「あ、そういえばどこへ」


 軽装で少し歩くと言っていた。

 これから一緒に遊びに行くということは遊園地か、はたまたピクニックか。みながワクワクしながら愛理の言葉を待つ。

 

「迎えが来るはずなのよ」


 ピンポーン


「来たわね。えっと、じゃあみんな、バスに乗り込んでちょうだい」

「バス??」

「愛理さん、ここからバスに乗るんですか?もしや貸し切り?」

「いいえ、貸し切りではないのよ、他にも乗客はいます。ただ、バスの窓はぜったいに開けないようにね」


 手足がもげても知らないわよと、言いながら、黄金に光るバスの目の前に一同は集った。

 ナニコレ、こんなバスある?

 何でこんな後光が差してるの?とか。

 バスってこんな長かったっけ?とか。

 

「……愛理ぃ、これ天の」

「さぁさぁ、行くわよ、ヒジリと神威と愛理、生まれて初めてのピクニックへゴー!」




 ゴオォォッ!!




「……!」


 景色がパッ、パッと切り替わる。

 知っていた町から空へ。雲を突き抜け、飛行機を垣間見る。外国の戦闘機に追いかけられてフルマッハで数機を撒く。

 運転手がそれらを満足げに見つめながら、スピードをさらに上げた。大気圏内を抜けて宇宙へ行くと地球が見える。



「「「はぁぁっ??」」」

「ワープしまーす!」


 愛理の横に座っていた竜もどきにギュッと抱き着き、ルミの横に座っていたおじいちゃんにしがみつき、ナナの横に座っていた大きな麒麟のしっぽを三人それぞれギュッと掴んだ。


「ワープ、ワープ♪」

「ヒジリは怖くないか?」

「ううん、大丈夫だよ。でも二人の手をつながせてね」

「ふふ、どうぞ」


 最後尾に神威の膝上に横座りするヒジリは、愛理と神威にすり寄った。

 二人はるんるん気分でワープの最中を体感する。


「人の身体で体感するのは初めてだな」

「えぇ。バスごと神力で覆わなければ、わたし達の身体も吹き飛んでるかも」

「怖いことを言う――ヒジリ、大丈夫か」

「うん、大丈夫だよ、神威も愛理も心配性だなぁ」


 ヒジリがわくわくしながら前を歩くと、亜美とルミ、ナナは気絶していた。


「あちゃー……」

「おかしいわね」

「人間は慣れてないからしょうがないかもな」


 気絶した三人を愛理と神威が溢れ出る神力で癒すと、みなの意識が回復した。

 

「はれ?」

「三人ともバス酔いしたみたいで気絶してたのよ。大丈夫?」

「はふ……大丈夫れす」

「なんかこの麒麟もどきの方が気になるので大丈夫です」


 後光にまみれた運転手がくつくつと笑いながら、バスの入り口を開けた。これから楽しいピクニックの始まりである。


「なぁ、今日は森コースだけか?」

  

 最後尾でバスを降りる神威に、運転手が聞いてくる。

 思案するものの、行き当たりばったりのピクニックだけに神威は言葉を詰まらせた。


「何か用があれば言ってくれよ。私ならいつでも力を貸すよ」

「助かる、ミカエル――」

 

 ヒジリと愛理の後姿を名残惜し気にいつまでも見つめるミカエルに、神威は苦笑いしながら彼と別れた。長きにわたる友である戦友は、神威が人間界に降りても大らかな心の持ち主だった。




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