FIVE of COINS 天使による裁きとは
今回の話はゲスイです。
「ちくしょう、ちくしょう!どいつもこいつも俺をバカにしやがって……!」
バレーボールのサーブを天陽愛理にぶつけたら、もの凄い剛速球でボールがぶっ飛んで返ってきた。気づいたら俺は保健室のベッドの上じゃねぇか。保健の女医もすでに帰宅しているし、ふんだりけったりだな。
「まぁいい。俺にはまだこれがある」
押谷麗華は俺を楽しませてくれるに違いない。持ち物検査で没収した漫画は押谷をおびき出す格好のエサだ。これをチラつかせれば飛んで火に入る夏の虫ってな。俺の手のうえで虫のように踊ればいいさ――と、そういえばすでに夕暮れだ。職員室に向かい、自分の机に行くとそこにはすでに押谷がいた。
「あ……真狩、先生」
訝しげな表情をした押谷が居た。
「おう、押谷か。没収した漫画はここには無いんだ。ついてこい」
「はぁ……」
体育館の旧倉庫は今は誰も使ってない。しかし体育館の鍵は体育指導である俺が持っていた。暗がりの中に俺がまず入り、ランプを点けて中に入ると漫画を探すフリをする。
「ちょっと先生、こんな場所に漫画を置いてたんですか?」
「いやぁ……バッグに入れたはずなんだが……すまんが押谷は奥の方を探してくれんか」
「はい……」
憤慨する押谷をさらに奥へと進めさせる。
そして俺は旧倉庫の鍵を内側からかけた。
「先生?なんで鍵なんて……」
ジリジリと後ろに下がる押谷に、俺はくくっと笑いながらスマホの画像を取り出した。
「これ見てみろ。誰だろうな」
「!」
「な……わ、私?」
陸上部の部室なんてどの角度から隠しカメラを仕掛ければ撮れるのか、調べりゃ簡単にわかるんだ。あられもない下着姿に、押谷は身体をぶるぶる震わせて携帯を奪いかかろうとしていたが――
「残念、これパソコンのファイルにも添付してるだよな」
「止めて……止めてくださいっ」
「没収されたらみんなに見られちゃうよな」
「~~~っ、捨ててください、お願い、します」
「――ッ!」
勝った!この女子高生に!
昂った気持ちを落ち着かせるように、押谷に切り返した。
「お願いしますだろ?気持ちが籠ってないんだよなぁ」
「ふ……ぐ……」
号泣している押谷をもう少しで陥落させられる。
「人にお願いするときは、ちゃーんと気持ちが籠ってないとダメなんだぞ?押谷ぃ……」
慄いていた押谷は、指示通りに口を使って奉仕してくれた。その恍惚感と来たら、脳天が、下半身がしびれだす。愉快過ぎて笑いが止まらない。
玩具ゲ――――ット!!!!
俺は女子高生の身体を存分に味わい、弄び、快楽を叩き込んでオンナとしての悦びを俺自ら教えてやった。イヤがってる割には腰も動いてるし、何より中がもの凄く蠢いている。言葉よりも身体が気持ちが良いと雄弁に語ってくれていた。
「明日はこの隠しカメラをお前が仕掛けるんだぞ」
「な……そ、それだけは」
「でないとこの行為は、お前だけが受け止めることになるんだぞ? 他にも分担してやらないと、お前がツライだろう?」
悪魔のささやきってこんな感じだろうか。
俺は押谷にできるだけ優しく囁いてやった。
「天地聖と、天陽愛理に仕掛けろ」
「そ、そんな――!」
「この二人に仕掛けたら押谷は免除してやろう」
嘘も方便ってな。俺の中にあるくすんだ笑い声が木霊した。あぁ、女子高生を味わうのってなんと甘露なことだろう。そしてまだまだ味わい尽くし足りない。そして次はあの転入生二人を存分に味わいたい――俺は、二重となった笑い声をひしゃげて笑いあげた。
――――――
次の日。
体育の授業も終わり、一日はすでに終わっていた。
今日どんな授業をして、亜美たちと何を喋ったのか、ヒジリ達とどんな会話をしたのかさえも思い出せそうにない。それくらい呆然として過ごしていたのもある。
とても後ろめたいけれど、あんな行為を繰り返されたら自分は正気を保っていられない。
いつもの教室では二台の隠しカメラを仕掛けた。
一つはヒジリの方へ向けて。もう一つは愛理に向けて。
これがキッカケでみんなから絶交されても仕方ない。だけど、真狩に抗える力も無い。こんな自分がみじめになってしゃくりあげた。ダメ過ぎるこんな自分では亜美たちに合わせる顔も無い。
それでもどうすれば良いかわからなくて、できるだけ普段通りを心掛けた。
後ろから神威に話しかけられるまでは――
「なぁ、レイカ。その隠しカメラをどうするんだ」
「カメラって何のこと?私は別に――」
「この花瓶の花の間にあるのと、本棚の隙間にあるもののことよ……レイカ、それを真狩に渡すつもり?」
すでにみなが下校したり、部活して帰る生徒らが校門を抜けるところだった。それらのタイミングを見計らって、隠しカメラを真狩に渡す算段だったのだが――
「このカメラにはヒジリが、そっちのカメラには愛理が映ってるんだよな。小さくて高性能だが、映すものを間違えてやしないか」
「無断で下着姿を映されて、真狩先生に渡されるのが私だけならまだしも、ヒジリともなると許せないのよね」
神威と愛理の瞳が金色に光る。普段ならその不可思議な現象に追及したかもしれないが、いまはとても混乱していたのでそれどころではなかった。
「だってしょうがないでしょう! 私は脅されて身体を強要されてる身だし、カメラ仕掛けないと分担できないって――」
涙をとめどなく流し、崩れ落ちるレイカの頭に神威の手が優しく触れた。
「亜美とルミ、ナナとヨシタカ、それにヒジリがお前を心配していたぞ。レイカが壊れそうだって……」
「記憶の隠蔽はさせてもらうわね。身体は完璧には治らないけれど、これからはわたし達に任せてちょうだい……」
ふぅっと光が脳内いっぱいに溢れてきた。
意識がどんどん薄れていく……
「ヒジリ、レイカを任せて良いか」
背中に白い翼を大きく広げたヒジリが、神威から麗華をそっと受け取った。これから神威と愛理と別行動で、ヒジリが麗華の家に行き、レイカのベッドに寝かしつける役割を担う。
「うん、でも、わたしもそっちに行かなくても良いの?」
「今日は荒れるわよぅ……良い子のヒジリは見なくても良いの!」
愛理と神威に頬に軽くキスされてから、ヒジリは教室から瞬時に消えた。
「ふふ……幽鬼に取り憑かれているとはいえ、キッカケを作ったのはほかでもない真狩のせいよね――オイタしたら調教しなくちゃいけないわね」
「調教か……あいつ目にしてそんな生ぬるいことできるかどうか――」
ヒジリに関してはとてもじゃないが天力を抑えることができない。
二人して目当ての自宅にたどり着いた。
****
男の部屋の中で、パソコンを見て興奮している真狩がいた。
その男は女子高生のあられもない姿をカメラでおさめて趣味に没頭していた。
「隠しカメラでスカートの中を撮るのは止められんな!」
男は溜まっていた欲を存分に吐き出した。
そして昨日のことを思い出してはまた自身を強くする。
「押谷は具合が良かった!あんな玩具はこれからまだまだ使わなくてはな!これは教育的指導――だ!」
昂っていたものを出しての繰り返しで、今度はヒジリと愛理の姿を思い浮かべる。
「天陽愛理に至っては年頃にしては胸がデカいし、天地聖はあの無垢な姿が麗しい。ロリコンではないが、背徳感が実にある!あの顔と身体を汚したらと思うとヨダレがたまらん――っう!」
思う存分欲を吐き出すと、真狩の携帯に電話がかかってきた。
「(非通知か――)誰だ」
「私です、先生。押谷です」
「おぉ、押谷、待っていたぞ!」
「近くの公園で待ってます」
ブツっと通話が切れた。
真狩は遊具のある公園へと急いだ。
ここでも玩具は遊べる。そのことにほくそ笑んだ。
だが暗闇の公園を見ても誰も居ないではないか。
「押谷、どこだ……?」
「ここですよ、真狩先生」
制服姿の天陽愛理が、笑顔でブランコに座っていた。
「何だ、天陽か……いや待てよ、ということは押谷はバラしたのか?」
ずかずかと、愛理との距離を縮め、顎を持ち上げる。
くちゅ、と唇を合わせると唾液が零れて愛理にいっそうの魅力が溢れ出る。大きな胸をもみほぐすと、愛理は小さく喘ぎ声を零した。
「んっ……んっ……いえ、レイカはちゃんと己の職務を全うしましたよ?」
「ならばなぜ、ここに?ぐっ……?う……っ?」
「それは真狩先生が分かっているのではないのですか? ねぇ、神威」
身体がしびれて動かない真狩に、白剣を携えた神威が現れた。真っ白い上下の礼装に背中に大きな翼を広げて神々しいが、黄金の瞳とは裏腹に剣呑な雰囲気を含ませてとてもじゃないが直視できなかった。
「さてどうやって料理してやろうか」
「お前が神威だと?なぜ翼が――そうか、分かったぞ!お前はランカム教に出てくるランカムにそっくりで――ッ」
「ほう、その通りだ。セントベリエンヌではランカム教の教えも広まっているのか――そうかそうか。ならばやり易いかもな」
真狩はランカム教に伝わるという、大天使ランカムを思い出していた。その白い剣は一振りで悪を斬り光に帰すという。大天使ミカエルに次いで力の強い地上に降り立った大天使ランカムは、一切の慈悲を悪には見せることはないという、恐れられた存在だとも――
「ま、ま、まさか……!イヤだ、止めてくれ!」
「天力を抑える自信が無いんだ。悪いけど、向こう五千年は転生することを諦めてくれ」
「悔い、悔い改めますとも!お願いします、ランカム様!五千年も転生できないとなれば俺はぁぁ!」
「五千年は地獄にいなくちゃダメですものね。でもダメよ、五千年の地獄入りは、大天使ランカムと大天使アリエル二人の同意を得たのでこれは決定事項です」
これはジャッジうんぬんよりも、天の意思と守護者たちの意向も含まれている。
そして大天使二人の決定事項は覆らない。何故ならば――
「お前はヒジリを陥れようとした。ヒジリは、俺のすべてだ」
「わたしのすべてでもあるのよね」
白い剣を一振りすれば、真狩と真狩に憑いていた幽鬼が絶叫を上げて地に伏した。うめき声を上げながら許しを請うが、まだまだ、彼らにはやるべきことがあった。
「死神が来たか」
『この亡者を連れて行く……異存はあるまいな』
「さっさと連れて行ってくださいな。あ、でも骸はそのまま、こちらに渡してもらいます」
真狩という人間を世界から抹殺するということは、こちらの世界でも手順を踏まなければいかないことを、ランカムとアリエルは知っている――だから交換できる魂を死神から渡された。
『さきほど入れ違いで死んだ犬の魂だ。まだそちらの方が無垢だろう。それを容れ物に入れると良い』
「感謝いたしますわ、カロン」
『ふん、私のお気に入りのヒジリを陥れようとするにはまだまだ甘いが……こちらでも、地獄でも報いを受けてもらえば良いか……』
「ではな、カロン」
『いつかランカムと戦える日を楽しみにしていよう』
「そんな面倒くさいの、俺は眼中に無いから」
髑髏の面を被り、黒いマントをすっぽりと包んだ死神は不気味な笑みを浮かべながら現世から消えた。
「あ、見てランカム」
「ふ……この男、施設に入れられるだろうな。警察に通報しとくか」
この男の最後を見て、ランカムは携帯で警察に電話した。
通報目的は公園で怪しき人物がいるとのこと。
犬のようにしきりに足を上げて用を足しているこの男を見収めて、ランカムとアリエルは自分たちの家に帰った。
ランカム教の神殿に帰ると、玄関からヒジリが飛び込んできた。
「お帰り! ランカム、アリエルゥ~!!!」
ヒジリが泣いていたので二人は慌てる。
どうしたのかというと、寂しくなったのだと。
「二人が帰ってこなかったらどうしようかと……!うぅ……うぇ~ん!」
「ヒジリ……!あぁ、なんて可愛い……久しぶりに一緒にお風呂にいででっ!」
「や~ね~、ランカムったら。ヒジリと一緒にお風呂に入るのは私とでしょう?さぁ、ランカムはこれの処理と、もろもろ(・・・・)の処理もお願いね」
アリエルに手渡された二つの小型カメラ。これをさっさと壊せというアリエルからの圧力をランカムはひしひしと感じた。
「任せてくれ」
「ありがとう、ランカム」
手のひらの上にある小型カメラはボウッ!と火が纏い焦げて、終いには消え失せた。それと、真狩の部屋にあるパソコンだ。あれも時空を手探りして壊すには造作もなかったが――今回の件は胸糞悪くてヒジリにはどうしても見せたくなかった。
「あの、ランカム……」
「ん?」
振り向きざまにヒジリからちゅ、とランカムの頬にキスすると、照れたヒジリはアリエルと共に浴室に消えた。
幸せな気持ちが胸にじんわりと広がる。自分達の幸せはヒジリと共に永遠にあるのだと自分に刻み付けた。